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大団円の意味

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 とまで考えていたのかも知れない。
 それが、あゆの気持ちの中での鬱状態だったのだ。
「彼に取らせる責任」
 それは、別に結婚してもらおうとかいう思いではなかった。
「自分を離婚させようとした責任」
 である。
 別に遠山は、あゆの離婚を望んでいるわけでも何でもないのに、あゆの話を聞きながら、
「ひどい旦那さんだ」
 と言って、最初の頃に煽っていたりした。
 遠山とすれば、
「そういう態度をとると、あゆに、いい人だと思われるからだ」
 と思っていたのだろうが、その無責任な言動が、あゆに離婚を決意させることになったのだ。
 あゆは、それを被害妄想だと捉え、そんな被害妄想を感じさせた遠山が、悪いのだと思うようになった。
 それが鬱状態における精神状態であり。あゆに対して、遠山は、
「絶対に責任を取らせないといけない人だ」
 と感じさせたのだった。
 もちろん、そんな発想をあゆが抱いているなどと、遠山も、、夢にも思っているわけではなかった。そのため、せっかく連絡を取ってくれたあゆに安心感を覚えてしまった。その瞬間、それまでの立場が反転してしまったのだ。
 それからのあゆは、必要以上に甘えてきた。そのうちに、あゆが怪しい声を漏らすようになってきたのだ。
「ねぇ、私のこと、好き?」
 と、甘えた声で言ってくる。
 今までのあゆであれば、そんなことを言ったとしても、それは、もっと、アバンチュールを感じたいという、ドキドキ感が伝わってくるものだが、とにかく、甘い声なのだ。
 遠山も少しだけ、
「今までと違う」
 と感じていたが、何しろ童貞男からすれば、そんな感情は一瞬にして吹っ飛んでしまった。
 完全に、主導権はあゆに握られてしまった。
 あゆはそのまま、身体のどこかを触っているようで、受話器の向こうからは、完全に濡れた吐息が漏れている。
 あゆの声を聴きながら、興奮は次第に最高潮になっていき、今まで自分にはないと思われた、S性というものが、芽生えた気がした。
「ほら、もっと触ってごらん?」
「どこを触っているんだい?」
 などと、相手を煽っている。
 それを聞いてあゆも興奮が高まってきて、お互いに完全に二人の世界に入り込んでいた。
 どちらからともなく果てると、相手も果てていた。お互いに吐息が重厚な空気を満たしている。そんな状態に、お互い何も言えなくなった。
 気まずい雰囲気になると、どちらからともなく、
「電話切るわね」
 と言って、電話を切ってしまう。
 そして訪れる、憔悴感と罪悪感、あゆの方は、
「完全に相手が悪い。責任を取らせると思っているのだから、罪悪感は相手が抱くことはあったも、自分が悪いわけではない」
 と開き直っていたが、遠山の方の気持ちはどうしようもなく、罪悪感だけに苛まれている。
 だが、冷静になってくると、
「あの人、あんな女だったんだ」
 という気持ちが冷静さを取り戻させる。
 しかし、この快感は、そう簡単に忘れられるものではない。またお互いにどちらかたともなく電話を入れ、最後には、濡れた吐息に包まれて、果てるのだった。
「こんなこと、いつまで続けるんだ」
 と、思いがらも、やめるわけではない遠山は、流れに任せるしかないと思っていると、そのうちに、あゆが何を考えているのかということを知りたいという気持ちになってきた。
 だが相手は何も考えている様子はない。電話の声は最初からまるで魔法にかかったかのような甘え声なのだ。
 まさ、あゆが、責任をこちらにすべて押し付けて、このような行為に及んでいるなどと、思っているなど想像もできない。
 遠山の感覚では、相手に責任を押し付けるなら、自分は潔癖でいるという感覚があるからだ。
 そもそも、勧善懲悪な気持ちの強い遠山には、あゆの考えや気持ちがまったく分からない。
「あの人には、罪悪感というものがないのか?」
 と、すでに心は離れていると思いながらも、あの快楽から逃れることができそうにもない遠山は、自分がモテなかった高校時代を思い出していた。
 高校時代の遠山には、好きな女の子がいた。
 どうして好きになったのかというと、
「制服が一番似合う女の子だ」
 と思ったからだ、
 清楚な雰囲気であったが、胸もお尻の張りもまさに自分の理想とするものだった。あどけない幼女のような表情とのアンバランスに、遠山は、自分でもどうすることもできないと思うのだった。
 制服で選んだという感覚が、遠山には罪悪感があった。まだ、顔や身体で選んだという方が健全な気がした。
「これじゃあ、変態じゃないか?」
 と考えたのだ。
 確かに、遠山は制服フェチだった。しかも、制服と言っても、コスプレ全般というわけではなく、
「女子高生の制服」
 が好きなのだ。
 セーラー服でもブレザーでもどっちも好きだ。
「特に、紺色のニーハイは、興奮するに値する」
 と思っている。
 大学時代にちょうど、紺のニーハイが流行った頃には、思わず女の子を追いかけてみたくなるような衝動に駆られるほどだった。
 ただ、当時くらいから、ストーカーというものに対して、世間が騒ぎ始めたこともあって、下手なことをしていると、警察に捕まっても、文句は言えない。
 だが、どうして、こんなに制服が好きなのかというと、それは、
「遠山が童貞だから」
 というところに落ち着くのだろう。
 特にまったくモテなかった、中学、高校時代。バレンタインデーや、クリスマスなどは、地獄の日々のように思っていた。
「俺にとっては、一年のうちの一日でしかない」
 と言っても、それは強がりでしかない。
 別に気にしなければいいのに、そんな時に限って、校庭の裏で、チョコを渡して、告白しているシーンを見たりする。
 そして、もらっている男は、普段からモテるやつで、
「なんで、あいつばかりが」
 と思うのだ。
「女の子も女の子だ。いくつももらっている男に、何が悲しくて渡さなければいけないのか? 競争率が激しくて、どうせうまくいきっこなどないのにな」
 と言いたい。
 それでも、チョコをもらう方も、あげる方も嬉しそうだ。こんな茶番を毎回見せられる方は溜まったものではない。
 ただ、一度、チョコをもらったことがあった。
 そのチョコは本命にあげようと思っていたのを、その子がどうやら、本命の相手が他の人にもらっているのを見て、ショックを受け、それで、遠山にあげたのだ。
 彼女の言い分としては、
「他の人なら、その気になられると困るけど、遠山君だったら、本気になられることなんかないから気が楽なのよ」
 ということであった。
 すでにひねくれた思いを抱いている遠山は、女の子からチョコをもらっても、まずは、疑ってかかるだろうという思いが女の子側にあり、変に他の人のように、チョコを渡してしまったことで、自分に気があるのでは? と思わせることへの罪悪感があるのだろう。
 しかし、遠山だって、実際には、もらえないとは絶対に思いたくない。せっかくくれたのだから、最初は、勘違いだってするだろう。
 だが、冷静に考えると、
「俺を好きになってくれる女の子なんか、いるはずはない」
 と思うことで、嫌な思いをする自分が、これまた自己嫌悪に襲われるのであった。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次