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交わることのない上に伸びるスパイラル

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「ああ、遊びに行きたい時は、この人たち、趣味を一緒にする時はこの人たち、勉強する時はこの人たちって、役割を考えれば、その時々で一緒にいる人を友達と呼べばいいんだよ」
 という。
「何か、むなしい気がするんだけど?」
 とさくらがいうと、
「そうかな? 本来なら、それを友達だといって、線引きする必要もないと思うんだけど、どうしても、友達を増やしたいという思いがあるのなら、そんな人たちを友達と呼べばいいだけだということだと思うよ」
 と、彼は言った。
 それを聞くと、どうもまだ納得がいかないのか、
「うーん」
 と言って考え込むさくらに、
「ね、考え込んでしまうでしょう? 友達って、考え込んで作るものじゃないんだって思うよ。なんでもかんでも友達というのも、どうかと思うけど、でも、普通に自分の行動範囲にかかわってくる人を友達と思うというのでは、何がいけないというんだろうね?」
 というのを聞くと、
「確かにそうかも知れないわね。友達って、意識して作るものではないというのは分かる気がするわ。きっとみんなも同じことを考えているのかしらね?」
 とさくらがいうと、
「そうかも知れないけど、皆そこは無意識なんだよ。わざわざこだわるという人は少ないと思うよ」
 と、彼はいうのだった。
 さくらは、桑原と話していると、
「今まで知らなかった世界を教えてくれるような人だわ」
 と感じた。
 いずれ、ある程度のことを話せるようになれる人ではないかと考えていたが、そう思うと、
「かずさと一緒にいなくても、この人と一緒なら」
 と、感じることのできる人になりそうに思うのだった。
 今まで、男性を意識したことがなかったので、今までの自分の感覚とは違っていて、
「こんな時、かずさだったら、どう思うんだろう?」
 と、考えていると、かずさを、客観的に見ている自分を感じた。
 かずさと仲良くなってから、こんな感情は初めてだった。
 確かに、
「こんな時、かずさだったら、どう思うだろう?」
 考えたことはあったはずだ。
 だが、中学時代、高校時代であれば、おぼろげにだが、分かったものが、大学が違って、離れてしまったことで、分からなくなっていた。
 高校時代までは、自分が考えたことが正しいと思うようなところがあったので、かずさに対しても自分の考えが正しいと思って、その通りに思えば、それが間違いではないと思えたのだ。
 しかし、今は少し距離を感じることで、自分の考えに信憑性を持てなくなった。それが、客観的にかずさを見ているからだと思っていたが、実はそうではなく、
「二人のことを、まったく別の世界から見ているからではないか?」
 と思うのだった。
 かずさがどう思っているのか分からないが、今こうやって感じていることは、むしろ、かずさが自分を導いてくれたことではないかと思うのだった。それだけ、さくらはかずさに対して、全幅の信頼を置いていて、その感情は、無意識のものであることで、余計な気遣いもしないで済んだのではないかと思えた。
 今度はこの気遣いのなさを、桑原にも感じるのではないかと思うと、またしても、胸のときめきを感じてくるのだった。
 今回の温泉旅行は、伊豆半島の山間にある、秘境ともいえるような温泉だという。
 それでも、温泉マニアには、結構知られていて、時期によっては、結構賑わう時があるという。
「あの温泉は、普通に見て、いつ賑わうのかって、結構分からないんですよ。曜日も、月の途中や月末月初なども関係ないらしいんだ。だけど、僕が研究した結果、いつが賑わうかという法則のようなものを見つけたので、その賑わないと言われる時期に、予約を取ることにしたよ」
 と、桑原は言った。
「いつが賑わうのかって分かったんですか?」
 と聞いたが、
「あくまでも感覚でしかないので、ハッキリとしたことは分からないんだけど、僕の中では信憑性はあると思う。でも、口で説明してくれと言われると、なかなかできるものでもないし、感覚だから、分かってくれないだろうと思うんだよ」
 と、桑原は言った。
「そうなのね、でも、よくそんな温泉知っていたわね?」
 と聞くと、少し戸惑ったが、
「うん、秘境と呼ばれる温泉を趣味で回っている人が知り合いにいるので、その人の一押しの場所だったんだよ」
 というのだ。
「そうなのね。楽しみだわ」
 と、さくらは言ったが、この日を境に、桑原との距離が、一気に縮まるのではないかと思うと、ドキドキするのだった。
 出発する日は、彼の案として、来週の水曜日から、金曜日にかけての、二泊三日を計画しているという。
「二泊もする必要があるの?」
 と聞くと、
「うん、あそこは、秘境とは言われているんだけど、温泉の近くには、いろいろ歴史的な遺産が残っているので、見て回るにはちょうどいいんだ。僕の知り合いには、絵を描く人がいて、景色がいいからって、一週間以上滞在している人もいる。その人の話では、俗世を忘れることができてなかなかいいんだって、だけど、三泊以上すると、その俗世に戻りたくなくなるから、ただの旅行だって思うのなら、二泊でやめといた方がいいっていう話なんだ」
 というのだった。
「そういうことなら、ちょうど二泊というのがいいかも知れないわね。そうやって聞くと、二泊がいいというのは分かるんだけど、まるで判で押したような場所じゃないですか。それを聞くと、二泊の人がほとんどじゃないかって感じがするんだけど、どうなんでしょうね?」
 と言われた桑原は、
「うん、二泊の人は多いみたい。でも、あの場所は、芸術家の人も結構訪れていて、小説家や、絵描きの人が逗留する場所でもあるらしいんだ。それに温泉の効用もかなりのもので、病気による湯治を真剣に考えている人も結構いるので、そういう意味で、お客さんが芸術家や、湯治客の人が多い時もあるらしいんだ。だけど、それは皆、それぞれに自分のことだけなので、誰かと一緒ということもない。湯治の人はさすがに、付き添いの人がいるだろうけど、それでも、静かにしているはずだから、そういう客は、客がたくさんいて賑やかだというそんな感覚ではないんだ。だから、逆にそういう人たちが多い時の方がいいかも知れないね」
 というのだった。
「なるほど、さっき、桑原さんが言っていた、賑やかではない時が分かるというのは、この感覚に近いのかしらね?」
 とさくらが聞くと、
「ああ、そうだともいえるだろうね。僕も、ちょっと芸術的なことに興味を持っているので、あの温泉に、何度か言っているんだ。そして、滞在は結構長いんだよ」
 と桑原は言った。
 先ほど、さくらは、桑原が、この旅館を初めていくところだということで、
「よく知っていたわね」
 と聞いたが、実際にはそうではなくて、桑原としては、
「自分が初めて行った時、よくそんな温泉を知っていたのか」
 ということを聞いたのだと思い込んでいた。
 桑原は、意外と相手がいうことを勘違いするふしがあった。
「俺はそんなつもりではなかったのに」
 ということが何度かあり、それは、自分が人との会話をおろそかにしてしまっているからではないかと思うと、感覚的に、気を付けなければいけないと思うのだった。