交わることのない上に伸びるスパイラル
それが、さくらの嫉妬であり。そのせいもあって、さくらの方でも大学で友達を作ろうとしていた
学校で挨拶をするくらいの友達はたくさんできた。しかし、話をする人というと、実に限られている。それも、数分くらいのことであり、かずさとの関係のような人は、皆無だった。
気心の知れたなどという人は一人もおらず、友達を作ることに虚しさを感じていたさくらは、次第に寂しくなってきたのだ。
そんな時、声をかけてきたのが、桑原だった。彼は最初から、さくらのことを彼女にしたいという意識があったのかというと、どうもそうではなかったようだ。だから、さくらも彼に対して、変な意識を持つこともなく、普通にボーイフレンドということでの付き合いが始まった。
ただ、まわりは、二人が付き合っていると思っていたようだ。
だが、二人は次第に惹かれあって、付き合うようになると、桑原の方から、
「入学した時から、気になっていた」
と言われたのは、素直に嬉しかった。
付き合う前は、変な意識を与えられなかったことで、ぎこちなくなかった。きっとそれは彼の独特な雰囲気がそんな気持ちにさせたのだろう。
同世代の男の子というと、もっとズケズケとした態度で、女性と見ると、まるで、
「性欲の対象」
のように見ているのではないかと思い込んでいて、変に男性の視線を感じると、気持ち悪いとしか思えなくなるのだった。
温泉旅行
さくらは、桑原から温泉旅行に誘われた時、気になっていたのが、かずさとの関係だった。
どこかおかしな雰囲気の中で、自分だけが彼氏ができたというのは、かずさに対しての背信行為ではないかと思っていた。
しかし、
「そもそも最初に友達をたくさん増やしたのは、かずさの方だったではないか?」
と思い、嫉妬していたことを思い出した。
いや、思い出したというよりも、今までの自分がかずさに感じていた感情が、嫉妬だったのだということに、ハッキリ気づいた瞬間だったと思った。
しかし、自分がハッキリと感じたその時、
「あれが嫉妬だったというのなら、もう嫉妬を感じていた時期は、通り過ぎてしまったのではないか?」
と感じたのだ。
しかも、通り過ぎたのはたった今のことで、気づいたことで、通り過ぎたのだと思うと、また、何かおかしな感情がこみあげてくるのを感じたが、それは別に悪いことではないような気がしたのだった。
少なくとも、さくらには、かずさに対して、もうぎこちない気持ちは感じないような気がした。
だから、かずさに、
「自分が幸せになっていいのか?」
などという聞き方をしてしまったのだろう。
かずさの方としては、ひょっとすると、
「何を言っているのかしら?」
と感じたかも知れない。
だから、かずさの言葉には、かなり大げさと思えるようなところがあったが、実はかずさには、演技っぽいところがあった。
しかし、それは、かずさが意識していることではなく、無意識に出てくる感情で、人によっては、そんなかずさを毛嫌いしている人もいただろう。
かずさが中学、高校で、さくら以外に友達がいなかったのは、そういうところが原因だったのかも知れない。
そのことは、さくらも薄々ではあるが感じていたことだった。
かずさもさくらに友達がいなかったことは分かっていた。
「さくらは、素直すぎるんだ」
という思いがあった。
つまり、真面目過ぎて、融通が利かない。普通だったら、相手の気持ちを当たり前のように察して、忖度するのが当たり前という友達付き合いの中で、さくらには、融通が利かず、思っている通りにしか行動ができない。そんなさくらに対して、中学、高校時代の生徒は、まるで、さくらがわざと意地悪をしているようにしか思えなかったのだ。
真面目さと素直さというのは、同じではないか。まわりの人たちが勘違いをするほど、さくらの中で真面目と素直は同じ感覚だったのだ。
その理由は。さくら自体が、
「この二つは同じものだ」
と思っていたからであろう。
しかし、それはあくまでも、感覚で思っているだけのことであって、本人は無意識のつもりだった。
もちろん、そんな感情が表に出ているなど思ってもいなかったので、まわりが自分を避けていることも、その理由が分かっていなかった。
それを分かっていたのは、かずさの方だった。
「本当のことを教えてあげた方がいいのかしら?」
と、かずさはかずさで考えていたが、
「いや、やめておこう」
と感じた。
その理由は、この思いはかずさが自分で感じているだけであって、信憑性のあるものではないので、いまいち、指摘することが怖かったのだ。
そんな葛藤がかずさの中にあるなど、さくらも気づいていなかった。
ある意味、二人は気遣っているようで、実は相手のことを積極的に指摘して、諫めることのできるような、完全な友達というわけではなかった。
しかし、それは高校時代までであって、大学に入学すると、それぞれ別の道を見るようになった。
その時、今まで分からなかった二人の関係について、お互いにそれぞれ考えるようになると、二人は、次第に気持ちが近づいて行っていることに、まだ気づいてはいなかった。
どうやら、二人は話をしなくても、お互いのことが同じように気に掛かったり、
「気が付けば、相手のことを気にしていた」
という、今までになかった感覚を、同じ瞬間に感じているようだった。
それは、今までになかった関係を、
「いかに育んでいけるか?」
ということを示しているように感じたのだった。
そんなさくらは、かずさと仲直りができたのも、
「桑原が自分に告白してくれたからだ」
と思うようになり、桑原に対して、自分を好きになってくれたということと同時に、かずさと仲直りできたことへの感謝を感じたのだった。
いや、むしろ、かずさと仲直りができたことの方が嬉しかったのかも知れない。その時になると、
「いかにかずさが、自分のために大切な人間だったのか?」
ということが分かった気がした。
しかも、かずさの方でも同じことを感じてくれているはずだということを、今までにはない自信という形で持てるようになったことも嬉しかったのだ。
そんなことを感じていると、
「お互いに大学生になり、別々の道を進むというのは、お互いの人生を見つめ直すという意味でもよかったのかも知れない」
と思った。
そんなことを感じていた時、現れたのが、桑原だった。
最初は、かずさとの距離に対して、開き直りのようなものを持っていたことがその理由だったが、
「自分に、今までにない柔軟性が出てきたことで、まわりを見ることができるようになったんじゃないかしら?」
と、さくらは感じるようになっていた。
それでも、大学で友達があまり増えなかった。
それを桑原に話すと、
「何も、友達をやみくもに増やす必要はないと思うよ。いざという時に相談に乗ってくれるような人なんて、数人しかいないと思うし、そんな人たちだけが友達でも十分だと思う、それ以外で友達がほしいと思うのであれば、それぞれに役目を設けるといい」
というではないか。
「役目?」
作品名:交わることのない上に伸びるスパイラル 作家名:森本晃次