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交わることのない上に伸びるスパイラル

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 と、いう憶測を巡らせてしまったが、あくまでも、勝手な想像、いや、妄想に近いものだった。
「かずさは、私のことをどう思っているの?」
 などと、聞けるはずもない。
 相手を嫌になれば、相手に嫌われてでも、離れようとするかずさに、さくらに対して、そのような露骨な態度がないことから、少なくとも、さくらを嫌っているわけではない。かといって、
「利用するだけ利用してやろう」
 という雰囲気でもない。
 果たして、何を考えているのか分からなくなることも結構あるのだった。
 二人の関係は、
「しっかり者のかずさに、ついていっているさくら」
 という構図であろうか。
 見た目も、かずさには目力があり、さくらだけにではなく、まわりの人にもその眼光の鋭さが影響しているようだった。
 ただ、まわりの人をまるで奴隷にしているような感じではない、しっかりと気を遣っていて、どちらかというと、
「頼れる姉御肌」
 と言ったところだろうか。
 そういう意味でも、彼女は、結構交友関係は広かった。どうやら、家族のつてもあるようで、ただ、彼女が自分の家族のことをあまり話したがらないので、さくらも、あまり聞くようなことはしなかった。
 さくらの方でも、自分の家族のことをあまり話したくはないと思っているので、そのあたりはお互い様ということもあり、お互いに、
「願ったり叶ったり」
 なのではないだろうか。
 家族のことはあまり話さないが、交友関係については、結構あからさまなところがある。
 前も、さくら以外に困っている人がいるので、弁護士を紹介してあげたところ、
「ありがとう。あの後すぐに解決しました。いい弁護士さんを紹介してくれて、本当に助かりました」
 と言って。お礼を言いに来た。
 どうやらその時は近隣トラブルだったようで、弁護士がどうしても必要だった、彼女はかずさにそういう弁護士の知り合いがいるとは知らなかったが、
「中村さんは、こういう関係が広いので、何かあった時は、相談してみるといいよ」
 と言われていたようで、そのおかげで解決できたのだった。
 その時の話は、かずさから、相手のプライバシーにかかわる部分以外は、話をしてくれた、どのようなトラブルだったのかということも聞いたが、なるほど、弁護士でなければ、解決できないことのようだった。
 それから、かずさには、急に知り合いが増えたようだ。
「何かあった時に助けてもらおう」
 という思惑があって近づいてきたのだろうが、かずさはそんな人たちであっても、決して遠ざけようとはしない。
 中には露骨な人もいたが、さすがにそのような人とは、関わらないようにしていたようで、うまくいなしていたようだったが、そのやり方も、さりげないうまさを醸し出しているようで、皆、彼女に一目置いていた。
 それが大学に入ってからすぐくらいのことだったのだが、さくらも、そんな彼女と知り合いだということを光栄に思っていた。
 かといって、人に対して上から目線ということはなかった。ただ、心の中で、
「かずさと最初に友達になったのは私なのよ。最近のにわか友達とは違うのよ」
 と感じていた。
 それは、人に対して上から目線というわけではなく、あくまでも、
「自分が人とは違う」
 という意識を持っていたいということであり、何もかずさの威光に授かろうというわけではないのだった。
 高校の頃までは、二人とも、他の生徒と話をすることはほとんどなかった。
 二人で、いつも一緒にいるだけで、そこに他の人が入り込むという余地はどこにもなかったのだ。
 それなのに、大学生になって、お互いに別々の道を歩むようにはなったが、最初の頃は、大学の人と一緒にいるよりも、二人で一緒にいる方が楽しかったのだ。
 それが、少しぎこちなくなってきたのが、さくらに、桑原という男がくっついてきたからだった。
 ただ、桑原がさくらに言い寄ってくる前、つまり入学してからすぐくらいの頃、さくらが少しおかしかったことを、かずさは分かっていただろうか?
 大学が別々になり、入学当初は、それぞれお互いのことで忙しいのは分かっているので、連絡が少し疎遠になったとしても、それは別におかしなことではない。
 さくらは、ほとんど気にしていないようだったが、かずさの方では、
「最近、さくらとご無沙汰だわね」
 と思っていたが、
「忙しいのだろう」
 ということで、敢えて連絡を入れることはなかったのだ。
 さくらがおかしかったのは、二つ理由があった。
 一つは、さくらの家族に不幸があったことだった。さくらの兄が亡くなったというのだ。詳しい話は聞けなかったが、普段から感受性の強いさくらなので、さすがに肉親の死というものには、大きなショックがあったのだろう。
 かずさも、あまり肉親の死に対しては気になる方ではないと自分で思っていたが、高校時代に、おばあちゃんが亡くなったのだが、その時もまわりは皆、
「寿命だったのよね。大往生というところかしら? 皆で笑顔で送ってあげましょうよ」
 と言っていた。
 葬儀が進むうちは、それほどでもなかった。逆に、
「笑顔で送ってあげよう」
 と言っていた人たちが、しくしく泣いているのを見て、
「何よ。あれだけ、笑顔で送ってあげようって言っていたのに」
 と感じた。
 そして、よく見ると、笑顔で送ってあげようといっていた人の目から涙は流れていたが、本当に悲しんでいるというわけでもないように思えた。
――これが人間の本性なのかしら? 口言っていることと、本音がこんなに違っているなんて――
 と、大人の世界の汚さを覗いた気がした。
 そんなことを考えていて、葬儀がまるで茶番劇のように思えてきて、次第にこの場にいることを情けなく感じていたかずさだったが、今度は次第に、急に寂しさがこみあげてきた。悲しいという思いがこみあげてきたのだが、それは、最後に。
「皆さんで、安らかな最後のお顔を見てあげてください」
 と言われ、棺桶の中のおばあさんの顔を見た時、なぜか涙が流れてきた。
 心の中では、まわりのすすり泣く声に苛立ちを覚えながら、なぜ自分も、急に泣き出したのかと感じたのが、少し辛かった。
 ただ、その時の自分は、誓って、あざとかったわけではない。知らず知らずのうちに涙を流したのであって、まわりの大人のしらじらしい涙とは違うと思っていた。その時から、
「人が死ぬというのは、どんなに自分にあまり関係のないと思っていた人であったとしても、葬式に出れば、必ず一瞬であっても、本当に悲しいという瞬間にぶち当たるものなんだ」
 ということを感じたのだった。
 そして、もう一つは、
「かずさに対しての嫉妬」
 があったのだ。
 中学時代、高校時代と、いつも二人で一緒だったのに、大学は違うところにいけば、かずさには、いろいろな人が寄ってきているようである。
 かずさは、それまでの孤独な自分から解放されたことを喜んでいるようだった。
――きっと、私なんか、眼中にないんだわ――
 と、さくらは感じたことだろう。
 かずさは、まさかさくらがそんなことを感じているなど、思ってもいないようだった。