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無限の可能性への冒涜

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「一度見た夢は、その続きであったり、回顧するような夢は見るものではない」
 という定説があると思っているので、一度見た夢をさらに発展させるようなものは、もはや夢ではなく、やはり、
「予言のようなものではないか?」
 と考えるようになった。
 そのため、さらに、夢の中でその危惧を解決させるためにはどうすればいいのかということを考えることにした。
 普通の夢では不可能だが、ここは予言であったり、予見の世界なのだ。夢の世界よりもリアルであり、そこには、自分にはない能力を持った自分が存在しているということを感じていたのだ。
「人間というのは、脳の中のほんの一部しか実際には使っていない」
 と言われる。
 だから、超能力と呼ばれる力は実際に存在し、その力がいつ立証されるかということは謎だったりする。
 しかし、謎であるだけに、その可能性は無限でもあった。まるで未来における次の瞬間の可能性ではないか。
 松岡の中で、
「無限」
 という発想は、すでに頻繁に出てくる。
 ここまで頻繁であると、リアルさも増してくるというもので、無限は理想ではなく、現実に存在しているものを示しているのではないかと思うのだった。
 だから、理想や夢だと思われていたタイムマシンへのヒントが思い浮かんだのであったのだ。
 そもそも、それらの発想は、松岡でなくても、誰にでも発想はできるというものであった。
 しかし、それを考えられるようになったことについて、研究室の中の友達である門脇健三という同僚が言っていたことがあったのだ。
 門脇という男は、多趣味な人間で、研究所の助手のような仕事も、彼にとっては趣味の中の一つにすぎないという考えを持っていた。
 松岡も、研究室に入って助手のようなことをしていたが、それは大学内での活動というだけで、
「将来において、これらの研究を役立てられるような職に就ければいいけど、実際にはそうもうまくはいかないだろうな」
 と、現実的には思っていた。
 研究を続けるということは、確かに素人が思っているほど簡単なことではないし、実際に仕事に就く場合、大学で専攻したことがそのまま仕事に生かせるような職業選択がでくるほど、大学の勉強と、求職の関係はバランスが取れていないのかも知れない。
 それほど、世の中のバランスは悪いということなのだろうか?
 ただ、これは今に始まったことではなく昔からあったことで、それだけ、必要なバランスは思っているほどはなく、社会に期待などしてはいけないといえるのではないだろうか?
 門脇は、そのことをいつの頃から意識をしたのか、多趣味だという理由の一つに、そんな、
「バランスの悪さ」
 を口にすることがあった。
「世の中なんて、あてになんかしていると、いつの間にか自分だけが取り残されたような気分になって、無意味に苦しむことになりそうだからな。俺はそんなのは嫌なんだ」
 と言っていた。
「どういうことなんだい?
 と聞くと、
「先輩にもいたりしたけど、お前は今の専攻がそのまま就職の時に役に立つと思うかい?」
 と逆に質問され、
「まあ、確かにそうかも知れないな。俺の知っている人にも、理学系でバリバリ研究していて、そういう会社に入ったのに、研究員を望んでいたはずなのに、営業に回されたといって嘆いていたっけ」
 と松岡は言った。
「そうだろう? 結局世の中なんてそんなものさ、たぶんだか、君の知り合いの人は、ひょっとすると、最初は研究員で入社はしたのかも知れない。だが、途中で営業に変わったんじゃないかと思うんだ」
 と門脇はいう。
「どういうことなんだい?」
 と松岡が聞くと、
「会社というところは、結構厳しい会社だったら、半年の研究機関中に、結構辞めていくことが多いだろう? そして一年も経てば、十人の新入社員がいても、残ったのは、二、三人なんてことざらにある。つまりは、会社って、それを見越して、多めに新入社員を取ったりするんだと思うよ。特に理数系のようなところはよくあることで、研究所や、工場などというのは、都会には作らないものでね。何しろ、都会では土地が高いし、何よりもそんな広大な土地を確保することはできない。そのため、田舎で缶詰状態だろう? そうなると、次第に精神的に病んでくるということだってあるだろう。いくら理数系の人の集中力は半端ではないとしても、何年もやっていれば、その間に精神的に波がやってくるものさ。その時に耐えられなくなったらどうなるか? 考えてみれば分かるよね?」
 と言った。
「じゃあ、知り合いの場合は?」
 と聞くと、
「きっと、研究所への配属を多めにとっておいたんだろうね。辞めていく人を見越してね。でも、想像よりも辞めなかったらどうなるか? 同然、研究室が飽和状態になり、その中の誰かは他の部署に配属されることになる。それが君の知り合いだったんじゃないかな?」
 と、門脇は言った。
「でも、まだ、ここから研究員が辞めないとも限らない。その時は、研究室に再配属になったりするのかな?」
 というと、
「それは難しいかもね。たぶん、翌年の新人を余計に採用することで、補おうとするだろうからね。会社というのは、そういうえげつないようなことをするものだと認識しておかないと、自分が損をしないとも限らないので、そのあたりはしっかり意識しておく必要があると思うよ」
 というのだった。
 松岡が門脇と親友になったのは、門脇が多趣味だったからだ。
 彼の趣味は、専攻している学問とはまったく関係のないものが多く、研究室に所属はしているが、研究の時間以外は、まったく違うことを考え、行動している。それだけ、行動範囲が広く、頭の切り替えが早いといえるのだろう。まったく性格的に正反対で、集中力は半端ではないが、頭の切り替えがうまくいかず、頑固なところがあるのは、
「自分にとって大きなマイナスだ」
 と思っている松岡にとって、門脇の存在は大きなものだったのだ。
 門脇の趣味の中には、
「小説執筆」
 というものがあった。
 そして、その小説を書くのにも彼なりのこだわりのようなものが結構あって、その話を聞くのが結構楽しかったりしたのだ。
 まず彼は、
「小説を書く場合、ノンフィクションや二次創作などは、自分の中での小説とは認めない」
 というものであった。
 ノンフィクションは、実際にあった話を文章にしているのであり、それは、作文にすぎないと思っている。それは小説家ではなく、雑誌や新聞のライターにでも任せておけばいいと考えていて、随筆やエッセイ、それらをいくら広義の意味においても、小説だとは認めたくなかったのだ。
 ただ、細かい設定の中での、枝葉のような話の中で、自分がかつて経験したことなどを折りませるというのは、ノンフィクションにあらずと思っている。もちろん、皆がそう思っていることだろうが、門脇のように、自分の中でこだわりを持っている人間は、確固として考えていないと、自分を見失ってしまいそうになると思っていた。
 そして、二次創作というのも、門脇にとっては、
「小説にあらず」
 と思っている。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次