無限の可能性への冒涜
一歩間違えれば、盗作まがいの話であり、二次創作は、真面目に書こうとすると、盗作の観点から、かなり難しいはずだ。
しかも、元々の原作者がどう思って書いたのかということをちゃんと吟味して二次創作をするのであれば、百歩譲ることもできるだろうが、それもせずに、ただ人の書いた小説を、
「オマージュ」
と称して、たたえているといいながら、何も考えていないなど、ありえないことであった。
二人の出会い
そんなことを考えると、二次創作などというジャンルが確立されていることすら、怒りがこみあげてくるものである。
そのあたりが、門脇のこだわりであった。
だが、彼は、ノンフィクションを書かないわけではない。ただ、それは小説とは別だと思っていた。
それに、彼はポエムも書いたりする。これはもちろん、フィクションではない。しかしノンフィクションでもない。物語ではなく、感情を制限のある文字数で奏でるものだからだ。
彼のポエムは、結構大学内では定評がある。しかし、あまり彼はポエムを自分から書こうという意識はなかった。
「俺はあくまでも、小説を執筆したいんだ」
という思いがあることで、ポエムを評価されるのは、本当はありがたくはなかったからだ。
これも、門脇という男のこだわりであり、あくまでも、
「俺はアマチュア小説家なんだ」
という意識を持っていたのだ。
彼は多趣味というだけ、他にもいくつかの趣味を持っていたが、最近では、他の趣味に費やす時間が次第に減っていった。
時間的にも精神的にも、
「小説執筆」
にかなり陶酔しているようになったのだ。
今では、九割近くが小説を書くことに集中していて、他の趣味はほとんど何もしていない。
「開店休業」
というところか。
たまに、依頼があって製作することはあっても、その程度、
「やっぱり、小説を書いている時が一番いい」
と言っていたのだ。
彼が松岡を親友に選んだのに、理由があった。
「松岡という男の集中力はすごいものがある。きっと何かを成功に導けると思うんだ。おれにないものを持っていて、いずれその成果を出してくれる。そんな松岡を見ていると、俺も成長できると思うし、もっというと、小説のネタになるような気がするんだ」
ということであった。
松岡を題材にして小説を書いても、それは決してノンフィクションではないと思っている。自分が書く小説は、
「松岡の身にこれから起こるであろう内容を、俺が小説として描きたいんだ」
ということだった。
「それって、まるで予言のようじゃないか?」
と松岡がいうと、
「そうだよ、だけどな、松岡。お前にもその予言めいたものがあって、それを実現できるだけの力が存在しているんだ」
というではないか。
門脇には、それが見えているということなのか。
「俺が予言? もしそんなものがあるのだとすれば、それって、夢を見ている時なのかな?」
というと、
「そうそう、その通り、それが分かっているから、松岡。お前にはいろいろな素質や未来が待ち受けているんじゃないかと思うんだ」
と、門脇はいうのだった。
「未来か、未来だけではなく、過去も何かありそうだな」
というと、門脇が急にビックリしたように目をカッと見開いたのだった。
「ひょっとすると、お前がすごい発見をしたのは、本当に必然で、それだけの能力が備わっていて、ただ自覚がないだけなのかも知れないな」
と、門脇は言った。
「お前こそ、言っている内容は信憑性がないように感じるが、お前の話自体を一つの予言だと考えるようになると、そこに信憑性が出てくるような気がする。お前が、俺の才能を認めてくれるのであれば、俺はそれを信用しようと思う。どうしても、恥ずかしいという思いから自分の才能を認めることはできなかったけど、信頼できる人間に言われると信憑性が感じられ、さらに、そこには、責任というものもかぶさってくるのではないかと感じるんだ」
と、松岡はいい、その時、二人はお互いに相手の素晴らしさを認め合い、一目置くようになったのではないかと思うのだった。
二人は、元々、相手の良さを分かっているつもりだった。それも本人が自覚していないと思われる場所を分かっているつもりだったので、
「この人のよさを分かって、気を遣うことができるのは、自分しかいない」
と、それぞれに、奇遇というべきか、感じていたのだった。
だが、二人は研究においては、ほとんど共通点はなかった。相手が何を研究しているのかは、ずぶの素人よりも、少しは知っているという程度で、松岡にとっても、門脇にとっても、その先のことを言っても、本当であれば、
「何も分からないくせに」
と思ってもしかるべきところを、
「予言者のようだな」
と言えるだけ、相手を立てているといってもいいだろう。
普段の二人を客観的に見ている人であれば、
「予言者」
などという言葉を使えば、それは完全に皮肉であるということしか思わないに違いないだろう。
そんな二人だったが、二人が仲良くなるなど、誰が想像したのだろう?
それほど、二人には接点があるわけではなかった。
高校もまったく違っていたし、同じ学部に入学したといっても、五十音順で形成される語学クラスから考えても、松岡の「ま」と、門脇の「か」では、かなり遠いクラスであることは誰も分かっていることだろう。
講義も同じものがそんなにあったわけでもない。少なくとも、一般教養の時期に二人に面識があったという意識はなかった。
二年生の途中から、実際の専門科目が登場してきて、三年制になると、やっとゼミであったり、専攻科目がしっかり固まってくるので、この時初めて同じ研究室に入ることで、知り合った仲間だとまわりは見ていた。
実際にもそうであり、二人のことを、誰もが思っていたことと変わりはなかった。しかし、同じゼミに入ってから、最初こそ、会話などなかったのだが、何かのきっかけからか、二人は徐々に会話をし始めたのだった。
実は、それが門脇の趣味である小説のことが原因だったと、誰が想像しただろう。松岡は、自分で小説執筆などという大それたことはできなかったが、小説を読むのは好きだった。
特にミステリーは、海外小説を中心に読むのが好きで、一度飲み会の時、その会話になると、二人は一気に意気投合した。
確かにその時はとめどもなく出てくる言葉で、一気に距離は縮まったのだが、二人の性格から考えれば、
「今日だけのことだろうな」
とまわりは皆考えていた。
実際に、二人も学校で会話をすることもなく、プライベイトに干渉することはなかった。これはお互いの信念であり、相手が、歩み寄ってこない限りは、自分から話をすることはないと思っていた。まわりもそのことを分かっていたので、そもそも他に共通点のない二人が、あの日に仲良くならない限り、二人が接近することはないだろうと思っていたのだった。
その考えは確かに間違いではなく、学校内でも、学校の外でも会話もない状態が続いた。だが、これはただの偶然でしかなかったが、馴染の喫茶店が同じだったのだ。
二人ともその喫茶店の雰囲気が好きで、
「癒しを求めにやってくる」
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次