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無限の可能性への冒涜

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            開発されたタイムマシン

 タイムマシンの開発としては、令和十年の八月に、
「タイムマシンの開発に成功した」
 と、M大学の、
「タイムパワード研究所」
 だったのだ。
 彼らと並行してタイムマシンの研究は、他の大学でも進められていた。
 それは実は、その少し前に、K大学の、シラサギ研究所に所属する松岡拓郎という青年が、
「タイムマシンの開発は可能である」
 という趣旨の論文を発表したことが、きっかけだった。
 元は、論文などではなかった。
 大学の研究室で、教授の助手程度のことしかしていなかった一人の青年が、レポート程度の発想で提出したものだったが、それを見た教授はビックリして、
「どうしたんだ? この論文は?」
 と、血相を変えて松岡助手に詰め寄ったことがきっかけだった。
 さすがに教授の形相に最初はビックリした松岡だったが、
「ああ、あれは、以前高校時代だったでしょうおかね。ある時、SF小説を読んで寝たことがあったんですよ。その時にあの論文のような夢を見たんですが、何しろ、夢ですからね。すぐに忘れてしまったんですよ。ただ期にはなっていたので、思い出してみたいことの一つだt思っていたんですが、この間偶然、夢にまた出てきたので、今度は忘れずに、書き留められることができたんですよ。夢というのは、普通なら目が覚めるにしたがって忘れていくものなんでしょうが、普通なら二度と前に見た夢を見ることができないはずの夢を見ると、今度は絶対に忘れないものなんですね」
 と、他人事のように言ったが、
「何を言っているんだよ。これはすごい論文だよ。内容は完璧な気がする。これを証明できれば、今は不可能とされているタイムマシンやロボットの開発が、進展するかも知れないと思えるほどのすごいものなんだよ」
 というではないか。
 それを聞いて、一瞬キョトンとなった松岡だったが。事の重大さに気づいてくると、
「そんなにすごいものなんですか?」
 というと、
「ああ、すごいよ。ひょっとすると、物理学や化学の世界で、今世紀最大の画期的な発見になるかも知れないほどさ」
 というではないか。
 そういわれて、
「そんなものなんですかね。僕としては、何やら怪しい予言のようなものだと自分で勝手に思い込んでいたんですけどね」
 と松岡がいうと、
「予言?」
 と、今度は教授がキョトンとしていった。
「ええ、予言です。夢に見たことだから、予言なのかなと思って」
 というと、
「そっか、予言という考えがあるな。そう考えると、納得できなかったところも納得できるような気がしてきた」
 という教授に。
「どういうことですか?」
 と聞いてみる。
「それはね。君の書いたこの論文は、ところどころ、矛盾があるんだけど、その矛盾を、
「相対すること」という発想で、逆に考えてみると、すべての辻褄があってくる気がするんだ。だけど、辻褄を合わせるには、もう一つ何かが足りない。説得力というのか、自分を納得させるものに力が足りないんだ。それを、予言という形で納得させると、理屈がすべて絡み合ってきて、納得できなかった部分を納得させることができる。それが、僕が君の論文にビックリさせられたことだったんだ」
 という。
「じゃあ、これは、世間に発表できるだけのものなんでしょうかね?」
 と聞くと、
「天地がひっくりかえるくらいものじゃないかな? これを発表してしまうと、パニックを引き起こす、だから、すぐには発表しない方がいいかも知れないな」
 と言われた。
「何か含みがあるかな?」
 とも考えたが、必要以上に考えてしまうと、自分がパニックってしまうというのか、あるいは、有頂天になりすぎて。自分を見失ってしまうのではないかと感じたのだ。
 そう感じたことで、発表をするのは、時期尚早だと思ったが、せっかくの発表をしないというのももったいない。
 それは教授も研究者として十分に分かっていることだったので、
「じゃあ、すまないが、半年間だけこのままにしておいてくれないか?」
 と言われた。
「でも、先生、その間に他から発表されないという保証はありますかね?」
 と聞くと、
「ないとは言えないが、今のところ、一年では危ないかも知れないが、半年というのはありえないだろう。俺の情報網では、まったくそんな開発の話は漏れてこない。これから発表するにしても、資料をそろえるのに、半年はかかるだろう?」
 と言われた。
 なるほど、教授はしっかりと分かっている。半年というのは、その間にこちらも資料を作成しなければいけない最低限の期間である。そのことを教えてくれたということだったのだ。
「分かりました。教授のいうことはもっともです。そういうことでしたら、こちらも承諾します。半年かけて、資料を整理することにしましょう」
 と言って、教授と納得した。
 教授は、
「資料作成には、全面的に協力を惜しまないが、同じ仲間であっても、このことは知られてはいけない。だから、敵を欺くにはまず味方からだということを忘れないようにしないといけないね」
 という。
「分かりました。せっかくの私の研究ですからね。他の人に渡したくはないですよ。教授を全面的に信用しますので、教授も私を裏切るようなことはないようにしてくださいね」
 ということで、納得した二人だった。
 この論文は、約束通り、昨年の年末に発表され、松岡は一躍、
「時の人」
 となった。
 雑誌や新聞の取材はもちろんのこと、テレビのインタビューも結句あり、引っ張りだこという忙しさであった。
「こんなにも忙しくなるなんて」
 と思ってもみなかった騒ぎに、さすがにビックリしていた。
「教授があの時、慌てないようにしてくれた気持ちが分かった気がしました。あのまま検証もなにもなく発表していれば、下手をすれば嘘つき呼ばわりだったかも知れませんね。この世界では、一度、嘘つきというレッテルを貼られると、なかなか復活するのは難しいでしょうね。何しろ信用というよりも、発表が、人間の文化や生活に直結することだけに、大きな問題なんでしょうね」
 ということだった。
 しかし、騒いでいたのは一部の人間だけで、
「タイムマシンやロボットなどは、しょせん、SF小説や特撮の世界でしかないんだろうな」
 と言われていたのだ。
 だが、それでも、名だたる学者やノーベル賞受賞差はなどが気にするようになり、そんなインタビューが雑誌を賑わすと、ただのうわさではすまなくなっていたのだった。
「そんなに私の発表というのは、すごいんですか?」
 と、逆にインタビューアの人に聞くと、相手もビックリしていた。
「あまり意識がないんですか?」
 と聞かれて、
「ええ、すごいものなのだという気持ちはあるんですが、ここまで異常な状態になるとは思ってもいなかったので、正直戸惑っています」
 という。
「それはそうかも知れませんね。逆に天才ほど、自分の発見を他人事のように感じられて、一般の人の理解の外にあるのかも知れませんね」
 と、いうのだった。
 タイムマシンの発想に、無限というものが絡んでいて、その無限をいかに解釈することが大切だと感じたのだった。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次