無限の可能性への冒涜
と言ってもいいのではないかと思った。
ただ、そこにどういう理屈が広がっていて、松岡は何によって導かれようとしているのか?
さらに、松岡でなければいけない理由がどこかにあるのか?
もし、あるとすれば、一つのことに集中すると、まわりが見えなくなる性格が起因しているように思えた。だが、それは松岡に限らず、誰にでもあることだと思うと、元も子もない発想だ。まるで、
「負のスパイラル」
に落ち込んでしまったような気がしてきた。
元の世界に戻ってきて。
「誰にこの話をすればいいんだろう?」
と考えた。
研究所に黙ってタイムマシンを借用したわけなので、それを口外するわけにはいかない。もしうまくことが運んでも、
「タイムマシンの性質上、うまくごまかせる」
と考えるようにしようと思っていたのだ。
しかし、実際に過去に行ってみると、
「事なきを得た」
と言ったとことであり、自分がどうして過去に行かなければいけなかったのかという理由すら、頭の中から飛んでしまったくらいの感覚だった。
ただ、予言者であり、この計画を立てた門脇に言わないわけにはいかないだろう。
「彼だったら、どう感じるだろう?」
自分の予言にどこまで信頼度を持っていたのかが分からないので、何とも言えないが、普通であれば、ショックに違いない。
「だけど、俺と同じように冷静になって、善後策を考えてくれるだろうか?」
と考えた。
普通に考えて、一か月やそこらで、まったくタイムマシンの開発をしていない連中が、急に発表ができるほどのものを作れるわけはない。
そんなことを考えていると、一人で悩むよりも、誰かを巻き込んで考えた方がいいと思うようになった。
「そもそも、予言という形でこちらを巻き込んだのは、門脇ではないか?」
とも思ったが、少なくとも、松岡は当事者である。
当事者として、無責任なことはできないのは分かっていることで、ヒントを与えたことになっている自分としても、放っておくことのできないことだったのだ。
さっそく考えていても仕方がないということで、門脇に話をしてみることにした。
「そうか。それは残念だったというか、どう考えればいいんだろうな? 俺の中で一つの考えがあると言えばあるんだが」
と、経緯を聞いただけで、門脇はそう言った。
「どういうことだい? 聞かせてくれないか?」
というと、
「今回の君の偵察が甘くなかったのか? ということが気になっているんだよ。だって、タイムマシンの開発などというのは、最重要機密事項じゃないか。表向きには普通に研究をしているだけでも、秘密研究所のようなものを持っていて、そこで研究が続けられているなどというのは、当たり前にあることで、それくらいの機密保護を徹底していないと、こんな科学的な大発明をするだけの資格すらないんじゃないかって思うんだよ」
と門脇は言った。
「なるほど、その通りだよな。一介の研究者ごときが、しかも一人でただ表から見ているだけなので、そんなに簡単に分かるようなことはしないよな」
と松岡はいうと、
「そう、君はまんまと引っかかったといってもいいんじゃないか? ただ、それがきっと君の性格だったんだろうね。ショックを受けるとまともに、それを受け止めてしまう。そうなると、疑うということすら考えないようになってしまって、そのまま、現代に戻ってきてしまうんだよ」
と門脇は言った。
「ただ、僕が過去に行ったというのは、何か理由が意味があるように思えてならないんだけど、今はそれが何なのか分からないんだ」
と、松岡がいうと、
「それは俺も感じる。確かに何か理由があるように思える。それを言い出したのは俺なので、理由は何かと聞かれると思うが、正直、今はあの時の心境が自分でも分からないんだ。どうして、あんな予言をしたんだろうね」
「君は、予言になるようなことを、思ったらすぐに、そのすべてを相手に話すようにしているのかい?」
と松岡が聞くと、
「基本的には話すようにしている。そうじゃないと、自分だけで抱えておけない性格でもあり、予言というものは、自分の中だけで抱えておくものだという発想にはならないからなんだ」
と門脇は言った。
「ただ、気になっているんだけど、やつらはきっと君の言う通り、水面下で研究をしていたと思うんだけど、それはうちの研究所でもしていることだったのではないかと思うんだよね。でも、自分が知っている限りでは、表に出ている連中が研究員であることに変わりはなく、それぞれに計画を持ってできていたんだよね」
というと、
「それがそもそもフェイクなんじゃないかい? いくら君がヒントになるような論文を書いた人間だとしても、まだ研究員にするには心細く、秘密を守れるだけの硬い意思を持っているとは思えない君を、研究員に加えるというのは、無謀だと思うんだ」
と門脇は言った。
「ということは、俺も欺かれていたということなのか? まるで、敵を欺くにはまず味方からって言葉があるけど、まさにその通りなんじゃないかということになるのだろうか?」
と、言った。
「それはそうだろうね。だから、余計に君は表しか見ていなかった。まんまと引っかかったとでもいうべきなんだろうか?」
と言われ、またしても、松岡は自分の中でパニックってしまうのだった。
「じゃあ、これからどうすればいいんだ? また過去に行って、もう一度調査をしようとしても、一度見誤った人間がやると、結局、結界をぶち破ることはできないんじゃないかって思うんだけど」
と、松岡がいう。
「それはそうさ。少なくとも、今は君が動くべきではない。それは、精神的な意味もそうなんだけど、タイムマシンの特性という意味からいっても、しばらく君はタイムマシンに乗ってはいけないんだ」
と言われた。
「どういうことなんだい?」
と聞くと、
「この間も言ったように、タイムマシンというのは、空間を移動するわけではなく、時空の移動なんだけど、光速での移動は、まわりの人間と自分との間に、時間の流れという意味での大きな差を作ることになる。ひょっとすると、俺は一か月以上を過ぎているのに、君は数分しか経っていない状況なのかも知れないということだよね。だとすれば、君はもうタイムマシンに乗ってしまうと、どんどん時間の流れが遅くなってしまい、それが身についてしまうと、年を取らない身体になってしまうかも知れないんだ。そうなると、年も取ることもない、自分が嫌だと思う時間があったろすれば、永遠に逃れられないという苦痛を味わうことになるんだよ」
というではないか。
「それはきつい。まるで、まわりが皆死んでいくのに、自分は年も取らずに生き続けているようなものじゃないか?」
と松岡がいうと、
「そうなんだ。でも、別に不老不死というわけではない。遅いというだけで、確実に年は取っていくし、死に近づいている。それなのに、自分だけが死ぬこともできず。苦痛を他の人の何百倍も、下手をすれば何千倍も感じていなければならないということになるんだよね。ひょっとすると、それが神というものに対しての理想のようなものであり、神話における神が人間に対して感じている感覚なのではないかと思うんだ」
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次