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無限の可能性への冒涜

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 門脇の助言で、その検証は、この大それた計画でできるのではないかと思うのだったが、松岡は、このことをしばらく誰にも言わないようにしていた。
 そもそも、M大学が先にタイムマシンを開発するということも、オフレコなのだ。誰にも言ってはいけないと言われているだけに、誰にも何も言えないことにストレスを感じないようにするためにも、松岡は門脇の話を、自分なりに砕いて考えるようになったのだ。
 ただ、計画を練るにしても、M大学の研究と、K大学の研究の内容がどのように違うのかということが前提となってくる。
 まさか、まったく同じものができるわけもなく、これから自分たちが開発するマシンの機能を、とにかく知る必要がある。
「何しろ、最初に実践で使うのは、この俺が最初になるんだからな」
 ということであった。
 試作ともいえる最初のタイムマシンは、予算の関係もあり、小さなもので、一人乗りであった。
 車のような作りだが、ずんぐりむっくりで、スピードなど出るわけもないような形であった。
 スピードが出る必要はないタイプのタイムマシンで、自分で時空の穴を目の前に作り、そこに飛び込んでいくという感じである。
 昔、映画であったタイムマシンのように、高速で走ることで、時速、百五十キロを突破した時のエネルギーで、時空を突破するという作りではないのだった。
 この考えは、昔のものであり、今は省エネで、いかにスマートなタイムトラベルができるかということが問題だった。
 昔の考え方と同じで、タイムマシンは、時空を移動することはできるが、距離を移動することはできない。設定した年数の、過去のその場所にタイムスリップするというだけだ。
 そのうちに、別の芭蕉にタイムスリップできるようなタイムマシンも、可能になるのだろうが、まずは、時空だけを移動するマシンのテストから段階を踏む必要があるのだ。
 そういう意味で、試作マシンは、試作の第一号であり、試作だけで大何号まで開発されることになるのかというのも、興味深いところであった。
 とにかく、まずは、門脇との話に沿って、できたタイムマシンをいかに扱うかということが肝になるだろう。設計図を見ることはできるが、もちろん、持ち出すことはできない。研究所の中で必死に見て覚えるしかなかったのだ。
 その頃の松岡は、
「タイムマシンで過去に行く」
 ということしか頭の中になかった。
 何のために過去に行くのか、過去に行って何をしようというのかということが、正直、自分の意識の中に確固たるものとしてあるわけではなかった。どちらかというと、一つのことに集中してしまうと、まわりのことがおろそかになるという性格であったため、研究者としてはいいのかも知れないが、何かの策士としては、物足りないところがあったのだ。
 実際に、門脇の言っていた通り、M大学はk大学よりも先にタイムマシンの開発に成功した。それを発表したことで、当然のごとく、世の中は衝撃を受け、M大学は称賛を浴びることになった。
 だが、タイムマシンの発表を行ったというだけで、本来のタイムマシンとしての、皆が期待しているような形のものができたわけではない。むしろ、これからが大変で、当然、今でもいくつかの研究室では、タイムマシンの開発が進められている。
 したがって、今の開発を他の研究室はやめるわけではない。発表されたM大学のタイムマシンとは違うものを発表し、自分たちの勝っているものを競争材料として表に出すのが重要であった。
 大きな目的は一緒でも、実際には細かいところの力の入れどころが違っているのは当たり前だという考えである。
 さらにタイムパラドックスなどの問題もあることから、何が正解で、どこがまずいのかということも、これからの研究にかかわってくることになるだろう。
 ただ、それでも、最初に開発したところが一番偉いのは、どんな発明であっても当然のことで、
「タイムマシン開発におけるレジェンドは、M大学の研究チームだ」
 というのは、ゆるぎない事実であった。
 タイムマシンの脚光で、開発者のチームはメディアへの露出が大きくなった。テレビや雑誌のインタビューにひっきりなしになり、彼らは、有頂天だったのだ。
 しかし、その中で一人、谷口は少々怯えていた。そのことを知っている人は誰もいなかった。それだけ研究チームは有頂天になっていて、
「俺たちが、レジェンドであり、タイムマシン開発で、一歩も二歩も先を進んでいるんだ」
 という意識は、当然のごとく揺るぎなかった。
 K大学の方は、M大学に遅れること、一か月、ある程度のマシンが完成した。この完成は松岡にとって、待ち望んでいたものであり、他の連中とは待ち望んだ理由が違っていた。
 他の連中は、
「やっと開発できたのだが、どうしてもパイオニアになれなかったのは、悔しいとしか思えない」
 という気持ちを共有していた。
 M大学の方は、設計図の公開まではしなかったが、自分たちのタイムマシンの特徴を、学会を通して、箇条書きのようにして公開していた。
 それを見たK大学のチームとしては、
「これくらいの内容であれば、うちのマシンと同じというわけではないので、うちももう少し改良を加えれば、K大学バージョンとして発表することができるだろう」
 と、責任者は言った。
 重鎮会議の中に引きづり出された時は、さすがにビビッてしまった責任者だったが、逆にウワサが流れたことで、いざ発表されるとなった時には、
「やっときたか」
 という程度のもので。ショックもそんなに大きくなかったといってもいいだろう。
 松岡は、そんな中、すでに覚悟は決まっていた。門脇からいろいろ教わっていて、
「過去に行ったら、M大学の開発の邪魔をしてはいけない。まずは、彼らがどのような開発をしているのかを見てくるのが先決だぞ」
 と言われて、過去に向かった。
 その過去がいつなのかというのも、重要な問題だったが、その目安として、重鎮会議が行われた時から、さらにさかのぼって、半月前くらいがいいというのが、門脇の考えであった。
「重鎮会議は、タイムマシン開発の話がどこかから漏れて、K大学に入ったことからだろうから、その二週間前くらいが、ちょうどいいのではないか? きっと、その頃にタイムマシンというものを発表できるめどが立ったと言ってもいいだろうからね」
 というのだった。
「分かった。その頃を狙って、タイムトラベルすることにしよう」
 と言って、計画を自分なりに練って、松岡は過去に向かったのだ。
 向かった過去では、敦岡は衝撃的な場面に遭遇するものだと思っていたが、まったくそんなことはなかった。
 何と、M大学では、秘密裏に何かを開発しているという感じはなかったのだ。
 タイムマシンを研究しているという研究室も存在していなかった。当然、発表できるだけのタイムマシンが開発されているという気配はない。
「どういうことなんだ?」
 と松岡は、そう思い、タイムマシンとどこかに隠し、とりあえず、過去の世界を回ってみることにした。
 タイムパラドックスの関係から、過去の自分と出会うわけにはいかない。K大学に近づくことは許されず、もちろん、門脇との接触もありえないことだった。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次