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無限の可能性への冒涜

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「ええ、その通りなんです。でも、あの人の視線が本当に気になってしまって、知らないというのが、これほど気持ち悪いことだとは思ってもみませんでした」
 というと、
「あの人はね。実は私の前任者なんだ。元々タイムマシン研究の第一人者で、昔から有名な人だったんだ。だけど、なかなか開発が進まないまま、時間だけが経つので、新旧交代の意味を込めて、私が内部昇格したため、あの人は、栄転という形で、執行部の幹部入りをしたんだ。これは民間に会社であれば、台出世であり、取締役級の出世だったんだよ」
 というではないか、
「そんなに偉い人だったんですね?」
 と聞くと、
「まあ、表向きはね。でもあの人は研究畑一筋の人だったので、あの人にしてみれば、左遷と変わらない人事だったんだと思うんだよ。そういう意味で、君が発表したあの論文を最初に気にしたのは、あの人で、発表しようと強硬に押したのもあの人だったんだ。そういう意味では、君の恩人ともいえるかも知れないね」
 と言われて、
「そうだったんですか? それで、あんなに鋭い視線を僕に向けていたわけですね。でも、あの視線は何だったんでしょうね? 僕は気にしなくてもいいんでしょうか?」
 と聞くと、
「気にする必要などないと思うよ」
 と言われた。
 その日、いつもの喫茶店に行くと、門脇が来ていた。
「どうだい? そろそろ、M大学の話題が出てきた頃じゃないかい?」
 と言われて、松岡はビックリした。
 だが、自分から公表するわけにもいかず、表情を曇らせていると、
「どうやら、そうのようだね。君の様子を見ると、少し困ったような表情なので、まだ表には出せないが、時間の問題だというところかな?」
 と言われると、いちいち当たっていることが癪に障った。
 この思いも見透かされているような気がして、まともに、門脇の顔を見ることもできず、ふてくされていると、
「たぶん、君のところも、もう少しで完成する予定なんだろう?」
 と言われて、ドキッとした。
 予言が当たったことで言ってはいけないというイライラした気持ちが吹っ飛んでしまいそうなほどの驚きに、さすがに黙ってはいられなくなった。
「どうして、そんなこというんだ?」
 と、まさか、自分から暴露するようなこともできず。質問する形で話をするしかない状況を自分で何とかするしかないのだった。
「これも俺の予言の一つさ。どうやら、これも当たっているようだな」
「君の予言はどうしてそんなに当たるんだい?」
 と言われて、
「俺の予言は普通の予言とはちょっと違うんだ。たとえば、どれか一つのひらめきがあったとして、そのひらめきから次にどういう一手がほしいかと考えた時、その時にピンとくる手だったら、それが予言になるのさ。ほとんどの場合は、予言の欠片もないようなことばかりなので、俺は静かにしているんだけど、今回の君のタイムマシンの発想は、一つの一手を繰り出せば、次の相手の一手まで分かってしまうような、実に歯車がかみ合ったというべきか、そんな状態なんだよ。だから、俺には、何手か先まで見えているような気がするんだけど、これを言ってしまうと、効力がなくなってしまうので、基本的には相手に悟らせるということになるんだけどね」
 と門脇は言った。
「じゃあ、俺が何をすればいいのかということも、君には分かるということなのかい?」
「ああ、ある程度はね。だけど、俺の予言はある意味消去法なので、人に積極的には言えないんだ。もちろん、相手が信じてくれたのであれば、それはその限りではないけどね」
 というではないか。
「完全に、俺を誘っているようにしか思えない」
 と感じたが、この際、すがるしかないような気もした。
 だが、今ここで自分が動くことに何のメリットがあるというのか。
 確かに、相手に先に開発されることを阻止できれば、それに越したことはないが、そのためにどのようなリスクがあるのかも分からない。
 まさかとは思うが、彼からその一手を聞いてしまうと、それをやらなければ、何か致命的なペナルティでもあるとするなら、これほどのリスクなどあるはずもない。
「俺はどうすればいいんだ?」
 と考えていると、
「話を聞いただけでは、別にそれをするしないは君の自由さ。ただ、やってしまった時に起こるリスクは当然、自分で背負わなければいけない。それだけに、成功した時のメリットも大きいというもので、ハイリスクハイリターンということで、博打のようなものだよね。君の性格からすれば、こんな博打を打つだけの根性があるとは思えないので、もし、話を聞いても、構想に移らない方がいいだろうね」
 と言ってきた。
 明らかに挑戦だった。
 松岡は、決して冒険はしない方だったが、他人から挑戦されると、受けて立たなければいけないと思うような性格だった。
 そんな松岡の性格を知っている人は少ないはずで、最近仲良くなった門脇に、松岡の奥の部分がそんなに簡単に分かるはずもない。
「一体、やつは、俺に何をさせたいというんだろう?」
 そもそも、やつが俺に何かをさせて、どんなメリットがあるというのか。実に曖昧な立場と考えに、松岡は戸惑ってしまい、どうしていいのか、さらに分からなくなっていた。
 ただ、タイムマシンのヒントを発表したのは松岡だった。このままでは、手柄を横取りされる形になりそうで、それが怖かった。プライドに関していえば、かなり嫉妬深いこともあって、プライドの高さは、尋常ではなかった。
「松岡君。君たちはまもなくタイムマシンを開発することになるよね?」
 と門脇に言われて、
「うん、そうだけど。でも、M大学に先を越されてしまうんだろう?」
 というと、
「今のところは確かにそうなんだ。だけどね、君たちが開発するタイムマシンで過去に行って、そこで、タイムマシンを開発しようとするM大学の邪魔をすればいいのさ。そうすれば、M大学のマシンは開発されない」
 という。
「過去に行って、どうやって、妨害すればいいんだ?」
 というと、
「それは自分たちで考えないといけない。ここで第三者が介在してはいけないんだ。助言くらいにとどめておかないとね」
 と、門脇は言った。
「うん、ありがとう。それは君の予言を変えることになるかも知れない。それでも言ってくれたのは嬉しいよ」
 というと、
「だけどね、何と言ってもリスクは大きいから、それなりの覚悟をしておかなければいけないと思う。何しろ、過去を変えるということは、いろいろとパラドックスに引っかかることだからね。君たちの研究がそれほど価値のあるものだということを俺も願っているよ」
 と門脇は言った。
 それを聞いて、松岡の覚悟はある程度決まったといってもいい。いよいよ、タイムマシンの完成とともに、それを使っての大事業に取り掛かるということで、武者震いをする松岡だった。

                 過去の代償

 松岡は、タイムマシンの開発には直接かかわっていない。あくまでも、助手程度のもので、ヒントに当たる部分を証明するための検証を考える立場だった。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次