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無限の可能性への冒涜

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 二人は、会議室の扉の前で、何度も深呼吸をした。責任者などは、かなりの空気の薄さに、呼吸困難に陥っているようで、それに比べれば、松岡の方が幾分かマシなようだった。
 責任者の方はまったく事情を分かっていなかったので、何を言われるのか、まったく想像もしていなかっただろうが、松岡としては、門脇の予言というものを聞いていただけに、
「ひょっとして」
 という気持ちはあったのだろう。
 「入り給え」
 という声が中から聞こえてきて、ここまでくれば、もう逃げるわけにもいかず、腹をくくるしかないと思った責任者は、ノブをふるえる手で握って、それでも力強く、扉を開くようにして、勢いよく中に入った。
 さすがにそこには、大学の要人が並んで座っていて、まるで、政府の要人の前に引きづりだされたような気分であった。
「お呼びでしょうか?」
 ということで、まわりを見渡すと、誰もが難しい顔をしていて、口を開く人はいなかった。
 そこで、一番前に座っている議長のような人が、
「忙しいところすまないね」
 と言って、労をねぎらう言葉をかけてくれたことで、松岡は少し緊張がほぐれたが、責任者はそうもいかず、まだ震えているのがよく分かった。
「実は、まず、今の君たちの研究内容について説明願いたいんだが」
 というので、責任者が震える声をひっくり返しながら、何とか答えていた。
 まわりの人たちも、当然二人の緊張は想定内だったようで、難しい顔はしているが、誰も二人を睨むような人はいなかった。
「我々は、今は、ここにおります松岡君の先日発表いたしましたタイムマシンについての論文を元に、タイムマシンの研究を続けています。松岡君本人に直接話を聞きながらということでありますが、松岡君自身も、論文に書いた時の心境を思い出すのは困難なようで、我々が問題提起をして、それに対して検証しながら、松岡君に訪ねていくことで、少しでも、当時に近づこうと思っています」
 と責任者がいうと、
「ということは、君の話の内容として、そこにいる松岡君の研究は、すべてにおいて信憑性があるという前提で研究を続けているということになるのかい?」
 と言われた責任者は、
「そこまでハッキリとした信憑性はありませんが、今はそれ以外に突破口はないと思っています。それに、この論文を書いた時の松岡君は、自信に満ち溢れていて、我々もその様子を見て、この論文以外に、タイムマシンの開発はないと感じました。それをまず立証することから、この研究は始まるのだと思っています」
 というのだった。
「ところでだね。M大学の研究チームが、まもなくタイムマシンの研究に成功するのではないかと言われているんだが、この件について、君はどう思うかね?」
 と聞かれた時、責任者の顔は真っ蒼になっていた。
 完全に初耳だったようで、まるで足元に穴が開いて。奈落の底に叩き落されているかのような心境のようだった。
「そ、それは本当ですか?」
 と、明らかにうろたえている。
 その気持ちは、
「今までの努力は何だったのだろう?」
 という思いなのか、それとも、
「それを分かったうえで、なぜ我々が呼ばれたのか」
 ということで、研究そのものよりも、別の意味で自分に危機が迫っているのではないかと感じたのかも知れない。
 松岡は、予言で何となく分かってはいたが、さすがにあの予言が当たっていたということと、そのことがここまで大げさなことになるのだということを感じたことで、少しビビった気分になったのであった。
 松岡は、そのどちらも恐ろしく感じた。そのせいで、少し感覚がマヒしてしまったようで、冷静に見えているかも知れないが、実際には、自分がその場所にいることだけでも、自分がどこを見ているのか分からなくなっていた。
「それで今、対策会議に入っているんだけどね。まず二人に大前提として、これからの話は絶対に他言は無用で願いたい。当然分かっているとは思うが、この話が外部に漏れると、学会がパニックになってしまい、我々の信用も地に落ちてしまうだろう。二度と研究員として表に出ることはできなくなるし、大学に対しての責任も問われることになる。そのあたりはしっかりと意識をしてもらいたい」
 と、言われたのだ。
「ええ、それはもちろんのことです」
 と責任者は言った。
 こういう前提は、よくあることなのだろう。却って、この前提を言われたことで、責任者の気が少し楽になったようであった。
「では、今の状態を少し詳しく説明いただこうか?」
 と言われて、責任者は、少し専門的かな? と思うような話であったが、そこを外すと、説明にはならないので、さすがと思わせるような説明をこなしていた。
「さすがに、気が動転しているとはいえ、責任者として君臨するだけのことはあるな」
 と、松岡は感じていた。
 松岡は、そんな会議室の中において、一人じっと自分を見つめている人間がいるのに気づいた。
 最初こそ、気づかれないように凝視していたのだろうが、見られていることに気づいた松岡に対して開き直りの気持ちからか、今度は当初よりもさらにあざといと思うほど視線を向けていた。
「何で、こっちばかり見るんだ? 責任者は俺ではないのに」
 と思っていたが、会議が続いていくうちに、その人は会議の内容にまったく興味がないように思えて、気にしているのは、松岡ただ一人にしか思えなかった。
 その人のせいで、会議がどのような内容のものだったのかということが、ほとんど気にならなかったのは、ある意味緊張しなくて済んだ分、よかったのかも知れない。
 会議はまだまだ続いているようだったが、
「それじゃあ、君たちは、この辺でいいが、先ほども言ったけど、この件に関しては絶対に他言は禁ずる。分かったね?」
 と、念を押されて、
「はい、かしこまりました」
 と、責任者はそう言い切って、二人は粛々として部屋を後にした。
 さすがに退室の時になると、責任者も気が楽になってきたのか、だいぶ緊張はほぐれているようで、それでも、やっと解放されたという安心感からか、部屋を出た瞬間に、崩れ落ちるように、通路の椅子に座り込んでしまった。
「まいったな」
 と、雪崩落ちるように椅子に倒れこんだ責任者が、数秒してため息をつきながら発した一声がこれだった。
「先ほどの会議でも言われたが、君もこのことは、どこにも言わないようにね」
 と念を押されて、
「はい」
 と答えた。
「ところで、一つ質問なんですが」
 と、松岡がいうと、
「ん? 何かな?」
 と、落ち着きを取り戻しかけている責任者が、聞いてきた。
「部屋に入ってから、すぐ左川にいた人なんですが、あの人は誰ですか?」
 と聞いてみた。
 そう、その人こそ、ずっと松岡を見て、その視線をそらそうとしなかったその人だった。
「ああ、ずっと君のことを気にしていた人だね?」
 と、
「えっ、分かっていたんですか?」
 と思わず、聞き返したが、責任者は、ふっと息を漏らして、
「ああ、気づいていたさ。あれだけの視線だったからね。もっとも、あの視線があったから、俺も、必要以上に緊張しなくてもよかったんだけどな。君もそうじゃないかな?」
 と言われて、
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次