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無限の可能性への冒涜

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 教授もそのことが分かっているので、松岡には一研究員という形を取らずに、自由にやらせているといった方がいいようだ。忙しい時は、皆のお手伝いをするが、それ以外の時は、一人で何か妄想している時の方が多い。
 それを皆も分かっているので、松岡が妄想していても、文句を言う人は誰もいない。
「逆に松岡が妄想してくれている方が、俺たちも研究に集中できるからいいんだ」
 と言われている。
「そんなに俺って邪魔なのかい?」
 と聞くと、
「そうだな、邪魔というわけではなく、そもそもの頭の作りが違うので、適材適所という意味で、自由がいい人もいるんだなって、教えられた気分になるのさ」
 というではないか。
 皮肉にしか聞こえないが、そんな皮肉もストレートに言ってくれると、悪い気はしない。
「これは、これでいいんだよな」
 と、松岡は考えていると、教授も松岡には一目置いてくれているということが分かって、気が楽になるのだった。
 そういう意味では、研究室にいてのストレスはほとんどない。
 しかも、今回は、論文も発表できて、実際の研究員には、それほど評価されることはないが、昔から研究している人たちには、何か目からうろこが落ちたかのような発想になってくれるということで、嬉しかった。
「意外と、昔の発想の人の方が、実際の研究に近かったりするのかも知れないよな」
 と、松岡は感じていたが、それもまんざらでもないような気がした。
 今年になって、春が近づいてくると、また新しい研究員が入ってくる時期がやってきた。松岡も、そろそろ就職活動をしなければいけない時期であったが、教授からは、
「ここに残ってくれないか? 君だったら、大学院から教授への道だって十分にあるんだから、今さら民間で働くこともないだろう」
 と言われていたが、正直、研究室に残るのも、民間で働くという選択肢も、五分五分に感覚だった。
 もちろん、今の間に何か発表できるものを開発して、それを実績として、研究者の道を歩むことができれば一番いいのだろう。
 だが、やはり、自分は妄想することが研究への第一歩だと思っていて、他の教授の人たちとは明らかに違っているのだ。それを思うと、まさに、自分の将来をいかに考えるかというのが、難しく思えた。
 他の連中のように、普通に就職活動するしかないという一択であれば、迷うこともないのだが、きっと他の連中から見れば、
「何て、贅沢な悩みなんだ」
 と言われるに決まっている。
 松岡の親は、
「大学に残れるのであれば、それが一番いいのでは?」
 と言ってくれているが、松岡がどういう研究者なのかということを知る由もない親なので、あくまでも、子供の頃の性格や、育ってきた環境を一番よく知っているという目で見るので、ある意味、正確なところを見ているように思えてならなかった。
「親のいうことは、大いに一理あるんだよな」
 という意味で、結構、大学に残るという選択に近寄っている気がして仕方がなかったのだ。
「松岡君が決めればいいと思っているんだけど、私が見ている中で、君はそんなに向いていないとは思っていないよ。君はきっと妄想ばかりしている自分が、研究員に向いていないなんて思っているんじゃないかと思うんだけど、そんなことはないよ。そのことを誰が証明するかというと、やはり君しかいないと思うんだが、もう少しまわりの目を疑わずに、自分の意思と意識を忠実に見てみるのもいいんじゃないかって思うんだ」
 と教授は言ってくれた。
 門脇も似たような考えを持っているようだ。
「松岡君は、変なところで意地を張っているように思うんだけど、いかんせん、俺はまだ付き合いが短いので、それが何なのかというのを、正直に指摘する自信はないんだ。だけど、君には自分で最初から分かっているんじゃないのかな?」
 と言っている。
 こんな話をしている間に、時間は過ぎていく。門脇の予言は気にはなっていたが、時間が過ぎていくうちに、
「気にしても仕方がないか」
 ということで、自分は自分だと思うようになっていた。
 だが、そんな余裕をぶち破ったのは、やはり、谷口の研究チームだった。
 それは、研究室内のウワサから聞こえてきたことだった。
「まさかとは思うが、M大学の研究室で、タイムマシンの試作機が作られたという話を聞いたんだけどな」
 ということで、シラサギ研究所は、会議が開かれていた。
「そんな、まさか。一体どうやって作ったというのだ? うちの松岡君が以前に提唱したヒントのような論文が影響したとでもいうことかな?」
 と一人がいうと、
「どうもそのような話が伝わってきているんだ。他の研究チームは、あの論文を信憑性がないといって、あまり気にしていないところが多く、早めに見切りをつけたのに、M大学だけは続けていたということか?」
「いや、そのM大学だって、すぐに撤退するというような声明を出していたはずなんだけど。俺たちも騙されたということか?」
 と一人がいうと、
「騙されたも何も、別に信じる信じないは、それぞれの自由であり、それに対して、最初は研究材料として考えるつもりはなかったが、実際には研究してみるという方針転換をしたからと言って。別に責められることはない。もし、出し抜かれたというのであれば、出し抜かれた我々の方が悪いんだ:
 という。
「確かにその通りだな。スポンサーを欺いたのだとすれば、倫理的にまずいのだろうが、そうでないということであれば、別に誰も欺いたわけではなく、相手の要領がよかったというだけのことになるんだろうな」
 と、いうことでしかない。
 確かに、撤退するところが後を絶えなかったことで、K大学研究室は、まわりからの信頼を失いかけたことで、どうも疑心暗鬼になっていたようである。
「しかし、このままだったら、俺たちは出し抜かれたことになりはしないか?」
という話に対して、
「まあ、相手がどのような発表をするかによると思うんだけどな。松岡君の研究を元に製作したのだとすれば、気になるところではあるけどね」
 というと、
「それはどういうことですか?」
 と、詰め寄るように言った。
「今、うちの研究室は、松岡君の考えを元に、それを裏付けるような研究がなされているんだ。だいぶ、タイムマシンの開発に近づいていて、あと、半年もかからない間に、開発が完成するのではないかと言われているんだよ。そういう意味で、M大学のチームとは競争ということになるんだろうな」
 ということだった。
「じゃあ、開発チームの責任者と、松岡君を呼んでもらおうか?」
 と、開発チームの主任教授は言われ、
「分かりましたが、松岡君も呼ぶんですか?」
 と言われて、
「ああ、彼も必要だと思うんだ」
 と言われたので、すぐに招集された。
 さすがに、大学の首脳会議のような席に呼ばれるのは、責任者であっても、かなりの緊張感があるはずだ。それにも関わらず、松岡は、一介の大学生ではないか。まもなく、大学院から研究室に残るということが決定するということになっていても、いきなりの首脳会議へ呼ばれるというのは、本当に口から心臓が飛び出してきそうな気分になったとしても、無理もないことであろう。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次