無限の可能性への冒涜
と聞いてきた。
「ああ、いいんだ、別に国家から依頼を受けているわけでも、かん口令が敷かれているわけでもなくて、もっといえば、そこまで開発が進んでいないということの裏返しでもあるからね」
と松岡がいうと、
「そうなんだ」
と、少し門脇は寂しそうな顔をした。
「ん? 何をそんなに寂しそうな表情になったんだい?」
と気になって聞いてみると、
「いやね、もっと研究は進んでいると思っていたのでね」
というではないか。
「えっ、君は俺がタイムマシンの研究をしていることを知っていたのかい?」
とビックリして聞くと、
「ああ、そうじゃないかって、思っていただけで、誰からも聞いたわけでもないんだ。俺には以前から、予知能力のようなものがあって、時々、それが発動されるんだ」
と門脇は言った。
「この間、お互いに、超能力者でも魔法使いでもないって言っていたと思ったのだが」
というと、
「ああ、別に超能力でも、魔法でもないと思っているよ。超能力のように、頻繁に使えるわけでも、魔法のように、自分の思った通りに能力を操れるわけでもないからね。ただ、時々ピンとくる程度なんだけど、自分では結構当たっていると思うんだ」
という。
「当たっていると思う根拠は?」
と聞くと、
「自分で、そうではないかと思ったことは、ほぼ当たっているといってもいいと思うんだ。ただ、このことを口外することはないんだけどね。自分の中でひそかに感じて、ほくそ笑んでいるだけさ。下手にまわりにこの話をすると、何か面倒なことに巻き込まれそうな気がするから、控えてきたんだ」
と、門脇は言った。
「でも、今回は話してくれたんだね?」
と聞くと、
「ああ、俺は松岡君を親友のように思っているから、気になったことは言ってあげようと思っているんだよ」
と嬉しいことを言ってくれるではないか。
「ありがとう。俺も、門脇君を親友だと思っているよ。今まで親友などいたことがなかったので、本当に新鮮なんだ、いつもまわりにいるのは、利害関係が一致した人たちばかりで、一緒にいて、変に気を遣う人たちばかりなんだ、だって、付き合い方を間違えると、死活問題になりかねないって思うからね」
と、松岡がいうと、
「俺もそれは感じていた。死活問題というのは大げさなんだけど、自分が正しいと思ってやってきたことを否定されたような気がして、その先をどうすればいいのか分からなくなると思うんだ」
と、門脇は言った。
「俺は、前にタイムマシンの開発についてのヒントになりそうなことを論文にして発表したんだけど、評価は微妙だったんだ。昔からの重鎮のような学者の人にはセンセーショナルだって言われたんだけど、実際に現役で研究している教授連中には、さほど響かなかったようで、どこまで信憑性があるのかが疑問だって書かれた批評もあったくらいだ」
というと、
「そうか、難しいんだな」
と門脇は言った。
「そうなんだ、特に俺の論文に関しては、実証に乏しいというんだよ。要するに机上の空論にしか過ぎないってね。だけど、俺の論文は、別にタイムマシンの基礎を書いたわけではなく、それまで結界のようになっていたものがどういうものなのかということを現しただけで、その破り方を書いたわけではない、だからヒントなのであって、それをヒントだと感じない時点で、俺に言わせれば、タイムマシンの開発などできるはずなどないと言いたいくらいなんだ」
と松岡は言った。
「そうだな、俺も松岡君の意見に賛成だよ」
という門倉に、松岡は、論文の内容を少し話してやった。
「読んでもらってもいいんだけど、ちょっと専門的なことが書かれているので、難しいと思うんだ」
というと、
「いや、一度読んでもいいんだったら読ませてくれるかな? 意外と素人のアドバイスが今まで見えなかった何かをこじ開けることになるかも知れないからね」
という門脇の言葉を聞いて、目からうろこが落ちた気がした。
「ああ、いいよ。門脇君になら読んでほしいって真剣に思うんだ。遠慮のないところで意見を聞かせてくれると嬉しいな」
ということで、次回、ここで会う時に論文を見せることにした。
その次回というのは、思ったよりも早くやってきていて、話をしてから、三日後のことだった。
「ああ、やっと会うことができたね。俺はあれから毎日ここに来て、君を待っていたんだよ」
と門脇はいうではないか?
ビックリして松岡は、
「どうしたんだい? 何もそんなに慌てることもない、別に俺が書いた論文が逃げるわけでもないし」
と、思わず笑ったが、心の中では何やら不気味な気持ちが渦巻いていたのだった。
「いや、何でもないんだが……。なんでもないというか、実際に早く読んでみたいと思ったのは本当なんだ。早速見せてもらえるかい?」
と門脇はいうので、松岡は見せることにした。
「僕は専門家ではないので、分からないことがあったら、その都度聞いていくけど、それでいいかな?」
というので、
「ああ、いいよ。俺も聞いてもらえる方が安心するからね」
と言った。
実際に門脇が読み始めると、
「うんうん」
と言って、うなずきながら読んでいた。
「本当に分かっているのかな?」
と思っていると、
「ここなんだけど、これはどういう意味なんだい?」
と最初の公言通り、分からないと思ったことを聞いてきた。
ということは、真面目に読んでくれているという証拠である。それを疑いたくなるほど、最初の方は結構な勢いで読んでいた。明らかに斜め読みをしているかのようだった。
学者のような専門家でも、もっと慎重に読むものだと思っていたが、意外とこういう話の専門家ではない方が、ちゃんと読めるのではないかと思えてきたほどだった。
二時間ほどで、読破した門脇だが、その間、松井課は緊張感に包まれていたせいか、二時間が三十分もなかったかのように感じた。
「やはり、物書きさんだね、読破するのが結構早い」
というと、
「いやいや、俺も実はこういう話は好きなんでね。高校時代には、タイムマシンの話などをよく読んだものだよ、専門書とまではいわないけど、開発することができない理由とか、実際に開発してどういうことが問題になるかなどというような本だったり、SF小説などのフィクション系だったりを、読んだりしたものだよ。だからm君の論文も興味深く読ませてもおらった。同感できる部分は結構あったからね」
と門倉は言ってくれた。
「うんうん、そう言ってくれると本当に嬉しいな」
と松岡は、有頂天になりかかっていたが、その後で少し気になることを、門脇は言い出した。
「それでなんだけどね、君も今タイムマシンの開発に従事しているわけだろう?」
と聞かれて、
「ああ、そうなんだ。今度は俺はわき役で、教授や理工学の専門家の人たちが、実際のタイムマシンを設計しているところなんだけどね。俺の論文をヒントにしてくれていると思うんだけど、実際に見ていて、どの部分がヒントになっているのか、よく分からないんだよ」
と言った。
「ああ、そうなんだろうね。でもね、俺は予言能力のようなものがあるといっただろう? そこでちょっと気になることがあるんだけどね」
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次