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無限の可能性への冒涜

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 松岡は、本を読むのが好きだったが、小説を書いているという人に出会ったことはなかった、それだけでも興味が沸いてくる相手だったので、思わず声をかけてしまった。
「小説を書くのって、難しいですか?」
 これは、率直に一番感じている質問だった。
 普通なら、いきなりする質問ではないだろう。しかし彼は、ニッコリと笑って、
「難しいと言えば難しい、難しくないと言えば難しくないかな?」
 という、禅問答のような答えを返してきた。
「それはどういう意味ですか?」
 と、何となく答えが分かっているような気がしたが、聞いてみた。
「難しいと思うにはそれだけの理由がある場所があるわけで、それを感じなければ、難しいというわけではないのだと思いますよ。難しいか、難しくないかという質問に対しては、そう答えるしかないと僕は思います」
 というのだった。
 これは、松岡が感じていた認識と結構近いもので、それを聞いた時、松岡は彼に一通りの経緯を表しようという気持ちになったのだ。
 それが、二人、つまり、松岡と門脇の出会いであり、お互いが分かりあった瞬間だったといえるだろう。

               ライバルたちの攻防

 そんな二人だったが、それからすぐに仲良くなった。
 松岡が意識していたように、門脇も意識をしていたのだが、そこまで意識させなかったのは、門脇には、
「相手がこちらを意識している」
 ということが分かったからだ。
 それは、素振りから分かったわけではなく、門脇の中にある予感のようなものが、松岡を意識させながら、お互いの将来が垣間見えた気がしたのだ。
「だったら、声をかけてくれればいいのに」
 と、松岡は少し癪に障るような様子で、膨れ面になった。
 だが、別に皮肉を言っているわけではなく、どこか自分と似たところがあると感じた相手に対して、松岡がとる態度の典型的な例であった。
 二人は、この喫茶店で話を始めて、三回目くらいの頃だっただろうか。
「えっ、同じ大学の同じ学部の同級生だったんですか?」
 と、松岡がビックリした。
 それを聞いて、もっとビックリしたのはマスターだったのだが、
「お互いに、何度も会っているのに知らなかったんですか?」
 と言われて、
「ええ、僕は今まで小説の話しかしてこなかったからですね」
 と言った。
 それまで、あれだけ出会うことのなかった二人だったが、一度出会ってしまうと、今度は、お互いに示し合わせているわけでもないのに、ずっと会うようになった。
 指定席に関しては、最初に来た方が指定席に座ることにして、後から来た方は、その左右のどちらでもいいという取り決めにしたようだが、どちらがm指定席に座るとしても、二人の位置関係はmカウンター越しに見て、左が松岡だと決まっていたのだ。
 小説の話も、質問するのはもっぱら、松岡の方で、門脇は、質問に答えるだけだった。しかし、質問が一つであっても、門脇の方では、三つも四つも回答を用意していたかのように、会話にはかなり花が咲いているようだった。
 マスターにもその内容は聞こえているはずなのに、一日経つと、なぜか会話の内容を覚えていることはなかった。
「まるで、あの二人の会話は、夢を見ているかのように感じるよな」
 と、感じさせた。
 マスターというのは、職業柄、少々他のことをしていても、聞き耳を立てていれば、少々のことは覚えているものだ。特に、二人にはそれぞれに思い入れがあり、しかも、今まで出会うことのなかったという意味で、気になっていた二人だっただけに、
「もし、出会うことになったら、どんな会話をするんだろう?」
 と思っていただけに、余計に覚えていなければいけない会話を忘れてしまっているというのは、マスタとしてみれば、
「自分が悪いというよりも、何か覚えることのできない見えない力が働いているのかも知れない」
 と感じるのだった。
 その力の出どころも、正体も、まったく想像もつかなかった。ただ、
「夢のような感覚だ」
 と、覚えていないのを、目が覚めるにしたがって、忘れていく記憶のように感じるのだった。
 そういう意味で、相手が同じ学校だったということを覚えていなかったというのであれば、分からなくもないが、松岡が忘れているわけはない。
 いつも次に会う時の最初は、前に会った時の話をおさらいするかのような話をするのだ。その会話は実に的確で、おさらいがさらに完璧なものとなると、それが、
「二人の間に予言のようなものが芽生えているのではないか」
 と、不可思議な感覚にさせられると、マスターは感じていた。
 ただ、マスターは、松岡が覚えていないことをいつも一つだけ覚えているのだったが、そのことを知っているのは、門脇だけだった。
 松岡の記憶のどこかに穴があるということを門脇は知っていて、その穴をマスターに埋めてもらおうとしているかのようだった。
 だが、門脇が、松岡が覚えていないということを知っているといっても、門脇は超能力者でも、魔法使いでもない。マスターが都合よく覚えてくれるようになるわけはない。そこで、門脇はどれか一つだけマスターに覚えてもらうように仕向けているのだ。どちらかというとどうでもいいようなことであるが、この能力は実は誰にでも備わっているものであり、自覚できていないだけのことだったのだが、マスターにその自覚を与えたのは、門脇であり、そこに催眠術のような手段が使われたのは、超能力でも、魔法でも使うことができないマスターの苦肉の策のようなものだった。
 そんな二人の関係とは別に、松岡にはライバルがいた。
 彼の名前は、谷口新次郎といい、高校時代は同じクラスだった。
 成績はいつも二人でトップを争っていて、それぞれ、どちらかが勝ったり負けたりして、お互いに、トップを本当に奪い合っていたのだ。しかし、二人の成績はぶっちぎりで、
「お互いに別のクラスだったら、ずっとトップでいられるんだけどな」
 と言われていたのだ。
 そんな二人がなぜか、高校三年間同じクラスになったのは、学校の思惑もあったようだ。
「お互いにトップを争い切磋琢磨してくれれば、成績の底上げにもつながるだろうよ」
 ということだったようだが、結果として、二人だけがぶっちぎりで、他の連中は、その足元にも及ばなかったのだ。
 それは当然のことであり、先を争っている二人の背中すら見えなくなったら、後の連中は視界の中だけで争っているという、小さな池の住人でしかなかった。
 ただ、トップが二人だけだったというのは、学校側にとってはあまりよかったとは言えず、どうせなら、別々の学年だった方が、バランスが取れてよかったと思われているくらい、二人は秀才だったのだ。
 それぞれに、理学系を目指していて、M大学とK大学、谷口はM大学のタイムパワード研究所に所属するようになり、松岡はK大学のシラサギ研究所に所属するようになったのだ。
 奇しくも、お互いにタイムマシンの研究をするようになり、先に松岡の方が、ヒントに辿り着いた。
 そのことは、学会にも広く衝撃を与え、急に時の人となった松岡だったが、それを見た谷口は、それまでになかったような焦りが、襲ってきたのだった。
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次