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中二病の正体

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 になったのを見ると、会うたびに、ドキドキしてしまっている自分がいることに気づいていたのだ。
 もちろん、そんな素振りを誰にも見せなかった。この気持ちは、兄の雄二に見られるのが嫌だというよりも、妹で本人であり裕美に知られるのが嫌だった。それだけ、弘前の気持ちが揺れ動いているかということだったということなのだろうが、すぐには分からなかったのだ。
 二人の親は共稼ぎで、しかも、雄二と裕美は、本当の兄妹ではなかった。少し年が離れているような気がしていたので、気にはなっていたが、父親の方が再婚で、雄二は、父親の連れ子だったのだ。それでも、
「俺たち兄妹は、本当の兄妹のように育ってきたからな。俺の方も、裕美が生まれた時は、まだ七歳だったから、妹ができたということを、真剣に喜んだものさ。学校から帰ってきて、一緒に遊んであげるのが結構楽しくてな。裕美がいたから、俺もお義母さんに対しても変な遠慮もなかっただ。最初に再婚という時は、少し違和感があったけど、それを裕美が払拭してくれたんだな。だから、本当の妹以上の妹だって俺は思っているよ」
 と、雄二は言っていた。
 もちろん、妹の前ではそんな気持ちは照れくさくていえないだろうが、それが彼の本心であり、それを親がもし知っているとすれば、これほど嬉しいことはないだろう。
 それでも、二人は決して裕福な方ではなく、共稼ぎをしなければやっていけなかった。普通に生活をしていくだけならよかったのかも知れないが、とりあえず、
「雄二には大学進学をしてもらいたい」
 という思いと強く、義母が持っているようで、共稼ぎというのも、厭わなかったのだった。
 義母は、どうやら、何か、手に職を持っているようだった。
 最初はパートで働いていたようだったが、そのうちに正社員転用が認められ、晴れて正社員になってからは、少しくらいの残業もいとわなかった。
 雄二にその分の家庭での負担が少しかかるようだが、
「大丈夫?」
 と義母に聞かれて、
「ええ、受験勉強の合間の息抜きですよ」
 ということだった。
 雄二は成績もよく、あまり学費もかからない公立大学への入学も、さほど苦労することなく合格できるレベルであったことも、
「家事を気分転換にできるだけの学力」
 はあったのだった。
 この気分転換が功を奏してか、雄二は、第一志望の公立の大学に現役で入学することができたのだった。
 弘前も、隣の県の私立大学に入学できた。第一志望というわけではなかったが、自分の成績を考えると、十分に希望の大学だったといってもいいだろう。雄二も弘前もほぼ、希望通りの受験の結果に、満足していた。
 妹の裕美も喜んでいて、
「やっぱりお兄ちゃんだけのことはあるわね」
 と手放しの喜びようだった。
 ただ、家族で一番喜んだのは、共稼ぎをしてでも、雄二を大学に通わせてあげたいと思った義母だったに違いない。
 つつましくと言いながらも、精一杯の祝賀会を坂口夫妻が開いてくれた。家族だけではなく、弘前も誘ってくれたのだが、
「弘前も誘っていいかな?」
 と、雄二が言ってくれたからだった。
 実は、雄二は、
「弘前を誘うことで誰が一番喜ぶか」
 ということが分かっていたからである。
 そう、その時に一番目を輝かせたのは、裕美だったからだ。
 裕美がどうやら、弘前のことを好きなようだということを、雄二は兄として分かっていたようだ。
 ただそれは、まだ中学生である裕美とすれば、憧れのようなものではないかということが分かっているからであった。
 実際に裕美としては、弘前のことを好きであったが、その好きだという感情が、
「女として」
 という意識ではないということを感じていたのかも知れない。
 ただ、憧れでもいいから、好きだという感情は、非常に心地いいもので、許されるなら、ずっとこの気持ちを持ち続けていたいと感じていたのだった。
 その気持ちを分かっているのは、実の母親と雄二だけだった。
 実の母親の方も、
「娘が誰かにあこがれているというのは分かっているけど、誰なのかは分からない」
 と思っていた。
 ただ、それが、
「弘前君だったらいいのに」
 という思いを持っていたのも事実で、かといって、本人に聞くのも違う気がするので、希望的願望として感じているしかなかった。
 そういう意味で、雄二が、
「弘前も誘っていいかな?」
 と聞いた時、裕美と同じように、目の色が変わったのは、義母だった。
 義母の目の色と裕美の目の色では若干違っているのであろうが、お互いに、
「気持ちを確かめたい」
 という気持ちに変わりはないようだった。
 裕美の方としても、自分の気持ちが憧れであると思ってはいたが、実際に弘前が受験に成功して、気分が開放的になっている状態であれば、それまでとは少し違った感情を与えてくれるかも知れない。
 違った目で見ることにもなるだろうが、自分の気持ちを確かめられるという意味もあったに違いない。
 ただ、そうなると、ただ嬉しいというだけではなく、少し怖いという感覚もあるに違いない。
 それを思うと、弘前を読んだことを、まず喜んだ自分の気持ちを考えると、怖いという思いよりも、
「確かめたい」
 という気持ちの方が強くなっているのではないだろうか。
 その時に、裕美は自分を大人として見たのかも知れない。
 それがいいことなのか悪いことなのか、その時の誰も分かっていなかった。
 もちろん、裕美にも分かるはずはない。
「神のみぞ知る」
 とは、まさにこのことなのかも知れない。
 その時、雄二はこの中では蚊帳の外だったのだが、蚊帳の外だということを、どこかの瞬間で、雄二は気づいたのかも知れない。
 その感覚が、その語の二人、いや、弘前をも巻き込む形になり、信教の変化であttり、自分たち各々が苦しみを味わうことになるのだが、それをいかに感じなければいけなかったのか、まだ大人になり切っていない三人には、分からないことだったのではないだろうか。
 そんな祝賀会は、それなりに盛り上がったのだが、どこかぎこちなさがあった。
 父親以外の人は、
「皆、自分が悪いんだ」
 と思っていたようだ。
 自分が誰かに対して、ぎこちない態度をとっているのを、その人が感づいて、お互いに微妙な雰囲気になっていることから、全体の雰囲気を悪くしているんだと思っていたに違いない。
 その相手がそれぞれ違っていたのだ。
 義母は、裕美に対して、裕美は弘前に対して、弘前は雄二に対して、雄二は義母に対して……。
 と、それぞれに、一方通行の思いと視線の方向を示していて、しかも、この四人がそれぞれに円を描いているのだが、その円は、スパイラルであり、決して交わることのないものだったのだ。
 そのことを、誰も気づいていない。自分のことで誰もが精いっぱいだったのだ。それは気を遣っているという意味と、自分の意識をまわりに悟られたくないという思いが交錯し、一番強いのが、自分の見ている相手に気づかれたくないという思いであったが、その相手が自分ではなく、他の誰かを見ていることも分かっているので、ぎこちなさは、疑心暗鬼にも繋がっていくのであった。
作品名:中二病の正体 作家名:森本晃次