小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

孤独の中の幸せとは

INDEX|13ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

「土曜日のように、基本的に夕方仕事がないのであれば、何もいる必要はない」
 というのが、会社側の考えだった。
 変に居残って、経費を使われるよりもいいということであろう。
 そういう意味で、早く退社できるのはありがたかった。
 土曜日は、比較的喫茶「ロマノフ」は、客が少なかった。
 普段でさえ、夕方はあまり客がいないのに、土曜日はさらに人がいない。
「客は自分ひとり」
 というのが、閉店時間までだったことは、土曜日では珍しくもないことだった。
 最初の頃は、結構店のアルバイトの女の子との会話が楽しかったが、茂三が小説を書くようになってから。女の子も気を遣って、話しかけることはしなくなった。
「何を書いているの?」
 と聞かれて、
「ああ、趣味なんだけどね、小説を書いているんだ」
 というと、
「へえ、すごい。最近小説を書いているって人、結構聞くんだけど、実際に書いているのを見るところは初めて見るわ」
 というので、
「僕の場合は、本当にずぶの素人なので、原稿用紙に向かって書くというのができないんだ。だから、こうやってノートに書き留めておくようにしているんだけどね。なかなか最初まで書ききるというのは、骨のいる仕事で、これなら、会社の仕事の方が楽かも知れないくらいだよ」
 と言って、笑いかけると。彼女はそれでも感心したように、
「でも、すごいわよ。私は、書こうという気にもならないもの」
 というではないか。
「でもね、最近は、というか、バブルが弾けてから、生活様式がすっかり変わってしまったでしょう? それまではサラリーマンというと、本当に、いつ寝るのかわからないくらいに、会社のために、馬車馬のように仕事をしていて、しかも、それが美徳だと思われていたよね? でも、今の時代は、残業もしちゃいけない。仕事が終わらずに会社で仕事をしていると、連暖房も使っちゃいけない。しかも、会社の電気も使っちゃいけないので、自腹でスポットライトを買ってきて、それを使って仕事をしているのさ。まるで、昔の人が、蛍の光で仕事をしたというエピソードを思わせるようにね」
 というと、
「それは本当に大変よね」
 というので、
「でも、その分、仕事がない時は、定時に帰れるでしょう? 残業があるなんて、そんなにしょっちゅうでもないので、普段は、六時になったら、皆帰宅するので、六時半には事務所はもぬけの殻というところだね」
「そうなんだ」
「ああ、だからね。家に帰ると、それまでは自由だった奥さん連中も旦那が家にいるというのはあまりよくないらしいんだ。昔、コマーシャルであったように、亭主元気で留守がいいってのを聞いたことがあったかな? それを思い出しちゃってね」
 と、苦笑いをすると、
「うんうん、聞いたことがあるわ。でも、あれってそういう意味だったのかしら?」
 というので、
「いやいや、そうではないのだろうけど、今から思うと、実に皮肉なキャッチフレーズだったって思うよね」
 と、二人で笑い出した。
 そんな会話をしていた頃も懐かしい。夕方に一人で来るようになってからだったが、そのうちに小説を書くようになってから、
「ほら、前に話した時、六時以降、家に帰ってもしょうがないといったでしょう? と言っても、毎日飲み歩くお金があるわけでもないし、その分、サラリーマンは、何か趣味を持てないかと思うようになった人が多いというんだ。これは、逆に奥さん連中にも言えることであって、夕方家にいると、旦那が帰ってきて、気まずいらしいんだよ。それで、奥さん連中も何か趣味を持つようになったというんだけど、旦那の趣味はいかにお金を使わないかということがテーマなので、いろいろと模索しているようなんだけど、奥さん連中は、それよりも旦那と合わないようにしながら、同じ目的を持った奥さんたちと、時間を共にしたいと思うらしいんだ。そこで流行ったのが、スポーツジム。これだったら、健康にもいいし、美容にもいい。だから、少々お金がかかっても、旦那を説得できるというのね。それに、ここまでブームになると、入会者が増えてきて、そのおかげで、入会費や、施設使用料も、結構安くなったみたいなの。そういう意味で、今は隠れたブームと言ってもいいんだよ」
 と茂三がいうと、
「うん、それは知ってる。私も最近友達からスポーツジムに一緒に行こうって誘われているんだけど、とりあえず入会はしたのよ。今のところ、週一回の参加なんだけど、それでも、お金はリーズナブルなので、それなりに楽しんでいるわ」
 といった。
「そっか、それはいいことだと思うよ。とにかく、今の時代は、バブルが崩壊して、完全に生活が変わってしまったことで、それに乗り遅れないようにしないといけないと思うんだ。スポーツジムというのは、いいことだと思うわ」
 と彼女が言った。
「そんな時、僕が小説を書きたいと思ったのは、中学時代に少しと、大学時代に文芸サークルに入っていたので、少し書いたことがあるという経験があったので、入り込みやすいと思ったからなんだ。何といっても、資金がいらないだろう? 筆記具さえあれば、どこでだってできるんだからね」
 というと、
「そうなのよ。でも、なかなかモノを書くというのは、本当にすごいことだと思うわ。私は小説を読むのが苦手で、ついつい、セリフだけを読むような、極端な斜め読みになってしまっているので、読んでいて、途中でよくわからなくなるの。だから、当然、内容は読み終わっても残っていないという感じになるのかしらね」
 というのだ。
「僕も確かに最初の頃は本を読むと、中途半端にしか読まなかったので、印象に残る本は再保の頃にはなかったかな? でも、戦前戦後の探偵小説を読むようになってから、急に内容も読むようになって、読み始めると、一気に読んでしまうんだよ。これがね。本当に読んでいると時間を忘れるようになって、長編小説でも一日で読破できるんだけど、別に読み飛ばしているわけではないんだ。集中していれば、本当に一気に読めるんだなって思えてきて、読んでいて楽しいと思えるようになったんだ」
 というと、
「じゃあ、それから書けるようになったの?」
「いやいや、そんなことはない。書けるようになるまでにはかなりの時間を要したんだ。やっぱり読むのと書くのでは、根本的に違うんだろうね」
 と、茂三はいうのだった。

               楽天的な感覚

 小説が書けるようになった顛末を話した。そもそも、中学の時に書きたいと思っていたのだが、その時は中途半端にしか書けなかった。それはやはり、セリフのみの斜め読みが原因だったのだ。
 そのせいと、高校受験の時期が近づいてきたので、次第に書くのをやめてしまった。
「高校生になったら、書き始めよう」
 と思っていたが、高校入学してから、また書き始めようとは思わなかった。
 入学したことで安心して、嬉しくなったからなのだろうが、それだけではなく、高校生になったことで頭がリセットされたのが原因であろう。
 高校に入ってからは、部活にいそしもうとは思わなかった。入学してすぐにはそこまでは思っていなかったが、一年生の途中から、
「大学に進みたい」
作品名:孤独の中の幸せとは 作家名:森本晃次