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孤独の中の幸せとは

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 ただ、歴史的に、それ以前の歴史を見ることはなかったので、あくまでも、戦時中から戦後にかけてを漠然と知っているという程度だった。
 だが、あの時代の歴史というのは、
「どこからが、始まりなのか分かりずらい」
 というところが面白かった。
 だから、時代をさかのぼってみていただけに、どこまでさかのぼっても始まりが見えない。それが面白かったのだ。
 探偵小説で見る時代背景と、実際に歴史の本で見る時代背景とでは、どこに視点を置くかということでも、見え方が違ってくる。
 しかも、歴史を勉強していると、その時代の経済状況も見えてきて、当時のバブル崩壊に至るまでの、日本経済の経緯を勉強するのも面白かった。
 戦後の混乱から、復興、そして、経済成長と独立、さらに、オリンピック開催に至るまでの、戦後復興の時代。そして、そのあとの経済成長における、公害問題など、そして、経済が世界最高峰に上り詰めた時代から、バブルの崩壊。そして、そこからまだ這い上がることのできない日本。
「日本には無能な政治家しかいあい」
 と自ら公言しているようなものである。
 バブル崩壊において、残業もせず、給料も減らされた。ボーナスもないのであれば、今までのような感覚であれば、あっという間に破産してしまう。
「お金を使わないようにして、いかに余暇を楽しむか?」
 というのが、その時の課題であった。
 それでも、まだ幸いにも首になることもなく、会社に籍があるというのはありがたいことで、とりあえずは、余暇をいかにお金を使わずに過ごすかということに従事した。
「大学生の頃に一度やろうと思って、途中で挫折した形になった小説を書いてみようか?」
 と感じたのだ。
 確かに、小説であれば、お金を使うこともない。ノートや原稿用紙のような紙に、筆記具があるだけで、どこででもできる。
 自分の部屋で執筆するというのは、どうも難しいと思ったので、どこか喫茶店であったり、ファミレスのようなところで活動するのがいいように思えた。
 部屋にいると、高校の時の試験勉強のように気が散ってしまって、ついつい音楽を聴いたり、テレビを見たりして、無駄に時間だけが過ぎていき、何も成果が上げられないという状態になってしまうだろう。
 それを思っていると、会社の近くに喫茶店があるのを思い出した。木造のいかにも、
「昭和の喫茶店」
 を感じさせ、奥のショーケースには、酒類も置かれているので、
「夜になると、バーか、スナックになるのだろうか?」
 と思ったので、話を聞いてみると、
「以前は、スナックもやっていたんだけど、スナックの方はお客さんが減ってきたので、不定期に開けています」
 ということであった。
 別に常連がいたというわけでもなかったので、喫茶店の常連が、何かの会を催したい時は、場所を貸してくれるということで、様式はそのままにしてあったということであった。
 その喫茶店をどうして知っていたのかというと、以前、ランチタイムに会社の先輩に連れてきてもらったことがあったからだ。
 時々ランチタイムに来るようになっていたがそれ以外の時間帯にくることはなく、普段がどんな店なのかということに興味もなかったのだった。
 だが、一度、出張から帰ってきて、会社を出てから小腹が空いたのだが、ファミレスは、人がいっぱいで、かなりやかましかった。どうやら、学生の誕生パーティのようなものをしていたようで、本当は店も迷惑だと思っていたかも知れないが、せっかくのたくさんの客に対して、むげにもできないということで、きっとしょうがなく、その日だけはと我慢をしていたのだろう。
 だが、茂三とすれば、そんな状態を見せられて、気持ちがいいものではない。
 いつまたなんどき。今度は違う人の誕生パーティをするか分からない。そう思うと、長いをできる場所ではないと、早々に感じたのだった。
 そこで思いついたのが、ランチタイムの喫茶店である。
 ランチタイムは満席は仕方のないことだが、喫茶店などは、ランチタイム以外は、ほとんどガラガラではないかと思えた。喫茶店なので、軽食くらいはあるだろう。ナポリタンやピラフなどの喫茶店メニューを想像すると、ファミレスの料理を考えると、あそこまでひどくないと思わせるに十分だった。
 しかも、バブル崩壊に対していち早く対応したのが、ファミレスだった。
 価格をかなり下げ、そのために、それまでのサービスをほとんどしなくなった。
 例えば、注文の時の水も、最初は持ってくるが、あとは水のサーバーでのセルフサービスであったり、今でいうドリンクバーのようなものであったりが出始めた頃だった。
 そして何といっても、料理の味があからさまに落ちていた。店側は、
「料理の味を落としてはいない」
 と言っていたがそんな馬鹿なことはないだろう。
 何といっても、価格を下げるのだから、仕入原価だって落としているに違いない。そもそもの原材料が落ちているのだから、味が落ちないわけはないと、いくら客だってわかるというものだ。そういう意味では、
「客を舐めるのも、いい加減にしろ」
 と言いたいところだった。
 そういう意味で、茂三はそれ以降、仕方がない時を除いては、ファミレスに行こうとは思わなくなったのだ。

               昭和レトロな喫茶店

 そのため、うまい具合にランチタイムにたまに行っている喫茶店を思い出したというのは、実にタイミングがよかった。
 思った通り、夕方の時間は、客がほとんどおらず、奥に一組のカップルがいるくらいだった。
 店は、十人くらい座れるカウンターに、テーブル席が三つという、スナックとしても、ちょうどいい間取りになっていた。
 時間帯としては、ランチタイムから夕方くらいまでのアルバイトと、夕方から、ラストまでのアルバイトのアルバイト二交代制になっているようだった。
 その時にはちょうどランチタイムの女の子が帰った後で、後半の女の子が入っていた。
 どうやら、アルバイトは三人制のようで、それぞれが、早番、遅番、休みとシフトを組んでいるようだ。
 だから、ランチタイムにいつも来ている人は、夕方誰が入っていたとしても、その娘を知っているということになる。
 アルバイトは、二人が大学生で、一人が主婦であった。
 主婦といっても、まだ二十代なので、大学生といってもいいくらいだ。
「主婦には見えないよ。大学生でも通用するよ」
 というと、
「あら、いやだあ」
 と言って、あからさまに喜んでいた。
 そんな彼女を見ていて楽しく、朗らかな感じを漂わせているのが、うれしかった。最初に来た夕方のアルバイトは、その主婦の女の子だった。
 茂三はお世辞ではあったが、まんざらお世辞だけではないつもりで話したので、彼女のその反応は心地よかったのだった。
 結構、彼女と話をしたのだが、普段はランチタイムということで、数十分程度であったが、その日は、閉店の九時までいたので四時間もいたことになるのだが、時間を感じさせなかったことが、この店の常連になりたいと思わせるには十分だった。
 それから、ほとんど毎日仕事が終わってから、立ち寄るようになった。
作品名:孤独の中の幸せとは 作家名:森本晃次