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夢を見る意義~一期一会と孤独~

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 当時の百年前というと、明治年間のことであり、日本がいよいよ世界に目を向けるようになった時期でもあった。
 日本国内では、殖産興業、富国強兵なる言葉がスローガンとなっていて、外国に学ぶことは学び、今までの不平等条約の解消が、まず第一の目標だった。
 そんな状態で、朝鮮半島をはじめとするアジアに進出していったのだから、アジアで派遣を争っている欧米列強と摩擦が起きるのも、当然のことだった。
 しかし、かといって尻込みしていれば、いつまで経っても、日本が先進国の仲間入りができず。押すところは押すという姿勢を見せるのも大切なことだった。
「日本を甘く見ていては、痛い目に遭う」
 と、海外に思い知らせることも必要だったのだ。
 そんな時代の思いを、彼は受け継いでいるようだった。
 頭の中は、明治の人間だった。先だけを見ているはずだったのだが、
「出る杭が打たれた」
 というような状態でその状況が頭の中で交錯していたのだ。
 そんな中、どうしてその男がサナトリウムに収監されることになったのかまでは分からないが、強く推した人は彼を、自分の実験の何かに利用しようとしたのだろう。
 しかし、結果として、
「フランケンシュタインを作ってしまった」
 ということになった。
 しかし、その医者は、フランケンシュタインになっても仕方がないというリスクは感じていたようだ、最後には、秘密裏に抹殺することを考えていたのだが、その男がそのことを察していたのかどうか、壁一面に恋文を書き、その横に、数式の羅列がしてあった。
 彼が秘密裏に葬られると、その部屋から、彼が敷き詰めて書いたはずの文字はすべてが消えていた。誰かが消したわけではないのに、消えていたのだ。
 本当は消すつもりでいた方はあっけにとられてしまったが、すべての証拠を隠滅するという考えは、旧日本軍の考え方ではかなり徹底されていたことである。その証拠に、かつてハルビンに存在した、
「七三一部隊」
 が、一切の証拠を残すことなく、この世から抹殺されたことでも分かることであった。
 しかし、さすがオカルト作品。誰がやったのか分からないが、完ぺきに彼が存在したという証拠は消されていた。
 その殺されてしまった彼が、どれほどの天才であったのかということは、その時には分からなかった。
 しかし、そのサナトリウムが、
「完全に建物が老朽化してしまい、建て直すしか方法はない」
 ということが決定した際に、この建物を壊すように計画され、いよいよこの建物が壊されて、壁が瓦礫と化してしまった時。
「あれは何だ?」
 ということで、皆が瓦礫に注目した。
 その際に、それまで完全に消えてしまっていた建物の壁に罹れていた、例の計算式と、ラブレターのような文面が出てきたのだが、その壁のあちらこちらに、黒々と何かがへばりついたようなものがあった。
 それはシミのようであり、雫のようにも見えたのだ。
「あれって、血痕じゃないのか?」
 と、誰かが言った。
 推理小説が好きなその人には、血痕にしか見えなかったのだ。
「なるほど、血痕と言われれば血の痕に見えなくもない」
 と言い出すと、
「なぜ、血痕が? しかも、壁を壊す時にはなかったはずの大きな文字があるじゃないか? 血痕に気づかなかったというのもおかしなことだが、それ以上にこれだけ目立つのが書いてあったのに、それに気づかなかったというのは、本当に恐ろしいものだ」
 と取り壊しを請け負った業者の責任者がそういった。
「これはどういうことなんですか?」
 ということで、警察も立ち入り、調査されることになった。
 ただ、あの事件があってから、十年以上も経っているので、その時の責任者などは、すでに退所していた。あの時のことを覚えている人もいなかったのだが、なぜ、今さらこのような内容のことが発見されることになったのかなどということは、謎でしかなかったのだった。
「ここのサナトリウムというのは、昔から、何か怪しいことがあったんだよ」
 と、工事の人の一人がそのことを言いだした。
「君はここのことを知っているのか?」
 と聞かれた工事請負員の一人が、
「ええ、父親が以前この近くに住んでいたらしくて、このサナトリウムの怪しいウワサを聞いていたらしいんです。精神異常の人間ばかりを集めて、密かに何かお研究をしていたのではないかというウワサや人体実験まで行われていたのではないか? という話まで聞いたことがあったくらいです。あれは、ちょうど十年くらい前だったでしょうか? 一人の男性が気がふれて死んでしまったということなんですが、それを役所にも届けることなく、秘密裏に始末したということも聞きました。その時、その男が壁に何かを書いていて、それが、彼の死とともに消えてしまったというオカルトチックな話も聞かされました。その時の話を、今ここで立証しているようで、私はそれを思うと。怖いとしか言いようがないんですよ」
 というのだった。
 話はさらにオカルトチックになってしまい、最後には、その壁に書かれている数式というのが、実はあれから数年後に発見された数学的な権威のある方程式だったという。
 実際には、すでに数年前に外国で発表されているので、今さら言ってもしょうがないのだが、解き方もすべて寸分の狂いもなく、数年前に説かれたのと同じだった。
「じゃあ、これを解いて死んだ人の魂が、発見者に乗り移ったとでもいうのかい?」
 と言われて、
「ええ、そうじゃないかと思います。いや、そうでなくてはいけないと思うんですよ。このままだと、何も報われないじゃないですか。その人は自分が発表しても、どうせ誰も取り合ってくれない。しかも自分の運命は、ここで他人に握られているんだ。その証明をしてくれる人なんかいない。だから、他の人に委ねることにしようと考えたんじゃないですか?」
 と、真面目にそういった。
 この話が真面目であればあるほど、信憑性は考えられず、何をどうすればいいのか、まるで狐につままれたように、皆立ち尽くしているだけだった。
 ただ一つ言えることは、このままこの建物を壊してはいけないということで、この壁を元通りにして、他の部分は新しいものにして、サナトリウムとしてではなく、展示館のような形で世間の目に触れるようなことがなければ、魂も報われることはないと、思っているようだった。
 そんなサナトリウムを、まるで箱庭のイメージで考えてみると、そのサナトリウムの向こうに、箱庭が見えてくる感じがした。
 ただ、実は、そのサナトリウムというのが、箱庭の中にある一つの建物だと考えると、箱庭の外から見ている自分を想像することができるのであった。
 箱庭の中に、サナトリウムが存在し、そのサナトリウムを壊したところに、テレビドラマでは、計算式や恋文のようなものが発見できた。
 計算式と恋文、まったく関係のないもののように思えるが、どちらが表なのかを考えてみると、それぞれに相対的な発想が生まれてくるような気がする。