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相対の羅列

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 と感じた。
 しかし、何に対して恥ずかしいのかということは、おぼろげにしか分からなかった。
「相手が同級生で、知り合いだったというのがまずかったのか?」
 と思ったが、知り合いだったからと言って、それだけで有頂天になるというのもおかしい。
 昔から知っている相手が、大人になって自分の前に現れたことで、
「昔気になっていた人が、綺麗になって、僕の前に現れてくれたんだ」
 と思ったのかも知れない。
 そう思ったのだとすれば、
「彼女が自分にも気があるから、綺麗になっていくれたのだ」
 という、とてつもなく歪んだ考えに至ったのかも知れない。
 その日会ったのは、本当に偶然にしかすぎない。自分でも再会したことを偶然だと思っていたくせに、彼女は自分との再会を待ち望んでいて、しかも再会した時のために、綺麗になってくれたなどという都合のいい考えに至るなど、これほど、都合のいい考えもないというものだ。
 傲慢というべきか、それとも妄想癖が頂点に達していると言ってもいいのだろうか。どちらにしても、ここまで自分の妄想が思い込みに繋がるとは、思ってもいないことだろう。
 相手に対する期待が大きすぎると、相手はそのことにすぐに気づくのだろう。
 相手は、過去の自分を知っている人と出会ったことで、気まずいと思っているとすればなおさらのことである。
 知られたくないと思っているだけに、相手に対して、自分の視線は非常に狭くなる。その狭くなったところに、うまい具合に、相手が突っ込んでくれば、相手の都合で何でもが進んでしまうように思えて、不安が増大してしまうに違いない。
 それを思うと、彼女は、純也に対してものすごい警戒心を持ったことだろう。
 せっかく、自分が今まで積み上げてきたものを、一気に粉砕されるように感じたのだとすれば、相手にとって、その場にいることは苦痛でしかない。
 かといって、その場で逃げ出すことはできない。
 もし、逃げ出してしまえば、何かあったと周りから詮索され、きっと純也に聞くだろう。
「彼女とはどういう関係で?」
 と聞かれると、純也のことだから、
「待ってました」
 とばかりに、考えていたことをべらべらしゃべるであろう。
 それは、あることないこと喋られることになる。そういう意味ではその場にいないのは、却って恐ろしい。言い訳をする機会すら奪ってしまったことになるからだ。
 言い訳は後からするほど、どうしようもないものはない。その時であれば、どんなに苦しい言い訳であっても、後から言うよりは、数段マシであろう。それを思うと、純也を残してその場から立ち去ることはできなかった。
 そうなれば、少しでも相手に分かってもらえるように、目くばせをするなどして、うまく自分の都合のいいように持っていくしかない。
 だが、そんなテクニックが彼女にあるわけでもないので、とりあえず、何も言わずに、目立たないようにしているしかない。
 純也が余計ないことを言わないのを願いながらであった。
 その時、純也は余計なことを少なからず口にしたであろう。有頂天になっている相手にはもうどうすることもできない。
 しかし、だからと言って、彼女が考える、
「最悪の事態」
 に陥ることはなかった。
 ホッと胸を撫でおろすことができるくらいの状態に、
「少し寿命が縮んだ」
 という思いを抱きながらも、彼女は、果てしなく長く感じられるであろう時間を何とかやり過ごすことができたのだ。
 きっと、その時には精も魂も尽き果てていただろう。
 本当であれば、一応合コンなので、
「誰かいい人がいれば、私も」
 という欲をかいていたかも知れない。
 しかし、それどころではなく、冷や汗を掻きどおしだった状態で、周りを見ることもできず、さぞやまわりも、二人の空気に入り込むことはできなかったに違いない。
「どうせ、私に声を掛けようと思うような男性がいるはずもない」
 と思っていたようだ。
 そんな彼女のことを後になって、そんな風に感じていた。少し大げさかも知れないが、「もし自分が彼女の立場だったら」
 と考えると、さぞやたまったものではないに違いないと考えるのだった。
 当然、連絡を取るのも怖い。
 それからしばらくは、合コンに誘われても、怖くていけなくなった。もちろん、皆は、
「何で、急に断るようになったんだろう?」
 と思っていたことだろう。
 そのうちに、誰も純也を誘うことはなくなっていって、誘われないことをいいことに、そのうちに、合コンでのあの時のことが、遠い過去に感じられるようになっていった。
 そんな合コンを数年もやっていないと、すっかり忘れているものだと思い、就職してから一年目に、最初は、普通に誘われたのを断っていたが、そのうちに、
「人数合わせなので、気軽でいいよ」
 と言われたことで、行ってみることにした。
 すると、三年ぶりだったにも関わらず、その場の雰囲気を、
「まるで昨日のことだったように思うくらいだ」
 というほど、実に身近に感じられた。
 身近に感じられると、今度は、以前の恥ずかしい思いがまるでなかったことのように、スーッと忘れてしまっていたのだ。
 だからと言って、またしても、有頂天になるようなことはなかった。自分から目立とうという気分にもならない。
 合コンというよりも、普通の食事会というイメージで、食事を楽しむという意味での参加だと思うようになったのだ。
 その分、気は楽になり、最初の自己紹介以外では、
「ただ、黙々と食べていればいいんだ」
 と思うようになっていたのだ。
 一人黙々と食べていると、まわりの会話も聞こえてくる。それを聞いていると、
「俺なら、こう言うんだけどな」
 という思いに駆られることもあったが、それはあくまでも、他人事だから思いつくことだということを分かっていた。
 だから、自分が会話に積極的に参加するということもない。
「これだったら、お見合いのような、一対一の方が気が楽かも知れないな」
 と感じた。
 基本的には、
「後は若い者だけで」
 ということで、二人きりにしてくれるからだ。
 二人きりであれば、変な気を遣わなくてもいい。相手がまわりにいかに気を遣っているかということを気にしなくてもいいからだ。
 何かあっても、自分が嫌われるだけのことであり、相手を絶対的に気に入らない限り、男が断られる分には、見合いでは当たり前のことなので、これほど気が楽なことはないだろう。
 純也が、佐和子と話をした合コンは、入社初年度に、数回あったくらいで、二年目以降は誘われることはなかった。
 別に純也が嫌われたわけではない。二年目になれば、後輩が入ってくるので、新人ではなくなっただけのことである。
 つまりは、一年目に誘われたのは、
「新人枠だった」
 ということである。
 先輩も同じだったようで、そういえば一年目に、
「今のうちに参加しておいた方がいいぞ」
 と言われたのを思い出した。
 二年目以降は、一年目で、
「こいつは都合がいい」
 と思われたやつだけが、二年目以降も誘われることになるというわけであった。
 その都合のよさというのは、一種の、
「咬ませ犬」
作品名:相対の羅列 作家名:森本晃次