相対の羅列
孤立した時に、まわりを意識してしまい、人と一緒にいた時の自分を思い出すことができることで、どうしても思い出してしまい、耐えられなくなるのだ。
孤独な人間は、人と一緒にいた時の楽しかったという思い出を、自分の中で都合のいい解釈をすることができ、
「孤独は決して悪いことではない」
と考えられるようになるのだった。
元々、ゆいかは孤独が好きだった。
一人でいることを悪いことではないと納得させられるだけの言い訳がゆいかの中にあった。
だから、佐和子と近づきになれた時も、
「孤独な自分が人とかかわることで何か違和感はないのか?」
という感情にはならなかった。
だが、一度もそんな感情にならなかったわけではなく、佐和子と付き合っている時に、幾度かなったような気がする。
何度もなるということは、何かきっかけがあるからであり、それだけ、行動パターンが似ているということなのかも知れない。
お互いに相手を欲する時というのは、その感情が最高潮にならないと、結ばれることはなかった。お互いに相手を貪るのだから、それも当然のことである。
佐和子の方には、ゆいかが感じている、
「孤独」
というものがどのようなものなのか分かっていなかった。
ただ、
「いつも一人でいるのに、それを寂しいという感情になっていないように見えるけど、なんでだろう?」
と思っていたのだ。
佐和子の場合は、孤独を感じたことはなかったが、孤立は感じたことがあった。小学生の頃に感じていたことであったが、ある意味、物心ついた頃から、孤立を感じていたようだ。
孤独との違いも分かるはずもない。孤立を感じると、その解消法を分かっていたkらだった。
「孤立を解消するには、友達を作ればいいんだ」
ということが分かっていたからだ、
この感情は、理屈というよりも、算数のように、
「決まった式からは、決まった答えしか見出すことはできない」
という当たり前の発想を抱いていたからであった。
「孤立しているのは、一人でいるということであり、それが嫌ならまわりに人を作ってしまえば、孤立とは言わなくなる」
というだけの計算であったのだ。
だから、佐和子はいつもまわりに友達がいる。
ただ、孤立を避けるというだけの算術でしかなかったのだ。
そこに寂しいという感情はなかtった。寂しさがそこに存在すれば、
「それは孤立ではなく。孤独なのだ」
ということを知らなかった。
だが、ゆいかの方ではその理屈を分かっていた。佐和子がゆいかに惹かれたのは、
「自分が知らない世界を、ゆいかが知っているからだ」
と思ったからだ。
それを、
「SMの世界だ」
と単純に思ったのでは、ゆいかのことを、ほとんど知らない、というか、分かっていないと言えるのではないだろうか。
それ以外の大きなこととして、
「孤立と孤独の違いを分かっている人」
ということだったのだ。
少なくとも、ゆいかの方が冷静にものを見ることができるのだが、逆に佐和子の方が不安というものを強く感じることができるのだった。二人が引き合ったというのは、そういうところにあったのではないだろうか。
お互いに、
「自分の知らない世界を相手が知っていて、いずれ、その世界を見せてくれる」
と思っているからではないか。
ゆいかの方はその自覚があり、佐和子にはない。だから、二人は、
「交わることのない平行線」
の上を歩いているのであって、そこに、目に見えない結界が存在しているのではないかと思うのだった。
そんな過去のある二人だったが、そんなことなどまったく知らない純也は、合コンが終わってから、数日後に、佐和子に連絡を取った。今までの純也であれば、連絡をすると思えば、数日も置いたりはしない。約束をするしないに関係なく、その日か、遅くともその翌日くらいには、
「昨日はありがとうございました」
と、礼儀としての連絡は取ることだろう。
既読スルーになるかならないかで、今後の対応も決まってくるので、どちらにしても、連絡を取ることに問題はないのだった。
だが、今回は、純也の中に連絡を取らないだけの理由があったようだ。それは、
「気になる人ではあるが、かかわってもいいのかどうかが気になる」
ということであった。
付き合う付き合わないという問題であれば、礼儀を尽くすことに対しては何ら問題はないのだが、かかわっていいものかどうかが問題であれば、下手に連絡をして、相手に対してこちらにその気があるかのように思わせるのは、危険なことだからだ。
そんなことを女性に対して感じたことはなかった。どちらかというと、相手と話をすれば、好感以外の何物も持たない方だったので、その日のうちに連絡くらいは絶対に取っていた。
現在、三十歳になるまでに、合コンも何度か参加したことはあったが、参加しても、うまくいったためしはなかったのだ。
ほとんどは人数合わせだったので、そのつもりで行っていたし、皆が自分を人数合わせ以外で誘わない理由も分かっていた。
それは、学生時代からの嫌な思い出があったからだ。
一度、大学二年生の時に参加した合コンで、あの時も四対四だったのだが、相手の一人が、小学生の時の同級生だった。
相手は、その頃と違って、警戒心が強くなっていたのだが、天真爛漫な雰囲気をそのまま額面通りに受け取ってしまい、昔馴染みという気持ちから、小学生の頃を思い出し、懐かしいと感じたことで、気が大きくなったのか、少し横柄な態度になっていたようだ。
彼女は、そんな純也に困っていたようだが、有頂天になっている純也に相手の気持ちが分かるはずもなかった。
その時、相手がなるべくこちらを傷つけないようにしなければいけないと思っていたのを勘違いし、
「相手もまんざらでもないんだ」
と思い込んでしまったことで、相手のことが見えなくなり、自分中心の会話になっていた。
これが見ず知らずの相手であれば、ここまではしなかったはずなのだが、知り合いだと思った時、自分が合コンの中で、一人ではないという思いから、気が大きくなったのだろう。
そして、相手も、自分という存在がいてくれるおかげで、寂しくなくてもいいと感じてくれるものだと思ったに違いない。
もちろん、勝手な妄想であるが、妄想だけに、一度膨れ上がってしまうと、容赦がないというのが本心ではないだろうか。
彼女が、
「孤立していたわけではなく、孤独を楽しんでいたのではないか?」
というのに気づいたのは、だいぶ後になってからだった。
彼女がその時困惑していたということは、その日の合コンが終わってから気づいたのだ。
自分の中で、有頂天な時間が過ぎ去ってしまうと、急激に我に返ってしまい、
「どうして、あの時、彼女は困ったような顔をしていたんだろう?」
と、本来なら、その時に気づいていなければいけないものを気づかないでいた。
しかも、その時気づかなかったのであれば、そのまま気づかないであろうはずなのに、なぜにこんなに早くに気づくことになったのか、どうにも不可解な心境であった。
有頂天になっている頭の中で、
「俺は一体、何をしていたんだ? 穴があったら入りたいくらいだ」