相対の羅列
四次元をパラレルワールド的に考えると、無数に、自分という人間が存在する。つまりは、無限に石ころが存在しているということになる、
その河原にある石すべてが、パラレルワールドにおける自分だと考えると、どれを意識していいのか分かるはずもなく、見えていないのか、見えるわけはないという発想なのか、どちらにしても、形が違っているはずなのに、すべてが同じにしか見えないのは、その世界を三次元だと思い込んでいるからに違いない。
そんなお互いにまったく関係のないような話のある一辺からの発想であった時、まったく違った方向から見ているにも関わらず、同じ発想が沸いてくるようなこの発想が人間の性格をも形作っているのだと考えると、実に面白い。
佐和子とゆいか、この二人は、二人だけの世界を持っていて、誰も二人のその関係を気にする人はいないくせに、二人に何かあると分かると、きゅうにどちらかにかかわりたくなる人がいるようで、どちらとかかわりたいかと感じることで、自分がどういう性格なのかが分かるというものだ。
そもそも、二人が仲良くなったのは、中学時代にさかのぼる。
ちょうどゆいかが、天体の本を読むのに図書館によく通っていた頃のことだった。
佐和子は図書委員をやっていて、いつも一人で本を読んでいるゆいかのことが気になったのだ。
その頃の佐和子は、自分の性格に疑問を持っていた。
自分が目立ちたがり屋であることは分かっていて、さらに、必死になってまわりにアピールしたところで、空回りになってしまうのも、なんとなくではあるが、自分で分かっていた。
図書委員になったのは、図書館という雰囲気が好きだったからだ。
本が好きだというわけではなく、図書館のあの静かな雰囲気が好きで、飲み込まれそうな静寂が不思議な臭いを運んでくる。
息苦しいのだが、逃げ出したいような息苦しさではない。空気が淀んでの息苦しさではないことは、慣れてくれば、好きになる臭いであると分かったことから、どうせなら、図書委員として図書館にいるという大義名分が欲しかったのかも知れない。
そんな時、佐和子はゆいかの存在に気づき、それまでにない香りが感じられると、ゆいかが気になって仕方がなかった。今までなら、複数の奇抜な臭いが重なると、吐き気を催す臭いに耐えられなくなるのに、ゆいかの香りは、自分が欲している臭いに近いと感じられ、絶えず、ゆいかを見つめている自分に、時々びっくりさせられた。
自分をじっと見つめている目線があることにゆいかが気づいたのは、
「まさか気づかれるわけはない」
と、佐和子が感じていた頃のことで、見つめ始めて、本当にすぐくらいのことであった。
ゆいかは、佐和子を見ているつもりはなかったのに、今度は佐和子の方が気が付いた。図書館というところは、見つめられるとその視線にすぐに気づくところのようなのだ。
図書館で本をよく読む女の子は、結構中学くらいの頃にはいたものだ。
図書館でよく遭うようになったことで、教室でもきになるようになった。もちろん、気になっているのは、佐和子の方で、ゆうかの方は、ほとんど気にもしていなかった。意識がなかったと言ってもいいかも知れない。
「中村さんは、本を読むのが好きなんですね?」
と、佐和子は声を掛けた。
「ええ、小学生の頃から図書館に行くのが好きだったのよ。授業の合間でも少しだけ図書館にいるというのが楽しかったのよ。でも、本当の理由は、教室にいるのが嫌だったというのが本音かしら? 別に苛めに合っていたというわけではないんだけど、人がワイワイうるさいのが嫌なのよ。だから、図書館のように、騒いではいけないところがいいというのか、いい方は悪いけど、逃げているという感じかしらね」
とゆいかは言った。
図書委員などをやっていると、図書館に来ている人たちが普段からクラスで、どんな雰囲気なのかということは分かるような気がするのだった。
ただ、ゆいかの場合は確かに、いつも一人でいるという雰囲気があったので、教室で自分の居場所があるように思えたので、図書館に入り浸る理由はないような気がした。それなのに、どうして図書館に来ているのか、一度聞いてみたいと思っていただけに、その機会を狙っていたと言ってもいいだろう。
「松本さんは、どうして、図書委員になったんですか?」
と聞かれて、
「私は、図書館が好きだっていえば、いいのかな? 漠然とした理由で、説明しろと言われると難しいかも知れないわ」
と、佐和子は言った。
「そう、私も説明しろと言われると難しいんおよ、だから、ない理由を勝手に作っているという感じなのかしらね」
というので、
「図書館というところは、そこに自分がいるという理由を、自分で納得できなければ、いけないところなのかしらね?」
と佐和子がいうと、
「そんなことはないと思いますよ。でも、私もついつい言い訳をしてしまうのよ。一人でいる時の言い訳を考えなければいけないというのは、何かおかしな気がするわよね」
とゆいかが言った。
「私は図書委員になる前は、小学生の頃などは、図書館に来るのが好きだったわ。図書館って、表は綺麗な庭の中に建っているところが多い気がするの。美術館とか、博物館もそうなんだけどね。そういうところにいつもいると、自分に拍が付いたような気はするというのは、考えすぎかしら?」
と佐和子がいうと、
「そんなことはないと思うわ。私は小学生の頃から、母親の影響もあって、旅行に行くと、よく武家屋敷とかあるでしょう? 城下町のような感じかしら? そういうところって、お茶室があったりするのよ。よくお母さんに連れて行ってもらったわ」
とゆいかが言った。
「お茶室とは、これは風流よね。子供が行くのは珍しいんじゃない?」
「ええ、あまり見かけないわね。でも私は好きなのよ。といっても、お茶菓子が好きなんだけどね。でも、お茶室の独特の狭さの中に入って、壮大な庭を眺めながら茶道に親しむというのは、本当に優雅な時間を贅沢に過ごしているって感じがするの。旅行に行った時の醍醐味だと私は思っているわ」
とゆいかは言ったが、確かに仲が深まってから少しして、二人で旅行に出かけたことがあり、ゆいかに言われるまま、佐和子もお茶室に入ったが、
「あの時にゆいかが言っていた通りの気がするわね」
と感動したほどだった。
「ほら、学校の図書館の表の庭を思わせるでしょう?」
と言われて、見てみると、
「うんうん、なるほど、確かにそうね。こんな素晴らしい光景は、贅沢な時間を豪華に過ごしているという感じになれるわね」
と、佐和子は言った。
その頃から、旅行に出かけなくても、近場でも、城下町があって、二人で時々城下町を散策して、お茶室に行くことがあった、その頃にはお華にも興味を持っていて、特にお茶室の中に質素に一輪生けられている花を見ると、
「わびさびの世界」
を感じさせるのだった。
そんな二人が急速に仲がよくなり、お互いに相手が好きなことに気づいてくると、自分が表から見た性格と実際の性格とで違いがあることに気づいてきた。