小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

相対の羅列

INDEX|14ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

「勝手にそっちが気にしているだけでしょう?」
 と言いたいのだろうが、そう思ってしまうからこそ、苛立ちが彼女に対して向いてしまうのだ。
 それが分かっているから、女性たちは完全に相手にしない。女性同士だとそういうところはあっけらかんとしているのだろうか。最初から関係ないとして、無視していればいいと思っているのだろう。
 だが、男の方としては、どうもそんな感覚にならないようだ。
 自分のまわりにはそんな雰囲気の女性がいないということで、見てしまうからなのかも知れないが、会社の事務員が三人いて、一人だけ蚊帳の外にいるとなると、最初はどうしても気になってしまうのだ。
 それは、その人に彼女がいるいないは関係ない。最初には女性としてというよりも、同僚という目で見るからだ、
 しかし、ゆいかには、一度でも気にして見てしまうと、彼女のことを女性として見なければ気が済まないような感覚にさせる何かが秘められている。
 それが彼女の魅力というものなのか、人から離れれば離れるほど気になってしまうという人はえてしているもので、どうやら、ゆいかがそういうタイプの女性であるらしい。
 いちいち、そんなことを気にはしていないのに、そんな気にさせるのは、彼女の中にある魔力のようなものではないだろうか。
 魅力という、魅せられる雰囲気ではなく、引き付けられるイメージに魔力を感じるのだ。そこか奇妙なイメージを抱いてしまうと、離れられなくなるという感覚は、
「妖怪に睨まれると、足が竦んでしまって、そこから徐々に自分が石になってしまっていくのを、どうすることもできず、しかも、実にゆっくりと石になっていくので、その間、いろいろなことを考えさせられる」
 石になる寸前には、このまま石になってしまうことを怖いと思うこともなく、悟りのようなものが開けているのではないかと思うことだろう。
 妖怪という話で思い出すのは、森の中に開けた場所に、一匹の、いや、一体の、いや、一人の妖怪が佇んでいる姿だった。
 その男は、足がない、
 森の奥の少し広くなったとこるに、文字通り、足に根が生えたかのように、まるで案山子のような妖怪がいるのだった。
 その男は年齢的にはおじさんと言ってもいいくらいの人だが、その顔にはまだあどけなさが残っているようだった。
 ちょうど、そんなところに一人の青年がたどり着くという話だった。
「ほう、久しぶりに人が来たのを見たよ。何百年ぶりのことだろうかね」
 とその男が言ったが、彼の足元が案山子のような一本足であることに気づくと、その何百年という言葉も、不思議に思わないのだから、面白いものだ。
「一体、あなたは、ここにどれくらいいるんですか?」
 と聞くと、
「ハッキリと数えたわけではないが、数千年はいるだろうと思うよ。あんまり待ちくたびれたので、足がこんなになっちまった」
 と妖怪がいうので、
「いや、待ちくたびれたから、そんなになったわけではないですよね?」
 と男がいうので、
「どうしてそう思う?」
 と妖怪が聞くと、
「だって、最初からそんな足でないのなら、さっさとここから離れればいいだけじゃないですか? それとも、あなたは、ここに何千年もいる方が、他に行くよりもいいんですか? 何千年もいるということは、永遠に生きられる命を持っているということなんでしょうかね?」
 と青年がいうと、
「そうだな。永遠の命か最初は、そんなものがあればいいなんて思ってたけど、もうそんな感情忘れちまったな。何しろ、何千年だからな。今でも石斧で持って、イノシシを追いかけている光景を見るくらいだぜ」
 と、妖怪は言った。
「それにしても、よく、何千年という期間を自分で自覚できたものですね。そこは尊敬しますよ。私なんぞは、毎日同じことを繰り返して暮らしているので、どれが昨日のことだったののかなど、覚えてもいませんけどね」
 と男が言った。
 男の方からすれば、その気持ちにウソはなかった。
 確かに、どれが昨日のことで、どれが今日のことだったのかということすら分からない。しかも、一度寝て、目が覚めると、今が朝なのか夕方なのか、感覚がマヒしているのを感じる。彼は、ここ数日間というもの、この森に迷い込んで、抜けられなくなっていたからだった。
「この森に迷い込んでから数日、最初の一日は、やけに長く感じたものさ。次の日になるとその半分くらいの気分、またその次の日は、その半分というように、どんどん、半分ずつになっていくんだよ。でも、決して短くなっているという感覚はそれほどないんだ。それよりも、毎日がまったく同じに考えられて、まるで昨日を繰り返しているという感覚しかないんだ。だから、どれがいつのことだったのか分からなくなる。そのくせ、一日が終わった瞬間というのが分かるのが不思議といえば不思議だね。そして、この不思議だと思う感覚が、この森の中で自分が生きているという唯一の証のような気がするんだ。道に迷って、このまま抜けることができないかも知れないと思ったのは、きっと、同じ日を繰り返していると思ったからなんだろうな」
 と青年は言った。
「なるほど、その感覚は、数千年前にも私が感じたのとまったく同じ機がする。そういわれてみると、お前を見ていて、俺がこの森に迷い込んだ時のことを思い出したよ。早くこの場所を抜けたいと思うのだが、それは、同じ日を繰り返しているのが怖いからじゃなく、この場所から抜けられなくなるのが怖い気がしたのさ。同じ日を繰り返していることが怖くないのは、長生きできると思っているからなのかも知れない。長生きできるのであれば、この場所から離れなくてもいいと、不覚にもそう思ってしまったんだろうな。それが間違いの元だったのさ」
 と、妖怪が言った。
「あんた、本当に妖怪なのかい?」
 と青年がいうと、
「妖怪なんだろうな。今の俺は妖怪なんだって思う。でも最初は人間だったのさ。じゃあ、いつから妖怪になったんだと言われると、俺にも分からない。しいていえば、同じ日を繰り返しているという自覚を持った時ではないかな?」
 と妖怪はいうのだった。
「同じ日を繰り返している?」
 と青年が聞くと、
作品名:相対の羅列 作家名:森本晃次