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相対の羅列

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 もちろん、すべての子供が、そしてすべての親がそんな風に考えるとは言い切れないが、少なくとも、猫を飼うということで家族の間に亀裂が入るのは、実に困ることだというのが母親の考えだろう。
 何といっても、子供は一時の感情に走るものであって、その後の面倒はすぐに見なくなるということを分かっているのだ。
 それだけ、母親も子供の頃に同じ目に遭って、捨てに行った経験があるのかも知れない。あの時、母親が許していたらどうなっていたかということを考えると、
「親の心子知らずとは、このことだ」
 と、母親になってから感じるのだろう。
 純也は、佐和子が自分をそんな捨てられたネコを見るような女性なのではないかと思った。かわいがってあげようという思いというよりも、その目立ちたいという感覚から、まるで、ペットでも飼っている気持ちになるのではないかと感じたのは、それが自分がおだてに弱く、まわりに合わせてしまうところがあり、都合よく扱われる人間だと思っているからであり、そんな自分を、
「捨てられたネコ」
 のように見ているということは、性格的にはSではないかと思うのだった。
 他の人たちが佐和子に対してどのように感じたのか分からない。
「せっかく合コンに来て、自分はせっかく人と馴染める性格なのに、何も純也のような、人数合わせに連れてきた相手を選ばなくてもいいじゃないか。よほどの変わり者なんじゃないか?」
 と思っているのかも知れない。
 その証拠に、純也に興味を示した佐和子を誰も相手にしようとはしない。変わり者のレッテルを貼っているのか、それとも、純也が感じたように、彼女にS性を見たのか。普通の男子だったら、S性のある女性にわざわざ食指を伸ばすようなことはしないだろう。
 しかも、ここは合コンの場なのである。何も好き好んで、自分がMで、Sの女性を探してでもいない限りは、そんな思いに至ることはないであろう。
 そう思っているからこそ、誰も二人の間に割って入ることもなかった。
 合コンの時間は二時間だったが、そこでカップルになった人は誰もいなかった。佐和子も別に純也と話はしたが、連絡先を交換するようなことはなかった。純也はその様子を見て、
「この人は、他に誰も相手ができる人がいなかったので、消去法で、最後に残った僕を選んで話していただけなのかも知れない」
 純也も緊張していたのか、佐和子がどんなことを話したのか、終わってみれば、あまり覚えていない。話を聞いていて、なるほどと思ったことには、うんうんと頷いていただけであった。
 その割には結構頷いていたと思っているので、彼女の話にかなり納得していたのは間違いない。そのくせ、内容と覚えていないというのは、それだけ一般的なことで、印象に残るような話はしてこなかったということを示しているのだろう。
 それを思うと、、純也は佐和子のような女性と、今後もかかわっていく気にはなれなかった。だから、純也も彼女の連絡先を聞こうとは思わなかったようだ。
 二人はその日だけのことだと思っていたが、それも無理もないことだった。他の連中もカップルができなかったことで、
「今日の合コンは最悪だったな」
 と一人がいうと、
「まったくだな。こんな中途半端な気分のまま終わった合コンも珍しいよな。どうだい、このまま俺たちだけで、二次会にでもいかないか? 俺、腹減っちまったよ」
 ともう一人がいう。
「俺は賛成だ。なんだかんだいって、あまり食べれなかった気がするからな」
 ともう一人が言った。
 確かに、テーブルの上には、いろいろな食事が自分たちの手によって、持ってこられてはいたが、そのほとんどに箸がつけられているわけではなかった。
 かといって、皆が会話に集中していたわけではない。どちらかというと、皆相手の様子ばかりを気にしていて、会話になっていなかったのだ。
「合コンって、こんなものなのか?」
 と、純也は思ったが、複数対複数なので、会話のタイミングがピッタリと合えば、会話は勝手に盛り上がるのだろうが、どこか一か所に綻びがあれば、会話は一つとして成功しないのではないかと思ったのだ。
 歯車というものが、一つでも噛み合わないと、まったくどれもが狂ってしまうかのようである。
 会話には、歯車のような咬み合わせがなければ、成立しない。どちらかが考え込んでしまうと、それ以上進まないからだ。
 だが、今日の合コンはそんな雰囲気があったわけでもない。それぞれに会話のタイミングはあったはずだ。それでも進まなかったということは、最初にカップルになったであろう、純也と佐和子の間のギクシャクが、閉会の時間まで、微妙に場の空気を淀んだものにしていたのかも知れない。
 そう思うと、皆が二次会に行こうというその席に自分が参加する気持ちになれず、
「すまない。僕は今日はここで失礼するよ」
 と言って帰るしかなかったのだ。
 その日のことはずっと忘れていた。今後も思い出すことなどないだろうということを感じながら……。

               妖怪と、天国地獄の世界

 純也の事務所には、事務員の女の子が三人ほどいた。そのうちの一人に、中村ゆいかという女性がいて、三人の中でもあまり目立つタイプの女性ではなかった。実際に事務所の飲み会などでも、まったく目立たずに、一人でいることが多く、
「私に誰も話しかけないで」
 というオーラが感じられ、
「どうせ会話をしようと試みたとしても、話題が噛み合うわけなどない」
 と誰もが思っていることだろう。
 その話題というのも、いくらこちらがひねり出したとしても、彼女に打ち消されそうに感じるのだった。実際に仕事をしている時でも、こちらが気を遣っているつもりでも、その遣った気を、相手が削ぐようにしているのではないかと思えるふしがあり、もちろん、意識的にそんなことをしているわけではないのに、おかしなことを感じるものだと思わせるのだった。
 そのせいか、三人事務員がいるのに、いつも一人の時が多い。三人一緒につるんでいるところを誰も見たことがないという。しかも、ゆいかだけいつも一人でいて、そのくせ、
「一人が似合う」
 というわけでもなさそうだ。
 要するに、まわりに馴染めないだけである。
 それも、意識的にか無意識になのか分からないが、まわりの雰囲気をぶち壊すだけの何かがあり、負のオーラをまき散らしているのを感じるのであった。
 一人いつも蚊帳の外にいるゆいかだったが、本人はそれをまったく気にしていない。
「やはり、彼女のあの雰囲気は意識的にしていることではないか?」
 と思わせるのだが、その思いは当たらずとも遠からじであった。
 ただ、ゆいかという女性は、
「気になると思って気にしてしまうと、結果、最後には憎らしいほどにこちらの考えをすべてご破算にしてしまいそうな、思いにさせ、まるで、時間の無駄を感じさせる虚無の感情を抱かせることで、結局、無駄なことをさせられた」
 という感情を抱かせるような、憎々しい性格なのだと思わせる。
 そのくせ、気にしないではいられない、何か放っておけないような感情をまわりの人に抱かせるのだった。
 だからこそ、嫌われるのだが、彼女からしてみれば、
作品名:相対の羅列 作家名:森本晃次