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相対の羅列

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「俺だって、こっちでは一番目立つ人間として、この席に座っているんだ」
 という自負もあったことだろう。
 それでも、まわりがする質問を妨げるような大人げない行動をとることはなく、会話はごく自然に交わされていった。
 純也はそんな中で自分の立場をわきまえていて、積極的な立ち回りをしようなどと思わなかった。別に誰かとカップルになりたいなどという気持ちもなかった。単純に、
「おだてに弱い」
 ということで来ただけであって、
「こうなったら、うまいものをたらふく食って、満腹になって帰ってやろう」
 という食欲の方に気を取られていた。
 今日は、ちょうどバイキング形式の会だったので、おあつらえ向きだった。
 合コンをバイキング形式で行うというのは、主催者の考え方で、
「この方がじっとしているわけではないので、気軽に行動できる。気になった相手の食事を自分がよそってあげるなどの積極的な行動をとることもできるし、いいのではないか?」
 ということで、決まったものであった。
 だが、この方法に反対する人は誰もいなかった。会話が苦手な人も、立ち上がって食事を摂りに行く時、会話ができるのではないかと、同じことを考えたからだった。
 しかも、人数合わせに呼ばれた人間としても、
「せっかくだから、食欲の方に専念ができる」
 と思うことで、誰からも文句の出るものではないということで、この案は、クリーンヒットだったに違いない。
 野球で例えるなら、純也は二番バッターで送りバントや犠牲飛球を期待される選手で、佐和子は、ホームランを期待される四番打者というくらいの違いであろうか。
 だが、四番打者と思しき佐和子は、結構まわりを見る目があるようで、見渡した中で、気になったのが、端にいた純也だったというのは、誰もが以外だったに違いない。佐和子は他の人に対しては適当にいなしながら、明らかに自分が純也を気にしているということをしっかりと、まわりに示していた。
 さすがにここまであからさまにされると、誰からも文句が出ることはなかった。
 他のメンバーは、それぞれに相手を見つけて、ちゃんとカップルになっていた。合コンというものは、最初にカップルができてしまうと、後はなし崩しに出来上がるものなのではないかと、純也は感じた。
 しかし、なぜ佐和子が自分なんかに興味を持ったのか分からなかった。
「普段は、いつも自分とつり合いのとれた相手とばかり話をしているので、たまには別のタイプの人と話をしてみたいとでも思ったのかな?」
 と感じた。
 いつも、洋食ばかり食している人が、たまには和食を食べたくなるというような、飽食状態だったのかも知れないと感じた。
 ただ、純也としては、
「いくら飽食状態だからと言って、自分以外にも相手はいただろうに」
 と思った。
 一瞬であるが、
「からかわれているのかな?」
 と感じたほどだった。
 別にそれならそれで、こっちが気にしなければいいだけで、もしそうでないのだとすれば、どうすればいいのだろう?
 下手に真に受けてしまうと、すぐに本気にしてしまうという悪い癖がある純也だった。だから普段から自分をわきまえていて、今回だって、人数合わせに徹することに対して、別に嫌な思いがあったわけではない。
 それを思うと、真に受けたというわけではないと思ってはいるが、相手の態度によって、変に邪険にするのも、相手を傷つけることになる。
 もっとも、相手がそんな紛らわしい態度に出るのだから、その人が傷つこうがどうしようが、知ったことでもないくせに、なぜか気になってしまうのは、自分も彼女のことをまんざらでもないと思い、
「チャンスあるかも?」
 と感じたからではないだろうか。
 相手の佐和子の方がどう思っているのか。
 最初は、いつも同じような目立ちたがりな人ばかりを相手にしていると、自分が疲れていることに気づいていなかったことに、今回、無意識にであったが気が付いたようだ。
「それならば」
 と、今回は人畜無害そうな人と話をしていれば、あざとい相手から声を掛けられることもないだろうという思いもあってか、声を掛けてみたのが、純也だった。
 見た目は、とっつきにくそうな人だったので、その人と少しでも話をしていれば、他に人が割り込んでくることはないだろうと思った。自分が嫌になれば、適当に言って一人になればいいだけで、我慢はちょっとで済むと思っていた。
 確かにとっつきにくそうな相手で、話しかけた時も、明らかに、面倒くさそうな表情をした。しかし、その時の印章が、
「この人嫌だ」
 といつもであれば思うのだろうが、それよりも、
「この人、何?」
 ということでの好奇心の方が先に湧いてきたのだ。
 それを感じると、それ以降の表情は、人懐っこい感じに感じられ、まるで猫のような雰囲気が感じられた。
 甘えん坊で、身体を摺り寄せてくる姿が、妙に嬉しくなってくるのだった。
 どうして猫を思い浮かべたのかというと、猫というのは、好き嫌いが激しいものだ。好きな人はかわいくてしょうがないのだろうが、嫌いな人はとことん嫌いだ。特にアレルギーを持っている人には、これ以上危険なものはない。近づけてはいけない人だっているのも知っている。
 それでも、好きな人は、そんなことを忘れてしまうほど、猫を好きになるのだ。
 子供の頃、たいていの子供は、捨てられている猫を見て。
「可哀そうに」
 と思い、自分で飼ってあげようと、家に連れて帰って、
「おかあさん、この子、飼っていいかしら?」
 というと、ほとんどの家では、
「捨てていらっしゃい」
 と言われるだろう。
 家族の中に誰かアレルギーの人がいる場合はもちろん、猫嫌いの人がいる可能性も高い、
 そして、猫を飼ってはいけないというマンション住まいであれば、飼えないことは最初から分かっていることだった。
 それらがクリアできたとしても、猫というのは、飼うのは大変難しい。一度出て行ってしまえば、ちゃんと帰ってくるのかというのも問題だし、ちゃんと飼えたとしても、家族の誰かが、必ず家にいて、猫の面倒を見てくれるというわけでもない。
 犬であれば、まだしも、猫を飼うとなると、ちゃんとしたペットショップで購入してきた子でもなければ、飼うことは難しい。
 そして、親が思っていることが、一番問題なことだった。
「子供が飼いたいと言ってたとしても、それは一時の感情なだけで、すぐに飽きてしまうに違いない。そうなると、面倒は母親の自分が見なければならないことは一目瞭然で、ペットを飼うということはもちろんのこと、子供の教育上、すぐに飽きてしまうようなことを、許してもいいのだろうか? その時になって子供を??りつけ、仲たがいをして気まずくなるというのも困る。それくらいなら、最初にガツンと言って、飼ってはいけないという引導を渡した方が、よほど平和に片が付く」
 ということであろう。
 子供の立場では、その時考えているのは、
「猫がかわいいから飼いたい」
 という思いであって、
「猫を飼うということが、自分の自尊心を高める」
 という思いの裏返しにはならないか? と母親は考えるのではないだろうか?
作品名:相対の羅列 作家名:森本晃次