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少年の覚醒

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 中学校の教頭も、高校の教頭も、イメージとしては、それほど目立つ人ではなかった。問題が起これば矢面に立たされるというのは変わりはないが、小学校の教頭のように、しっかりと対応できる教頭という雰囲気がどうしてもしなかった。
「自分が、大人になっていく過程で、教師というものを見ているからではないだろうか?」
 と感じられた。
 中学、高校の教頭というと、どこか、校長の代理というイメージであり、それだけに、教頭が何かの対応を迫られることに直面した時、教頭の判断一つで、局面はまったく変わってしまう。
 そういう意味では、相当なプレッシャーがのしかかってくることであろう。
 中学、高校の教頭に、そのプレッシャーをはねのけられるだけの力量があるようには思えなかった。実際に、自分が中学生、高校生の立場になって、先生を見るからであろう。
 高校生の時は、共学だった。
 進学した高校は、野球の強い学校で、いつも県大会ではいいところまで行っていて、過去には何度か全国大会に進出したこともあったという。
 最近では、全国大会から少し遠ざかっているようだったが、そのせいか、野球部自体が少し崩れているかのようだった。
 それを象徴するかのように、野球部員が他校の生徒と、問題を起こしたということだった。
 まるで当然のことのように、高野連に地区大会の出場を辞退するという判断になった。
 これも当然のことのように、マスコミは報道し、出場辞退と新聞は雑誌で大きく報道したのだ。
 そこに、教頭の談話も載っていたが、
「我が校の生徒が、他校の生徒にご迷惑をおかけして申し訳ないことをしたということを真摯に受け止め、野球部の対外試合の一年間辞退ということにさせていただきました」
 と書かれていた。
 どのようなトラブルがあって、相手校との間にどのような話し合いがもたれたのかということは一切報じられず、
「問題が起こったから、野球部は、連帯責任として、対外試合の停止処分を行った」
 という報道しかされていない。
 つまり、関係者の間だけで片付けられ、学校の方で最善を尽くす形になったのだろうが、とばっちりを受けたのは、真面目に連中に勤しんでいた野球部員たちである。
「俺たちは何もしていないのに、どうして出場を辞退なんかしないといけないんだ」
 と思っていることだろう。
 確かに昔から、野球部員だけでなく、同校の生徒が不祥事を起こせば、野球部は大会への出場辞退というのは、慣例になっている。
 しかし、いつも辞退するのは野球部ばかりで、他の部が出場辞退というのはあまり聞いたことがない。それだけ野球は注目されているからなのか、それとも昔からの慣例に基づいているからなのかと思うと、実にやっていられない気持ちになるというものだ。
 それを判断するのは、最終的には教頭であろう。そして、校長がその意見に賛同するという形ではないだろうか。
 そういう意味では学校での決め事は、
「教頭先生が決定したことを、校長が承認する」
 という形のところも多いのではないだろうか。
 ただ、表向きには、あくまでも、最終決定者は、校長ということになるのだろうが、学校によって、決め方も違ってきているのかも知れない。
 そういう意味で、高校の教頭というのは、絶大な権限を持っているので、その人間性によって、その先が決まってしまうということが理不尽な結果を及ぼしていると言えるのではないだろうか。
 すべての決定権が教頭にあるわけではないだろうが、結果だけを見れば、その時の事情がどうであれ、結論は決まっていることであろう。
 確かに出場辞退などというと、生徒も可哀そうだと言われるだろう。
 しかし、学校側としては、今までの慣例から、
「出場時代というのは、法律における判例のようなものであり、学校関係者が起こした不祥事に対しての責任の取り方だ」
 ということで、世間は納得してくれる。
 そうしなければ、学校側の態度を疑われてしまう。要するに、学校の面子とプライドが大切なのだ。
 学校の信用をなくせば、進学しようとする生徒が激減し、せっかくのよかったであろう偏差値も下がってしまうことになる。
 そうなると、数年後には教頭が責任を問われかねない。
 もちろん、その不祥事が起こった時、そこまで考えたのかどうか分からないが、世間の風潮に逆らってまで、学校の評判を落とすことは、教頭としては絶対にできないことだったのだろう。
 教頭という立場は、世間や、教育委員会、保護者の矢面に立って、その風を一身に受けなければいけない。そういう意味で、精神的にしっかりした人であること、そして、ここまで堅実に自分の地位を積み重ねてきたという自信を持っている人でないと務まらない、
 中学、高校時代の教頭と、小学生の時のような優しさだけが表に出ていた教頭のどちらが教頭としてふさわしいと言えるのかどうか、聖羅には分からなかった。
 しかし、今回赴任する母校にいる今の教頭は、自分が教師になり、今度は上司として見なければならない相手としては、尊敬できる人ではないかと思うのだった。教頭先生というものが学校の顔であるとすれば、今後ともそのつもりで見ていくつもりであったのだ。

                 吉塚の恋心

 同窓会から二年が経ち、吉塚は聖羅先生に出会った。街で偶然見かけて、最初に声を掛けたのは聖羅だった。最初はキョトンとしていた吉塚だったが、声を掛けてきた時の聖羅の顔が、今まで見たことがない表情だったことが吉塚をドキリとさせた。
「吉塚君だったわよね?」
 と言われて、その顔が見覚えがあるところまでは分かったが、誰だったのか、すぐに思い出すことはできなかった。
「坂上です」
 と言われても、ピンとこない。
「坂上聖羅です」
 と言われて、初めて、相手が聖羅先生であると分かった。
 いつも皆とは、
「聖羅先生」
 としか読んでいなかったので、いきなり苗字を言われても、ピンとくるはずもなかったのだ。
「ああ、聖羅先生ですね?」
 というと、
「あら、恥ずかしいわ。下の名前で先生と呼ばれると」
 と言って、その表情がまんざらでもない様子に見えたので、どうやら、今も生徒から、聖羅先生という名前で呼ばれているということは察しがついた。
「どうしたんですか?」
 と聞くと、
「さっきまで、大学時代のお友達と一緒だったんだけどね。ちょうど別れて、一人でブラブラしているところだったのよ」
 というではないか。
 さっきまで一緒にいたというのは、中学からの友達の由衣だったのだ。彼女とは今も文芸サークルの繋がりで、よく一緒に出掛けたりする。彼女は、
「私も小説が書けるようになりたいわ」
 と言っているので、
「及ばずながら、私がお手伝いさせていただくわ」
 と、聖羅も、由衣が小説を書けるようになることを欲していた。
 何しろ、大学時代には小説を書ける人が何人もいたが、卒業してからは皆バラバラになってしまったために、今では友達として定期的に会うのは由衣だけになった。
 小説を書いていた人といえば、赴任地が遠隔地だったり、家事手伝いをしていて、近々結婚するという人がいたりと、皆様々だったのだ。
作品名:少年の覚醒 作家名:森本晃次