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少年の覚醒

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 二年目になってくると、最初は文武合わせて、五つしか部活はなかったが、取材に来るのが分かると、部を作ろうという生徒が徐々に増えてきた。それは、これまで様子見で、すぐに部活に協力しなかった保護者たちが、取材が増えたことで、今度は、
「部活をやらせる方がいい」
 ということになり、積極的に動くようになってきた。
 何しろ大人の、しかも、子供の教育ということにかけては、尋常な感情を持たない保護者が多いことで、行動を始めれば、後は早かった。
 生徒の思いというよりも、部活をやらせることで、自分たちをはじめとして、メリットしかないと思うのだから、行動が速いのは当たり前だ。
 生徒の方では、あっという間に部員を五人以上集めてくる。先生の方では、そんな情報は入ってこないのだから、
「部を作りたいんです」
 と生徒が言ってきても寝耳に水で、何ら準備もしていない。
 まずは、
「部活ができるだけの環境が整っているか?」
 つまりは、グラウンドや教室など、使用できる場所があるのかどうかの問題から始まる。
 そして、その部活で必要な道具を洗い出し、モノがなければ、購入への予算も組まなければいけない。
 そして、顧問の選定と、さらに、部活を続けていくうえで、いくらくらいの予算が必要かなどということを、学校に申請して、認可を受けなければならない。
 中学、高校などでは、元々存在している部活に、部員が増えるだけなので、別に当事者だけの問題なのだが、中学高校でも、新しく部活を始めるとなると、そう簡単にはいかないだろう。数か月は最低かかるものであろうし、それを考えると、小学生の部活という、新たな試みで、しかも、一気に部が増えるとなると、交通整理をする人も必要になってくる。
 一気にすべての部活をスタートさせることは不可能で、優先順位も必要になってくるだろう。
 そうなると、生徒の中でも代表者を募り、学校と話をする人が必要になってくる。
 そこで本当は保護者に介入されるのは困るのだが、保護者側も黙っているはずもなく、
「生徒だけで、先生たちと話をするというのも無理な話なので、、私たち保護者も、代表を募って、話ができる、そう、三者会談のようなものを作ればいいと思いますので、それを提案いたします」
 と言ってきたのだ。
 確かに、ここで保護者が出てきてくれると、交通整理に一役買ってくれるかも知れない。
 こういう時に保護者は団結する。それがいい意味での団結であれば、学校側としても、ありがたいことではないだろうか。
 学校の施設は学校側で、購入するための道具の洗い出しなどは、保護者の会の方でやってもらうという、分業制にすることで、余計なトラブルを抱えないで済むような気がした。しかし、施設の問題と、道具の問題は、まったく関係のないものではないので、調整が進むにつれて、どこかで衝突が起きないとも限らない。
 そのことを、自覚していないと、お互いに衝突してしまった時、自分たちの主張を繰り広げるだけで、話は前に進まないことだろう。
 そう考えると、この間にも誰か調整役の人が必要で、その人が、その部活の顧問ということにすればいいと思うのだった。
 結成から携わっているので、いきなり顧問と言われても、戸惑う人もいるだろう。そういう意味で、聖羅先生の場合は、最初からあったものに対しての顧問なので、少し大変だったかも知れない。
 女子バスケットボールでは、六人の生徒がまず申請してきた。小学校の体育館には、一応バスケットのゴールはついていて、設備を整える必要はなかった。ボールだけは、購入する必要があったが、それも、何とかなりそうだった。
 六人であれば、練習も十分にできる。三対三での試合形式にもできる。
 そういう意味では、必要以上な場所がなくとも、活動ができるという意味で、学校側も簡単に許可が出せたのだった。
「勉強に支障がなければ、部活を行ってもかまわない」
 ということで、許可が下りた女子バスケット部で、問題は顧問だったが、顧問の先生となったのは、既婚者だった前任者だった。
 彼女は、
「私はいずれ、子供を産むことになるので、その時は産休を取りますので、その時に彼女たちの顧問を臨時でもいいので、引き受けてもらえる人を確保できるのであれば、顧問に応じてもかまいませんよ」
 ということでの、条件付きで承諾したのだった。
 学校側も何とかなると踏んでいたので、彼女の条件を飲む形で、女子バスケット部の活動が始まった。
 まだ、その頃は、部活の数もそれほどでもなく、体育館を十分に使用することができた。そのうちに、バレー部、新体操部、バトン部、ハンドボール部などが、体育館でひしめくようになっていったが、最初は、ほぼ練習の妨げになることはなかった。
 その状態を最初に見ていたので、学校側もさほど大変だとは思わなかった。しかし、体育館の限られた場所での練習は、いくら、場所をそんなに使わないとはいえ、気を遣うものだった。
 特にボールを使っていると、まわりに気を遣わざる負えず、相手も、気にすることで、思った以上の練習ができなかった。
 本来なら、伸び伸び行うはずの練習で、却ってストレスが溜まってしまうと、学校の成績にも影響を及ぼすというもので、最初に申請の時に約した、
「勉強に支障がなければ」
 という部分で、部活の存続が危ぶまれた。
 これは、女子バスケットボール部に限ったことではなく、部活全体の問題だった。
 時に、体育館での部活に限り顕著だったことで、その原因がどこにあるのか、先生たちもその探求をせざるおえない状況に追い込まれた。
 ちょうどそんな時、前任の顧問が懐妊した。そのことで、
「次の臨時顧問の選定」
 という問題が出てきたのだ。
 当てにしている聖羅先生は、まだ一年目で、すぐに顧問としては、その荷が重すぎるということであった。
 とりあえず、前任者には、顧問として君臨してもらい、副顧問として、聖羅先生を置くことで、スムーズな顧問の引継ぎを狙ったのだ。
「顧問の内部昇格」
 という形であれば、まわりからも何も言われることもないし、聖羅先生も副顧問としてのノウハウを持っての顧問就任となるので、おぜん立ては出来上がっているというものである。
 実際に副顧問をやっていると、顧問のやり方が見えてきた。自分も学生時代にやっていた経験があるので、今度は初めて指導者の目でみると、
「なるほど、こういう視点なんだ」
 ということが分かってきて、実際にやってみると、楽しかった。
 自分では、副顧問というよりも、コーチ就任の感覚だった。
 自分が選手だった頃についてくれていたコーチのことを思い出していた。
 そのコーチは学校の先生ではなく、学校のOGで、卒業後に、社会人団体からスカウトされ、社会人実業団チームの一員として、全国大会にも何度も出ているという、有名選手でもあった。
 途中、ケガなどもあり、引退を余儀なくされたが、その後、
「後進の指導を行いたい」
 という希望を持ったことで、母校のコーチとして、またバスケットにかかわることを選択したのだった。
「さすがは、元有名選手」
 というだけの厳しさを持っていた。
作品名:少年の覚醒 作家名:森本晃次