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少年の覚醒

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 という発想を受け入れたのだ。
「モデル校になって、世間の注目を集めれば、自分たちも注目を集めている学校の教師として、鼻高々となれるぞ」
 と教頭は言っているが、若い連中に理想論を語ったり、先のことを話しても、なかなか受け入れてもらえない。若い連中は、それだけ目の前のことで手一杯だということなのだろう。
「俺たちの学校がモデル校だなんて言ったって、それがどうしたっていうんだよな。教頭のやつ、何を考えていやがるんだ? あれじゃあ、教育委員会の回し者だと思われてもしかたないじゃないか」
 と、若手の先生たちは、そう考えていたが、この考えは半分は当たっていた。
 見た目には、学校側と教育委員会側、どちらにもいいことのように思え、部活のことまで考えると、学校側の方がさらに有利な気がするが、ところがどっこい、そうは問屋が卸さない。
 教育委員会のような団体が、いくら自分たちもいい条件になると言って、学校側がここまで得をする条件に乗ってくるわけはない。
 教育委員会としては、ぜひともモデル校として、成功してもらわなければ困るのだが、その後も、ずっとこの小学校を利用し続けようと画策していた。
 一度、引き受けさせると、後はなし崩し的に、
「あの時承認してやったろう? お前たちだって、かなり甘い汁を吸ったはずだ。だから、今回も頼むよ」
 と言われてしまうと、最初の時の恩義があるので、学校側も断れない。
 何しろ、最初に手を結んだ相手が教育委員会というのは、相手が悪い。
 一度食いつかれてしまうと、なかなか逃がしてはくれない相手だということに、教頭尾さすがに気づくのが遅れた。
 今のところはまだ何も教育委員会から言ってきていないが、最近になって、教育委員会の態度が変わってきていた。
 今までは。。
「モデル校として、教育というものに多大な功績のあった学校」
 ということで、他の学校に対しても、
「あの学校を手本にすればいい」
 などと言っていたのだが、最近では、何も言わなくなった。
 むしろ、いい話題が起こりそうになったところ、いつまで経っても話題が膨れ上がってこないことを不思議に感じた教頭が、極秘に調べてみると、
「どうやら、教育委員会の一部の連中が、裏に手を回して、おたくの小学校の話題が上がらないように、途中で遮断しているようなんだよ」
 と、いう話を聞いた。
「それは一体どんな団体なんですか?」
 というと、
「例のモデル校を推進していた連中ですね。まるで、この学校が目立つのを敬遠しているかのような様子ですね」
 というではないか。
 なるほど、その人に言われてみるとそんな感じがした。しかし、お互いに得をするといういい話だったはずなのに、なぜ教育委員会は、自分たちの学校を今度は目立たないようにしようというのだろうか?
 それを彼に聞いてみると、
「これはおそらくだけど、一つは、お前の学校をモデル校として売り込ませたことで、これからもそれをネタに、いろいろと教育委員会のために、動く組織の駒にされかねないということさ、一度は乗ってしまったのだから、教育委員会には逆らえない。睨まれると、味方になってくれないだろう? 何かあった時、教育委員会を敵に回すと、もし、保護者団体と一緒になって攻めてくると、小学校の一つや二つ、ひとたまりもないんじゃないか?」
 と言われた。
 聞いていて、背筋がゾッとしたくらいだ。言われてみれば確かにそうである。教頭の中には、
「教育委員会は、いろいろ言われていても、最後は教育に対して真摯であり、学校側の味方になってくれる」
 などと思っていた。
 しかし、世の中そんなに甘いものではない、教育委員会というのは、しょせん役所のようなものであり、そこに利権とカネが絡めば、豹変してしまうのは当たり前のことだ。
 教育委員会に対して、甘く見ていた自分に後悔したが、もうどうなるものでもなかった。後は、教育委員会に逆らわずに、何とかその場をしのいでいくかということが問題なのであった。
「ところで、他にもあるのかい?」
 と聞くと、
「そうだな、きっと、教育委員会というところは、カネが入ると、もっともっと欲しくなるところなんだろうな。第二第三のモデル校を作って、そこも自分たちの操り人形にして、カネを貪ろうとしているのかも知れないな」
 というではないか。
 そのためには、最初に餌食となった自分たちを黙らせておく必要があるのだと、教頭は思った。
 自分たちが下手に表に出ると、モデル校の果てがどうなっているのかを、悟られてしまうと、せっかくの計画が水の泡だ。目の前にぶら下がっているカネをどんなことがあっても、奪取するということに必死になるだろう。
 カネというものは、手に入るはずのものを見す見す取り逃がすと、その後はお金に見放されてしまうのではないかという疑心暗鬼に囚われてしまう。
 悪いことを考えている連中ほど、その疑心暗鬼が強く、怯えからか、強硬なことをしてしまいがちになってしまうと言えるだろう。
「モデル校なんて、幻影でしかないんだ」
 と思うと情けなかった。
 聞こえはいいが、教育委員会の傀儡であり、やつらに弱みを握られたものが待つ末路だと言ってもいいだろう。
 しかし、そのことがなんとなくでも分かってくれば、
「こうなったら、利用されながらでも、こっちも利用できることを考えるしかないではないか」
 と考えるようになった。
「目には目を歯には歯を」
 相手はまさか、こっちが感づいているなど思ってもいないだろう。
 それをいいことに、
「こっちも逆利用してやろう」
 という、ささやかな抵抗とでも言ってもいい。
 どこまで抵抗できるか分からないが、相手の策略が分かった以上、必要以上に相手の口車に乗ることはないのだ。
「こちらばかりがバカを見るなんて、これが教育現場の真実だと思うと、情けなく思えるが、こうなったら、臨戦態勢で、教育委員会に一泡吹かせるくらいのことを考えてもいいだろう」
 と考える学校も今後出てくるだろう。
 そうなった時、こちらはどのような対応をすればいいのか、考えておく必要がある。とにかく、今は、自分たちの立場を把握しておくことが大切であった。

                  バスケットボール部

 同窓会のあった日から一か月くらいが経った時のことだった。モデル校としても、脚光を浴び始めて、雑誌や新聞の取材も増えてきて、
「そのうち、テレビも来るんじゃないか?」
 と言われるようになっていた。
 教育委員会への不満もあったが、モデル校としての立場がよくなってくると、あまり教育委員会に対して不満を漏らす人はいなくなった。それどころか、
「最初は胡散臭いと思っていたけど、教育委員会の言った通り、モデル校になれば、ちゃんとお金も降りるし、評判になって、取材も来るしで、悪いことばかりではない。むしろ、彼らの言っていた通りのいい方に向かっているではないか?」
 といわれるようになった。
 すっかり、不満は解消されたかの如くで、学校側も、何とか留飲を下げていたところであった。
作品名:少年の覚醒 作家名:森本晃次