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孤独という頂点

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 しかも、自分でもこんなに饒舌だったんだと感じると、人と話をするのがこんなに楽しいとは思ってもみなかったことに気づいたのだ。
 大学時代も、友達がたくさんいて、いろいろな話をするのが楽しかった時期もあった。
 特に将来のことについて話をするのが好きなやつがいて、そいつの話を聞くのが楽しくて、よく彼の下宿に泊めてもらって、夜更かしをして話に興じたものだった。
 だが、この街で、おばさんたちとの話はまた違った。おばさんたちの人懐っこさは、初めて話をしたとは思えないほどで、
「昔から知り合いだったような気がする」
 という錯覚を与えられた。
 しかし、錯覚であるということに間違いはない。なぜなら、会話はあくまでも、都会のことを聞きたいという、馴染みの人との話ではなく、当然話し方も、昔から知っている相手とは違うものだった。
 それでも、錯覚に陥るということは、癒しのようなものをおばさんたちに感じたのだろう。
 同じ癒しでも、風俗で味わった癒しとは違う。
 風俗では、身体全体を使っての癒しなので、
「気だるさが心地よい」
 という感覚に陥るのだが、おばさんたちとの癒しは、
「楽しくて、このままずっと会話が続けばいい」
 という意味で、時間の経過を感じさせないことで、
「もっと一緒にいたい」
 と思わせるもので、それぞれに、時間の感覚が違ったのだ。
 さて、そんなおばさんたちとの会話であるが、そうも長くは続かなかった。
 恭子と付き合うようになってから、恭子から言われたのだ。
「あのおばさんたちの話は、真剣に聞かない方がいいわよ」
 というではないか。
「どういうことなんだい?」
 と聞くと、
「あの人たちは、都会のことを知りたいようなところから会話を始めたでしょう? つまり、自分たちの知りたいことを相手に話させる。それだけに、都会の人に対しては、あか抜けない田舎丸出しの態度が好感を受けるということを知っているのよ。だから、信用してしまって、何でも話していると、いつの間にか、はしごを使って二階に上らせた後で、そのはしごを蓮されてしまいかねないということ」
 という。
「どうして、そんな風に思うの?」
 と再度聞くと、
「要するに、この街の人は、閉鎖的な人が多いということ。どうしても、田舎の人間から見れば都会の人というのは、よそ者という意識が強いの。だから、都会のことを聞きたいと思うのだし、それは好奇心もあるでしょうけど、よそ者意識が強いことで、警戒心というものが大いにあると思った方がいいかもしれないわね」
 と言っていた。
「恭子さんは、よく分かるんだね?」
 というと、
「ええ、それで精神的に参ってしまった人を、私は今までに何人も見てきたからね」
 という。
 なるほど、彼女はこの支店でもう六年以上も勤務しているわけだ。自分と同じように、研修などで、この支店に配属された新人だって見てきているはずだからである。
 その中に、ウワサで聞いた、かつて彼女と結婚まで考えたという人が入っていたのだろうか?
 恭子はそのことには触れなかったが、
「二年前だったかしら? 新人研修の地として、この支店に配属された人がいたんだけど、その人は、三か月目くらいの時だったかしら。防波堤から海に落ちたというの。どうやら、少し酔っていたようで、一緒にいた人が救急を呼んだので、大事には至らなかったけど、かなりショックが大きかったのか、その人はそのまま退職していったわ」
 というのを聞いて、
「理由は何だったんだろう?」
 と聞くと、
「ハッキリしたことは分からないけど、おばさんたちとの会話が急になくなってきたのもその理由の一つではないかと思うの。それに、ここはなんといっても田舎なので、カルチャーショックもあったようね。そんな状態で、都会のことを聞かれ、聞かれている間はよかったんだろうけど、会話がぎこちなくなってくると、見ていて、仕事も上の空という感じだったので、ちょっと気になっていたんだけど、まさか防波堤から落っこちるという事件に発展するなど、思ってもみなかったわ」
 と言った。
 そういえば、その話を聞くのは初めてだった。
 あれだけ饒舌なおばさんたちからも一切聞かれなかった話だし、他の先輩社員からも、一切口から出てくることのなかったことなので、どうやら、全員口止めされていたことは間違いないだろう。
「恭子さんは、僕に敢えて話をしてくれたんだね?」
 と聞くと、
「ええ、きっと誰からも聞いてないと思ったからね。私がこのお話をしたということがどういうことなのか、洋二さんには分かるかしら?」
 と言われたので、
「うん、分かるつもりだよ。僕とお付き合いをしてくれる気になったということかな?」
 最初こそ、戸惑っていた彼女だったが、どうやらその気になってくれたようだ。
「ええ、よろしくお願いしますね」
 と言ってくれた。
 何とも嬉しくて、その日はそこからどんな会話をしたのか覚えていないが、有頂天だったのは間違いない。
 ただ、一晩その余韻に浸っていたが、翌朝目を覚ますと、急に不安がこみあげてきた。
 彼女が自分と付き合ってくれるというのは分かったが、彼女に付きまとっていたウワサとしての、
「結婚を考えた男がいた」
 という話を彼女から詳しく教えてもらっていなかった。
 これは、洋二の主観的な感覚でしかないのだが、
「お付き合いをしようと思った相手には、なるべく隠し事はなしにして、過去のこともある程度は話すものだ」
 と思っていたのだ。
 しかも彼女は、
「自分には、かつて結婚を考えた男性がいた」
 ということを、洋二が知っているということを分かっているのだから、洋二の感覚としては、
「ちゃんと聞かせてほしい」
 と思っているのだった。
 だが、洋二には彼女が、
「話はしてくれるだろうが、どのあたりまでしてくれるかということの方が気になるところだ」
 と感じていた。
 もちろん、言いにくいこと、言いたくないこともあるだろう。そこには、これから付き合おうという相手であっても、築かなければいけない結界があり、
「思い出を思い出として自分の中で大切にするためには、どんな相手にだって、画すべきことはあるだろう。それがたとえ結婚する相手であっても同じこと。思い出の中の二人のうちの自分は、自分であって、自分ではないと思っているのではないか?」
 と感じていた。
 だから、肝心なことを話してくれなかったとしても、それは、彼女がまともな感情を持っているということであり、軽々しく口にしてはいけないことをわきまえているということなのかも知れない。
 余計なことを言ってしまって、せっかくこれから自分が前を向いて一緒に歩いて行ける相手を見つけたと思っているのに、その関係がぎこちなくなるようなことを自分からいう必要はないのだ。
 だが、自分に正直な人間であれば、
「相手にも分かってほしい」
 という気持ちから、言わなくてもいいことを口にするかも知れない。
 それはそれで、洋二も容認できるような気がした。
 自分のことをそれだけ好きになってくれたということで、嬉しくないわけもない。それを思うと、どちらがいいのか考えさせられるが、結局は最終的に、
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次