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孤独という頂点

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 いくら何でも、いつも一緒にいるクラスメイトが分からないわけがない。それでも、お互いに自信がないということは、単純に間違えてしまって、相手を不快にさせてしまうと、もう自分が何もできなくなってしまうのではないかということが分かり切ったことになってしまうという考えに至るからだった。
 しかも、人の顔を覚えられないのも事実で、それが、
「自分に自信が持てないからだ」
 と感じていたが、どうもそうではないと分かってくると、またしても、どこかに別のトラウマが存在しているように思えてならなかった。
 洋二は、風俗のおねえさんと話をしている時に、そのことを思い出した。そして、一つ思ったことは、
「風俗のおねえさんと一緒にいる時は、他の人に感じたようなトラウマを感じなくてもよさそうだ」
 というものであった。
「おねえさんと話をしていると、何でも言えるような気がするんだ」
 というと、
「そう? そういってくれると嬉しいわ。実は私もこのお仕事をしていて、お客さんから、そう言ってもらえるのが一番嬉しいって、最近気づき始めたの。そういう意味で、お客さんとの最初のコンタクトって、私たちが待合室に行くことでしょう? 他の子はどうか分からないんだけど、私は嬉しいのよ」
 と彼女は言った。
「他の子は嫌なの?」
 と聞くと、
「実はこれ、お客さんにとっても、問題があったりするんですよ。だから、キャストの中には、常連客を持っている人は、待合室に自分の客以外の誰もいない時だけ、待合室に出ることにしている子が多いのよ」
 という。
「ますます、分からない」
 というと、
「だって、考えてみてくださいよ。もし、常連を持っているお客さんがいて、そのお客さんが、ちょうど、自分の指名したいその子にお客がついていて、しょうがないから他の女の子を指名したとして、一緒に待合室にいたとすれば、どうかしら? お客様は、本当は自分の入りたかったお気に入りの子が、他のお客さんをお迎えに出たら、どんな気分がする? きっといい気分はしないと思うの。女の子も気まずい気分になって、それ以降、そのお客さんがいつものお気に入りの子を指名しなくなる可能性があるでしょう? だから、こういうお店では、指名客とキャスト以外とは顔を合わせないようにしているのよ」
 という。
「なるほど、そういうことなんですね」
 と納得すると、
「このお店は、お役様もデリケートな人が多いと思うの。いろいろな理由でお店に来る人が多いでしょう? モテないからという人もいれば、プロのサービスを受けたいという人もいる。普通の女の子ではなく、割り切った付き合いで、大事にされたいという思いのお客様もいれば、普通の女の子にバカにされたことで、トラウマになってしまって、風俗の女の子としかできなくなってしまったお客さんとかもいるでしょうし。どちらにしても、デリケートなお客様が多いということ。だから私たちもそれだけ、真摯にお客様と向き合っていきたいと思っているのね」
 というのだ。

              紆余曲折の恋愛

 大学を卒業直前は、結構大変であったが、就職してからは、仕事面ではそれほどの苦労はなかった。支店経験も生かして、いよいよ営業の見習いのようなことを始めようという段階になって、予期せぬ出来事が起こった。
 いや、業界に吹き荒れていた嵐を考えると、まだ新人の洋二にはわからなかっただけで、先輩セールスマンや、営業所の幹部、本部の上層部は分かっていたことだろう。
 子会社ともいえる、協力会社が倒産したのだ。
 当時、いわゆる、
「バブルの崩壊」
 の波が中小企業をまともに襲った。
 何しろ、バブルの崩壊は、予期せぬ出来事どころか、
「神話」
 と言われていたものが、ことごとく崩壊した時代だったのだ。
 その一番の代表例が、
「銀行の破綻」
 だった。
 それにより、下請け会社の資金繰りがうまくいかなくなる。それまでは、少々の会社でも、手を広げて売り上げさえ上げれば、企業はやっていけたので、資金援助も遠慮することはなかった。
 しかし、事業拡大したその分すべてが不当たりを出したり、回収不能に陥ってしまったことで、銀行の資金が凍結してしまったのだ。
 こうなってしまうと、元々、元本があっての金融政策ではないだけに、文字通り、
「泡のごとく消え去るのみ」
 という状態であった。
 中小企業というのは、自転車操業というものでまかなっていた。
 そのため、銀行からの融資が受けられないと、翌月の支払いが焦げ付いてしまい、すべてがマイナスに推移することで、あっという間に破産することになってしまう。
 銀行も負債が膨れ上がり、日銀の金融政策もどうしようもない状態で推移。さらには、当時から、国営企業が民間に変わっていったこともあり、経済は大混乱に陥った。
 国鉄の累積赤字が、どうすることもできず、国営では賄えないということで、民営化に踏み切ったのだ。
 いまだに回収できていないものもあるだろう。それを思えば、バブルからこっち、あれだけ、好景気と不況を繰り返してきた日本の経済は、好景気などまったくなく。不況をいかに乗り越えられるかということに終始するようになった。
 ちょうど、就職した頃がバブル崩壊と重なり、一年目に、支店の売り上げの半分以上という協力店が倒産してしまったのだ。
 まずは、差し押さえられる前に在庫の回収。
 そして、回収した在庫の処分であるが、ほとんどは、売り物になるものではないので、返品できるものと、現地処分するものとに分ける必要がある。
 しかも、その店はさらに得意先を抱えていた。
 洋二の会社は、協力店にメーカー直送を掛けることで、手間をかけずに、伝票操作による手間をリベートという形で利益にしていたのだが、今度は、途中の店が破綻したことで、直接。その店の得意先が、自分の会社に商品の仕入れを頼むことになった。つまり、一件の直送先は、数十件の小売りに変わったということで、営業の方針から、納品体制、適正在庫の把握、さらに配送計画の練り直しなど、いろいろと問題は山積みだった。
 しかも、引き取ってきた商品の整理もあり、本社から応援をもらって、手分けをして対応に当たった。
 洋二は、ほとんどの時間を、本部からの応援の人と一緒に朝から晩まで、土日も出勤して、返品整理に当たった。
 したがって、せっかく営業の見習いとして研修や、店にお披露目のはずだったが、そうもいかなくなり、一年近くは、支店内が混乱し、完全に、他の同期の連中から出遅れた結果になってしまった。
 そんな時期ではあったが、洋二は、恭子を意識していた。
「ひょっとすると、この混乱があったから、恭子のことを必要以上に意識したんだろうか?」
 と思ったが、そうではないだろう。
 やはり、一目惚れをしたというのが一番大きかったかも知れない。しかも、恭子は誰かに似ていた。かつて知っている誰かに似ていたという意識はあるのだが、誰だったのか、結局分からなかったのだ。
 それを思い出させてくれたのが、一度、インフルエンザに罹って、会社を一週間休む羽目になったのだが、その時、近くの病院で治療を受けた時の看護婦さんを見た時だった。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次