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孤独という頂点

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 つまりは、
「もう、あなたのところに戻ってくることはないのだから、新たな先を考えるようにしなさい」
 と言っているのと同じであった。
「あなただってまだ若いんだから、いくらでもやり直しが利く」
 と言いたいのだろう。
 それでも、納得いかない洋二に対して。彼女がとった態度は、家庭裁判所に調停を申請することだった。
 洋二は家庭裁判所から呼び出され、出頭することになった。出頭してみると、そこには、調停委員と呼ばれる二人の男女がいて、自分たちが、この調停を任されているというではないか。
 洋二としては、
「この二人に梨花を説得してもらおう」
 と思い、自分の気持ちを話したが、最初に調停を申し出た人の利益を守るのが調停委員の役目なのだろう。
「もう彼女の気持ちは決まっています」
 というではないか。
 考えてみれば、調停を申し入れるということなので、当たり前のことである。無理に元に戻そうとする被告に対して、説得してほしいというのが、そもそもの調停だ。しかも、夫婦で修羅場にならないように、時間差をつけて出頭させ、裁定が決まった後の形式的な手続きまでは、お互いに遭うことはないという徹底ぶりでもあった。
「彼女の気持ちもあなたにはないし、そうなると、お子さんのことを考えれば、お互いに立場をハッキリさせて、お二人とも若いんだから、これからの人生をお考えになった方がいいですよ」
 と言われ、その時に、完全に離婚を考えた。
 あわやくば、調停委員に間に入ってもらおうなどと甘いことを考えていた自分が恥ずかしい。ちょっと考えれば簡単に分かることではないか。
 こちらも、もう離婚に抗う気持ちはない。お互いの後始末さえ終われば、もう関係のない人だというくらいに割り切ることができた。
「俺もまだ、三十半ばなんだから、もっといい女が現れるさ」
 と、楽天的に考えたものだが、その反面、今まで上り調子だと思っていた人生で、初めて味わったであろう挫折に戸惑いを隠せなかった。
 今までに挫折のようなものはあったが、ここまで結果がハッキリとした挫折はなかった。確かに、
「これからの人生」
 という思いはあったが、その反面、初めての挫折で、
「一から出直す」
 ではなく、
「ゼロからの再出発」
 だったことに大いなるショックがあったのだろう。
 きっと何をやってもうまくいくはずもないという気持ちが大きく、実際に、これからの人生をやり直す気力もないような気がした。
 出会いのようなものはそれなりにあった気がするが、気持ちの上で、どうにも乗り気にならない。相手も分かっているのか、一度身体を重ねても、すぐに、
「あなたって、何を考えているのか分からない」
 と言われて、すぐに別れるということが何度か続いた。
 しかし、これは洋二が相手にも感じていることだった。お互いに、乗り気でもないのに、身体だけの関係が続くわけもない。それでも、あとくされがないことで、今までになかった男女関係。これはこれで、
「ありなのではないか?」
 とも感じた。
「俺って、真面目過ぎたのかな? こうなったら、浮気だって不倫だってし放題だ」
 というくらいに思った。
 知り合う女は意外と既婚者が多かった。
 自分が結婚している時は、絶対に不倫はしないと決めていたが、それが今はバカなかしく感じられた。
「どうせ、不倫をしないなんて気持ちは、子供のためとか言って、自分の気持ちを偽っているだけだ」
 と、自分としては、
「経験者は語る」
 であり、主婦との浮気にまったく罪悪感はなかったのだ。
 しかも、リスクがあるのは相手の方だ。
「旦那には黙っていてほしい」
 と思っているはずであり、バレたら確かに、慰謝料を旦那から請求されるかも知れないが、それ以上に奥さんが黙っているはずなので、一度くらいの不倫ならバレることはないと思った。
 しかも、自分では不倫相手と身体を重ねるのは、一度か二度でいいと思っている。
 飽きっぽいというのもあるが、身体に対して飽きるというよりも、
「気持ちに対して飽きている」
 と言っている方がいいだろう。
「美人はすぐに飽きる」
 と言われているので、今まで美人と呼ばれる人を好きになることはなかった。
 もちろん、飽きるからだというだけの理由ではなく、自分で肌が合わないと思っているからであった。上から目線で見られているという意識が強く、それゆえ、美人を意識しなくなったのだ。
 しかし、美人だけではなく、最近では、ずっと身体を重ねられる相手がいなくなったのも事実だ。若い女の子と身体を重ねても同じだった。相手もすぐに飽きるし、こっちも飽きるのだ。
 ちなみに、若い頃よりも、洋二は四十くらいになってからの方がモテはじめた。同い年だけではなく、若い子にもモテていた。一時期は女子大生からモテる時期があったくらいだ。
「これをモテキというのだろうか?」
 と思ったほどで、ここまで顕著に表れるとは思ってもみなかった。
 ただ、これも、自分の性格がもたらしたことではないかと、その頃になって考えるようになった。結婚する前、結婚していたころ、別れてからと、それぞれに女性に対する見方や自分の態度が変わってきていると思ったが、結局は同じだったのだ。どこかギスギスしていて、好きなのかどうかも分からないくせに、
「好きだ」
 ということを前面に出しているだけだ。
 よく分かる人には、どこかぎこちないことくらい分かっているはずだ。気づいていないのは自分だけという、茶番をずっと演じてきたのだろう。
 自分が引いていると、相手が寄ってくる。実際には、そんな単純なことだったのだろう。恋の延長が愛であり、愛こそが最強だと思っていたが、そんなものは虚空の虚像に違いない。
 テレビドラマなどで、よく不倫をしている奥さんを信じ切っていて。最後には悲惨な現実を叩きつけられるという内容のものがあるが、実際にはそんなことはよくあることだ。
 しかし、そんなドラマでもよくあるパターンとして、ハッピーエンドとなる話もあったりする。
 結局、自分たちの気持ちは、崩れているわけではなく、元の鞘に収まるというものだ。
「そんなバカなこと、あるわけないじゃないか。綺麗ごとにすぎないだけじゃないか」
 と、そんな風に感じるだろう。
 実際に、そんなバカなと今なら思う。
「男だろうが女だろうが、一度相手を裏切ったら、気持ちの中でぎこちなくなって、うまくいくはずなどない」
 と、どうして思わないのだろうか?
 そもそも、幸せだと思っていたことが虚像であって、実際に愛し合っていた時期など、一度もないではないか。それなのに、どうして、こんなぎこちない気持ちの中で、修復できたと言えるのか、修復するような元があったわけではないではないか?
 どうして、そのことに気づかないのだろう。それが腹立たしいのだ。
「なるほど、結婚しても、三人に一人が離婚するわけだ。でも、三人に一人って少ないよな」
 と感じた。
 つまりは、実際に離婚するのが三人に一人で、燻ぶったまま、いや、自分をごまかしながら、いつ離婚してもおかしくないようなそんな状態でいるということなのだろう。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次