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孤独という頂点

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 ということを、自分なりに拡大解釈をしたのと同じことだった。
 しかし、実はそうではなかった。相手が女性だからである。
 女性というと、何かを決意する時、重要なことであればあるほど、一人で悩むものだ。そして、それを相手に告げた時には、もうどうすることもできないほどに固い決意をもって相手に話す。そんな生き物だというのだ。
 卑怯といえば卑怯だが、こちらも、相手の気持ちを勝手にいい方に解釈して、話をしようとしなかったのだから、同罪である。
 ということは、そんな状態になれば、夫婦間では赤信号一歩手前というとこrであろうか?
 相手によって、その性格が頑なであればあるほど、もう収拾はつかなくなっていて、修復は難しいだろう。
 それがm二人の別れを誘発したものであったのだ。
「あんなに楽しかったことを忘れてしまったのか?」
 と男は考えるが、すでに決意を固めている女に対し、
「そんなことはもうとっくの昔に考えたことよ」
 と言わんばかりの、冷めた目でしかこちらを見なくなる。
 そうなってしまえば、
「今まで一番分かってくれていると思った相手が、何を考えているのか分からなくなると、自分も信じられなくなり、まるで病気のような精神状態に陥ってしまったようだ」
 と思えてならない。
 そんな風に考えると、話をすることが怖くなってくる。だから、洋二は自分から話しかけることができないのであって、それまでと完全に立場が逆になっていた。
 付き合っている時は、すべての主導権が洋二にあった。梨花は黙って洋二のすることを見ているだけだったのだ。
 決して逆らわない女、それが梨花だったのだ。
「きっと付き合っている時、他の人がみれば、まるで奴隷扱いにでもしているように見えたのかも知れないな」
 と思ったが、そんな時、梨花はどう思っていたのだろう?
 自分の献身さに、自分で驚いていたのだろうか? 驚きながら、自分が相手に従っているということを、まるで自分の意思でもあるかのように感じていたのだとすれば、洋二の存在が、自分をいつも否定している梨花を高めていったのかも知れない。
 そう思っていたとすれば、
「私にはこの人しかいない」
 とまで思っていたとしても、おかしくはないだろう。
 ただ、それが梨花にとってよかったのかというと、何とも言えない。結婚して子供ができて、自分の身体の中から新しい命が芽生えたことで、それまで忘れていた自信がよみがえってきたのだとすると、梨花にとって、やっと自分を目覚めさせることができたのだと言えるだろう。
 そんな時、目の前にいる洋二を見て、どう感じるだろうか?
「えっ? この人が私の夫?」
 信じられない気分になっていることだろう。
 ここまで自分に自信のない人だとは思っていなかったと感じ、梨花に対しての恫喝や圧力は、完全に見掛け倒しであったということに気づくだろう。
「こんな男に自分が今までしたがってきたなんて」
 と思うと、これから将来のことは、自分がひとりで考えないといけないことに気づいた。そうなると、洋二に、自分が悩んでいることを知られたくないという思いが大きくなり、気が付けば、もう別れるということが頭の中で確定した事実になったのだ。
 自分ひとりで決定してしまったことなので、感情が自分についてこれていない。
 本当だったら、感情が先にあって、そこから事実がついてくるのだろうが、事実ではないが、決定事項が先にあって、そこから自分の感情が追い付いてくるという現象に、どうしていいのか戸惑っていた。
 だから、余計なことを口にすると、何を言い出すかわからず、追い付いてこれていない感情が口から出てしまう可能性がある。
 少なくとも好き合って結婚したのだし、しかも、もう子供もいるのだ。子供に対しての責任も考えると、迂闊なことはできない。しかし、別れるということは、すでに決定事項あることから、相手やまわりを説得しなければならない。どうしていいのか分からない状態で悩むのだから、確かに順番は逆だった。
 しかし、まわりは、この訳の分からない状況に戸惑っている。
 自分だけ先走ってしまった梨花も、自分で蒔いた種とはいえ、どうすることもできない。
 だから、
「そもそもの原因を作ったのは、あなたじゃないの」
 と思い、洋二を睨みつけている。
 洋二は、なぜ睨まれるのか分かっていない。今までにそんなことなど一切なかったからだ。
 そこでやっと今までと立場が逆転したことに気づかされる。
「こんな女と結婚してしまったのが、人生の間違いだった」
 と気づかされてしまった。
 しかし、洋二は、楽しかった頃の思い出を思い出すと、離婚など考えられなかった。
「梨花だって、楽しかった思い出があるはずだ。そんなに簡単に別れるなんてできるはずもない」
 と思うのだが、まさか、すでに決定事項であるなど、洋二に想像もできることではなかった。

                 転落人生?

 必死になって妻を説得した。気持ちの中には、離婚することで、戸籍が汚れてしまうという気持ちがないわけではないが、それは必死に説得するだけの理由というわけではない。
 一番の理由は、
「子供がいるのだから、子供のために、両親が揃っているのが一番だ」
 というものだった。
 童子は離婚率もかなり上がっていて、母子家庭の多さも問題になっていた時期ではあったが、自分が育ってきた環境を考えたり、恭子のように母子家庭で育った人間を見ていると、
「この子を、父親のいない子にしたくない」
 という気持ちが強かった。
「すぐに奥さんは再婚するよ」
 という人もいたが、父親が義理の父親ともなると、却って不安だった。
 それよりも、
「梨花のことだから、再婚はしないような気がする」
 と思った。
 根拠のない思いであったが、なぜかそう感じるのだった。
 梨花は、看護婦に戻るのを、頑なに拒否していた。しかし、離婚して母子家庭になれば、仕事をしないわけにはいかない。子供を育てながらということであれば、コンビニなどのパートでやっていけるわけがない。
「どんな仕事ができるのか?」
 と言って、できることとすれば、看護婦の仕事しかないからだ。
 時代は、ちょうど、西暦二千年を超えて、二十一世紀に入っていた。梨花は実家に戻っていて、説得に行ったが、あれだけ自分に優しく、贔屓目に見てくれた義父や義母は、急に冷めた目になって、
「あの子は、こうと決めたら、絶対に自分の考えを曲げない子だから」
 と言って、困った顔はしていたが、洋二に対して、何も言えなかった。
 その目は、哀れなものを見る目ではあったが、きっと心の底で、
「お嬢さんを幸せにします」
 と言って、結婚の許可を得にきた時の洋二と、今の情けない洋二を比べていたに違いない。
 両親からすれば、目の前の男は憎らしい存在であろう。
 離婚するには、いろいろな事情があるからであって、自分の娘だけが悪いわけでも、相手の男だけが悪いわけではない。問題は離婚が決まってしまってからの先のことであり、両親がいった、
「あの子は、こうと決めたら、絶対に自分の考えを曲げない子だから」
 という言葉は、そのことを暗示しているのだろう。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次