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孤独という頂点

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 何といっても、この父親と母親に育てられたのだ。おおらかに育ったのは間違いない。さらに彼女には相手に癒しを与える力がある。どのあたりが癒しなのかを口にするのは難しいが、一緒にいて楽しいと思えるのが最高だった。
 今まで、楽しいと思っていても、心のどこかで不安の煙が見えていて、それが、どう自分を操るのか、それが不安をさらに膨らませる要因だったのだ。
「見えているようで見えないものが存在している」
 この思いが絶えず、洋二にはあったのだ。
 それがいつからだったのか、ハッキリとはしないが、少なくとも、恭子と付き合い始めた時には最初からあったような気がする。それを思うと、考えられるのは、大学生の三年生あたりからの、自分の人生が順風満帆ではないと感じた時だったのではないだろうか。それ以前のことはハッキリと覚えていない。きっとそのあたりに、自分の人生のターニングポイントがあったに違いない。
 人生のターニングポイントというのは、一度や二度ではない、何度でもあるものであり、人によって、その数にかなりの差があるのではないだろうか?
 そのことを考えてみると、確かに恭子との間には、最初から無理な空気が充満していたような気がする。
 まわりからは、
「あいつらはどうせすぐに別れるさ」
 と言われていたのかも知れない。
 それを無理に押し通して、結果、玉砕する形になった。
 しかし、自分としては、これ以上の努力はなかったと思う。本当であれば、一か月も持たずに別れていたのかも知れないが、一年近くも持ったというのは、二人の気持ちが繋がっていたといよりも、お互いに不安定で、誰かにすがりたいと思っていると、目の前にいるのがそのお互いということで、別れるに別れられないというそんな関係だったのかも知れない。
 押し殺していた感情が最後には爆発することで、本当に立ち直ることができるのかと思うほどい悲惨な状態だった。
 しかし、
「捨てる神あれば拾う神あり」
 とはよく言ったもので、
「捨てる神が恭子であれば、拾う神が梨花だった」
 ということだ。
 別れた恭子の方も、風の噂に聞いたところによると、
「あれからすぐに婚約し、結婚した」
 というではないか。
 洋二はそれを聞いて、
「まさか、二股をかけていたのか?」
 という怒りがこみあげてきた。
 その噂を聞いたのは、別れてから半年後のことだった。恋愛であれば、普通なら考えられない。ただ、話としては見合いだということなので、
「よほど、まわりからも、結構を焦っているように見えたのか、俺と別れたことで、憔悴しきった恭子に、男をあてがったのか、どっちにしても、自然に表れた相手ではないような気がする」
 と思った。
 そういう意味では、自分と梨花の出会いのようなことではなかったのだろう。
 自分が梨花との結婚にずっと戸惑っていたのは、恭子のこの話を聞いたからかも知れない。
「俺は、あの女のように、焦って結婚なんか、絶対にしないぞ」
 という思いがあったからだろう。
 もっとも、これは言い訳でしかなく、少しでもタイミングを逃し、結婚が後ろにずれていくと、次第に踏み切る勇気に躊躇いが残り、なかなか結婚に踏み切れなくなってしまうということを感じていたに違いない。
 結婚をしたいという感情は、もう恭子の時に終わっていた。
 まるで爆弾が爆発した時に、真っ黒な炭になってしまった自分の気持ちは、結婚という言葉を嫌悪するようになっていた。
「結婚とは人生の墓場と言われるが、まさにその通りだ」
 と、結婚する前から悟ったというのは、そういう気持ちがあったからに違いない。
 あれから、恭子がどうなったのかは誰からも聞いていない。
 結婚したという話は。別に聞きたくもなかったが、おせっかいな人が話してくれたのだ。その人はただの興味から話したのだろう。洋二がどんな反応をするのかを楽しみにしていたのだろうが、案外、反応が薄かったので、肩透かしを食らった気になっていることだろう。
 洋二としては、
「ざまあみろ」
 という気分でいたに違いない。
「俺にそんなくだらないことを言った罰だ」
 と言わんばかりであった。
 そんなやつからのウワサを聞いたことで、
「もう、恭子のことはどうでもいいんだ」
 という気持ちになった。
 いや、それが本心だったのかどうか、きっと死ぬまで分からないと思っている。なぜなら、その後も、恭子のことを思い出すことがあったからだ。
 ただ、その時は結婚してよかったと思っている。自分が結婚したことで、家族も喜んでくれている。それは、恨みとは別の次元の問題だと思っている。
 看護婦の仕事は、続けていた。
「私、結婚したら、専業主婦になろうかしら?」
 と言っていたが、病院はそんなに忙しくないところに変わり、
「子供ができてから、どうするか、また相談するね」
 と言っていた。
 洋二の方も、システムの仕事を忙しくこなしていたのだが、いよいよ彼の会社にも、吸収合併の問題が絡んできて、人員削減などのリストラが叫ばれるようになってきた。
 実際に、こちらの会社が大きな会社に吸収されるということになったようで、そうなると、システムの仕事は、用済みということになる。
 ただ、最初は、合併に向けてのシステム統合のため、忙しく立ち回っていた。
 残業も余儀なくされたが、それでも残業手当はしっかりもらえるということで、皆張り切っていた。
 実際に、向こうの本社とを行ったり来たりしていて。最後には、相手の本社にずっと常駐するようになった。
 ほぼ半年間、向こうの会社にてのシステム統合のみの仕事に携わっていて、やっと終わって、出張から戻ってくると、一週間もしないうちに、自分よりも若手社員に、
「本部に転勤」
 と言われたのだ。
 やっと戻ってきたと思えば、今度は転勤。彼らがどうするのかと思っていると、
「さすがにやってられない」
 と言って、皆辞めていった。
 一気に四人くらいが退職していったことになる。
 洋二もさすがに怒りがこみあげていた。しかし、自分も人のことは言っていられない。
「川崎君には、経理部に行ってもらう」
 と言われたのだ。
 最初に支店から、本部のシステムに配属になった時とは事情が違う。
 あの時は、支店で泣かず飛ばずだった自分を本部で引き揚げてくれたのだ。
「支店の業務を知っている若手社員がほしかった」
 というのが理由で、そういう意味で、協力店が瞑れたおかげで、自分があぶれてしまったことが功を奏したというべきであろう。
 タイミングがよかったというべきか、幸運だったのだ。
 しかし、今回は違う。
 せっかく、システムで、やっと自分の実力を発揮できるようになり、
「プログラム開発が、三度の飯よりも好きだ」
 と言っていた自分が、今度は経理部になどどういうことだと思ったのだった。
 システム開発は、
「何もないところから自分で新たに作り出す」
 ということが子供の頃から好きだった自分にとって、これほど嬉しい仕事はなかった。
「天職だよな」
 と感じたほどで、今度の経理部というと、誰かが作った実績の数字を合わせるというだけの、後追いの仕事に思えて、嫌だったのだ。
 何といっても、
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次