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孤独という頂点

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 なるほど、そうでもなければ、こんなに気軽に話しかけることなどできないのではないだろうか。
 それを思うと、洋二も納得できた。
「そっか、だったら分からないでもないな」
「うん、ここでも何度か会ったことがあるからね。お母さんと一緒に来ていることもあったし、彼氏を伴ってきている時もあった。さらに三人で仲睦まじい姿を見せてくれたこともあったからね」
「じゃあ、今日一緒に来ている彼女は?」
 と聞くと、
「ああ、一度見たことがあったかな?」
 という程度であった。
 思ったよりもリアクションは低かったので、山沖君が彼女のことを気にしているわけではないということは分かった。
 それが分かって、洋二は安心した。正直、彼女には不思議な魅力が感じられ、あどけなさすぎるくらいにあどけない。同じあどけなさでも恭子に感じたものとは明らかに違っていた。
 もし、恭子に対しての未練が残っていなければ、
「彼女に対して一目惚れしたレベルかも知れないな」
 と感じたほどで、失恋の痛手を少しでも忘れようと出かけたスナックで、理想と言える女性と出会ったというのも、運命のようなものかも知れない。
 話しかけることも容易にできた。
 酒の席だというのもあったのだろうが、彼女は自分から話しかけやすいタイプに見えたのだ。
 ただ、若干暗めの女の子で、ある意味スナックには似合わないタイプであったが、友達の彼女が結構、口が悪い方で、その中和剤という意味では、重宝されたのかも知れない。
 洋二が、彼女に興味を持ったのを察した、彼女の友達は、すぐに、
「おせっかい」
 を焼いてきた。
 「面倒見のいい」
 という性格だと言えばそれまでなのだろうが、どちらかというと、主従関係のように見えている二人の県警性を象徴しているかのようだった
 引っ込み思案の彼女は明らかに従であり、口の悪さから感じるその主張は、主であると言えるだろう。
 それを思うと、
「彼女は、引き立て役なのかな?」
 と思い、
「俺が守ってあげたいな」
 と思うようになった。
 一目惚れではないが、このような気持ちになったということは、それだけ彼女のことが印象に残ったのだろう。
 同じあどけなさを好きになったということも、洋二には強いインパクトがあったのだが、いいことばかりではなかった。
 何とか紹介してもらって付き合うようになったのだが、洋二の中ではまだ恭子を忘れることができなかったという理由で、どうしても、彼女と恭子を頭の中で比較してしまって、必要以上に考えなくてもいいくせに考えてしまうようになったのだった。
 それが比較することであって、
「そんなことをしてはいけない」
 と思えば思うほど、どうしようもなくなっていたのだった。
 だが、これが運命の出会いであるというのは事実のようで、二人のことを、友達も、山沖君も悪くは言わなかった。そのこともあり、二人は付き合うようになった。ちょうど、二人にとって、人生の頂点が見えていた頃だったのかも知れない。

              結婚

 彼女の名前は、滝沢梨花と言った。
「かわいい名前だね」
 というと、はにかみながら、
「そう、嬉しいわ」
 と、本当に喜んでいるようだった。
 その時に見える口元の八重歯がかわいく、
「チャームポイントはどこだと思う?」
 と聞かれると、
「一も二もなく、八重歯だろう」
 と答えるだろう。
 そんな梨花は、看護婦だった。言われてみれば、そのあどけなさは、白衣からも分かるような気がして。
「こんな看護婦さんに点滴を打ってもらえたら、嬉しいよな」
 と思うほどだった。
 若い頃は結構風邪をひくことも多く、ちょくちょく、病院で点滴を打ってもらっていたりしたので、風邪を引いた時など、彼女の病院で点滴を打ってもらったりしたものだ。
 二人は関係を画しているつもりだったが、他の看護婦にはバレバレだったようで、
「だって、二人とも分かりやすいんですもの」
 と言われたと言っている。
「そうなんだ。俺には自分ではわからなかったけどな。やっぱり、女性って結構勘が鋭いんだな」
 というと、
「それはそうよ。でも、私は結構そういうところは鈍いので、結構分からなかったりするのよ」
 というではないか。
「そっか、梨花さんはよくわかる方だと思っていたんだけどね」
 と言ったが、それは本音だった。
「そんなことはないのよ。実際には、よくわかっているように見られがちなんだけど、それもちょっと嫌なところかな?」
 という。
 他の人も同じことを感じていると聞いた時、少しホッとしたが、彼女からすれば、それが嫌なところと言われてしまうと、少し気まずい気がした。だが、若い、そして好き合っている二人には、そんなことはどうでもいいことであるように、すぐに会話の波にのまれていくように、忘れ去ってくれるのはありがたいことだったのだ。
「僕たちって、結構いいカップルなんだろうか?」
 というと、
「私はそう思っているわよ」
 と梨花は言ったが、どうやら梨花は今まで男性と付き合ったことはなかったという。
 彼女の友達で、山沖君の知り合いと言っていた彼女は二人を祝福してくれていたのだが、梨花の同僚の看護婦連中は、
「あの人はやめた方がいいんじゃない?」
 と言っていたということを、だいぶ後になって聞かされたことがあった。
――後になって聞かされてもねぇ――
 と、その時は思ったが、その時敢えて梨花が触れなかったのは、梨花自身も、
「二人に対してそんな水を差すようなことは言わないでほしいわ」
 と感じたからなのかも知れない。
 洋二は梨花のことを、梨花は洋二のことを、
「将来の伴侶」
 だといつ頃から思い始めていたのだろう?
 洋二とすれば、いつの間にか、頭の中で、
「恭子の呪縛」
 が消えていった瞬間があったのだろうが、それを感じさせなかったのは、梨花の存在が一気に自分の中で大きくなった瞬間があったからではないかと感じた時ではないだろうか?
 それを思うと、二人は、
「いずれ結婚する」
 と、洋二が考えた瞬間だっただろう。
 梨花がいつからそう思い始めたのかは、自分でもわかっていないかも知れないが、そう思うようになった事実は間違いなく存在し、最初から結婚前提での付き合いだと思っていたのに、いつの間にか、交際期間が三年を越えていた。
「三年の交際期間というのは、結構長いんだろうか?」
 と考えたりしたが、
「お互いに結婚するつもりなんだから、長さは関係ない」
 と感じているのは、なかなか結婚に踏み切ろうとしない洋二に、よく梨花もキレずにいてくれたものだ。
 やはり、結婚の意思は固かったのだろう。
 それでも、いずれ結婚の意思が固まる時はやってくる。
「ねえ、私たちこれから、どうなるの?」
 と、ホテルのベッドで、
「一戦交えた後」
 に、梨花に言われた。
 まだ身体の奥にけだるさが残っていたので、一瞬、夢でも見ているのかと感じたが、すぐに我に返ると、
「結婚しようと思っている。もちろん、君もそのつもりだと思っているんだけどね」
 というと、梨花は、洋二の胸に顔をうずめて、
「嬉しい」
 と言った。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次