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孤独という頂点

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 システム部の中でも、お互いに競いあって、レベルの底上げをしてくれることで、全体のレベルアップにつながると踏んだわけだ。
 その考えはズバリ当たり、ちょうどその頃から開発すべき案件がたくさんあったので、それに順応できる二人は、十分な戦力だった。
 洋二の方もプログラム開発の方も、一年も経たないうちに、かなりの開発ができるようになった。しかも、支店の業務を知っている人はほとんどいないので、強みがあったのだ。
 しかし、ちょうどシステムに入って、メーカー研修も終わり、先輩からのシステム講座を受けている頃だっただろうか、恭子との間が破局に向かっていた。
 その時は、父親と恭子との間の板挟み状態だった。
 恭子の方では、
「お父さんもちゃんと説得できないなんて、何て情けない人なの?」
 という罵声を浴びせられ、父親からは、
「男のお前が相手に合わせてどうするんだ。もっとどっしりしていればいいじゃないか」
 と言われた。
「何言ってるんだ。お父さんがもう一度、認めると言ってくれれば、俺だって、こんなに焦ったりなんかしないんだ。どうして、どいつもこいつも、俺の考えを裏返すことばかりしてくれるんだ」
 と、声にならない憤りを感じていたのだ。
 本当は逃げ出したいくらいの衝動に駆られていたので、何とか取り持っていたが、そのうちに、まず恭子の方が切れた。どっしりと落ち着いている父親が切れるわけもなく、分かり切っていたことだったが、おかげで、父親に対する恨みは決定的になった。
 恭子に対しても、
「裏切られた」
 という思いが強く、結局自分だけが吊るしあげられて、損をしたということで、いらだちは激しかった。
 そのまま最後は逃げ出したのも無理もないことだったであろう。
 あれは、会社の近くの近くのスナックに立ち寄った時だった。ちょうど、自分と同じくらいの年の人が、酒を飲みながら、店の女の子と話をしていた。カウンターで、二人とも正反対の位置に座っていたので、相手から話しかけられることはないだろうと思っていたが、相手の方から気さくな感じで話しかけてくれたので、ちょうどママさんは仲介してくれる感じで、お互いに仲良くなれた。
 同い年くらいと思ったのだが、彼は田舎の高校を卒業してから、都会に出てきたという、自分よりも、四つくらい下の青年だった。
 無精髭を生やしていて、神もボサボサなので、自分よりも年上かと思ったが以外だった。
 最初に見た時は、よほど何かがあったのか、完全にくたびれた様子だったので、最初の日は、声を掛けることもしなかったが、次に出会った時は、無精髭だけは相変わらずであったが。髪の毛はちゃんと整えていて、服装もスーツ姿だったので、見違えたほどだった。
 最初に声を掛けてきたのは、その青年だったが、ママさんがすぐにフォローに入る。その頃には、洋二も常連になりかけていたので、ママさんも協力的だったのだろう。
「彼は田舎から出てきて、一人でいることが多いということなので、仲良くしてあげてくれるかな?」
 と言われたので、こちらも、
「いいですよ」
 と受け答えをした。
 その言葉に彼も感動したのか、
「ありがとうございます。私は、大学を出て今の会社に入って三年目になります。本社勤務なんですが、本社に来たのはこの春からなんですよ」
 と言った。
 時期的には、そろそろ蒸し暑さが出てくるという七月初旬くらいだっただろうか。
 梅雨の時期真っただ中であったが、その年はあまり雨が降っていなかったので、水不足が心配された年であった。
 彼は名前を山沖君と言った。
 山沖君は、洋二のことを、
「川崎君」
 と呼ぶ。
「高校生で就職した人間は、礼儀を知らないのか?」
 とも思ったが、下手に反発することも嫌だったので、別にやり過ごしていたが、そのうちにため口になってきたのだが、すでに気にならなくなっていた。
 ただ、彼は田舎から出てきて、就職してから勉強したのだろう。社会のこととか、政治経済の話など、結構詳しかった。
 話をしていて、頼りになると思ったので、洋二も山沖君には一目置いていた。
 それは知識が豊富だというよりも、勉強熱心なところに感動したのである。高校卒業してから都会で就職しようと思っただけのことはある。
「ちょうど今年二十歳になったので、やっと大っぴらに酒も飲めるし、タバコも吸えるようになったんです。しかも、選挙権まで与えられたので、今度の戦況にはいきますよ」
 と、選挙を楽しみにしていた。
 令和になってやっと選挙権が十八歳からになり、それに遅れて、飲酒喫煙以外の二十歳からという年齢は、すべてが、十八歳になり、法律的に、未成年は、
「十八歳未満」
 ということになるのだ。
 つまりは、犯罪を犯しても、十九歳も、十八歳も、
「少年A」
 ではないのだ。
 少年法で守られるため、実名をさらさないということで、マスゴミによって公表される時の名前は、当時、
「少年A」
 というのが主流だった。
 今はそんな言葉をいう人もいないので、分からないだろうが、そういえば昔、アイドルのヒット曲で、
「少女A」
 というのもあった。
 同じ含みの言葉なのだろう。
 それにしても、今までにも未成年であっても、残酷な犯罪があり、彼らにも、
「成人と同じ罰を」
 という話題も結構上がっていた。
 そんな山沖君と仲良くなったことで、その店に頻繁に行くようになった。当時はまだバブルが弾けた状態が給与や賞与に大きく反映してくる前だったので、毎日飲み歩いても、何とかなった時代だった。
 ただ、恭子と別れたショックは潜んでいて、そのショックをいかに紛らわそうかということで通い始めた店でもあった。
 元々は会社の先輩に連れていってもらったのがきっかけだったが、先輩も最近はなかなか行かなくなったので、ある意味、体よく洋二を連れていくことで、
「彼が自分の代わりに常連にでもなってくれれば、このままフェイドアウトができるのにな」
 ということを考えていた節がある。
 ある意味利用されたと言ってもいいのだろうが、お互いによかったのではないだろうか?
 山沖君とつるむようになって、山沖君の会社の人もこの店を使う人が多いというのは聞いていた。どうやら、山沖君がここの常連になったのも、洋二と変わらない理由らしいのであった。
 そんな洋二に転機が訪れたのは、ある日、二人の女の子が飲みに来た時のことであった。その時、一人の女の子に、気軽に話しかけている山沖君を見た。
「どうしたんだい? 友達なのかい?」
 と聞くと、
「いやいや、うちのパートで来てもらっている人の娘さんなんだよ。よく会社にも顔を出していたので、会社の人も皆馴染みになっていてね」
 というではないか。
「そうか、そうなんだ。じゃあ、気軽に話しかけるのも無理もないことだね」
 というと、
「うん、だけどね、彼女には彼氏がいるんだよ」
 というので、
「おお、それは残念だね」
 洋二としても、自分が残念にも感じるほどであり、そういうと、
「それでも、彼氏の方とも俺は仲がいいので、そうでもないんだよ」
 というではないか。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次