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孤独という頂点

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 逆に別れがあるとすれば、この考え以外にはないのではないかと思えるくらい、普段は別れなどという言葉が入り込む隙のない関係に思えたのだった。
 二人の関係がすれ違ったのか、ぶつかった瞬間に、反発しあって、すでに壊れていることに気づかなかったのか、どちらかではないかと思えた。
 二人がどうして別れなければいけなくなったのかというのは、結婚が二人の間だけの問題ではないということが大きかった。
 そもそも不安定な関係でもあったが、それは、いくつかの複合要素があった。
 一つには、洋二による恭子の性格の勘違いがあったのかも知れない。
「彼女には父親がいないということで、自分たちにはない力強さがある」
 という勘違いである。
 確かに力強さはあった。しかし、それはまだ子供の頃にいなくなった父親ということで、寂しさや、辛さはやっかみを生み、まわりに対しての嫉妬が強ければ強いほど、力強さをまわりに見せつける。
 そして、父親のいない寂しさが、まわりに父親を求めることと、まわりが、
「自分たちにはない力強さを持っている」
 という勘違いから、彼女のわがままは許容するようになってきた。
 すると、彼女は思いあがってしまって、甘えることを覚えてしまう。さらに、自分に逆らう人間を許せなくなってしまい、それがそのうちに自分を孤立に追い込む。
 そのうちに彼女のまわりには、彼女を可哀そうだと思う連中と、彼女の正体を知って、憎むべき相手だと思う人に二分される。
 彼女を可哀そうに思い人たちに甘え、頼りきりになってくると、そのうちに頼られる人たちに降りかかるプレッシャーが、自分の重みになっていること、その原因が恭子にあることに気づき、そうなると、もう彼女を可哀そうだとは思わない。その時になって彼女の正体を知った人たちは、彼女への敵対をもはや持つことはなく、彼女の前から消えてしまうという行動に出る。
 つまり、彼女のまわりには、彼女を憎む人たちしか残らないことになるのだ。
 だから、彼女は孤立する。
「私は一人でいる方がいいんだ。一匹狼のようなものなんだ」
 と感じるようになると、彼女を憎んでいる人も、迂闊に手を付けられなくなった。
 一種の硬直状態とでもいうべきか、孤立した彼女と、対峙するだけになった。
 ただ、これは悪い傾向ではない。一人で孤立している彼女を表に出さないという意味での防波堤になっているので、余計な犠牲者を出すことはないと言えるだろう。
 それでも、いつの間にか犠牲者は出ているもので、昨年、
「恭子と結婚寸前までいったことがある男性」
 であったり、今年のように、洋二が転勤してきたりと思惑通りにはいかないものだ。
 彼女と結婚寸前まで行った人のことを、恭子はずっと洋二に何も言わなかった。
 しかし、二人の関係がぎこちなくなっていたある日、恭子は洋二の胸の中で泣き出すのだった。
 今までに涙を流すことは何度もあったが、それは申し訳なさそうに泣いている様子だったが、その時は完全に本気で泣いていた。
「どうしたんだい?」
 となるべく優しく聞いたつもりだったが、さらに強く泣き出した。
「今日は、そんなソフトに言われる方が、却ってきついの。私にだって、本気で泣きたくなることだってあるわよ」
 と言った。
 ということは、今までの涙は、そのほとんどが本気ではなかったということを言っているのと同じであるが、本気で泣いている恭子の顔を見ていると、そんなことはどうでもよかった。
 その時に感じたのは、
「何をそんなに本気で泣くことがあるのだろう?」
 ということと、
「実際にそこまで本気で泣きたくなるというのは、彼女にとってどういう時なのだろう?」
 ということであった。
 その涙の理由を彼女は少し落ち着いてから話すようになった。その頃には涙のわけが少しだけ分かっていたような気がしたが、どうも涙の根底にあるものの正体だけは分かっていたようだった。
「実はね。私が昨年まで付き合っていた人が、この間亡くなったの」
 というではないか。
 涙のわけが、その人にあるだろうということは分かっていたが、まさか、そこに死というものが絡んでいるとは思ってもいなかった。恭子を見ていて、彼女はどうやら、大切だと思った人は、ことごとく死んでしまう運命にあるのかと思うと、一瞬ゾッとした気がした。
「この間、お葬式に行ってきたのね。彼も父親を早くに亡くしていて、おねえさんが私の相手をしてくれたわ」
 という。
「おねえさんというのが、しっかりした人で、私に対して、しっかり生きてほしいと言っていたの。そして、最後に、これで吹っ切れたでしょう? と言われたんだけど、それが本当につらくて、涙が止まらなかったの。でも、その言葉があったから、あなたに彼のことを話してもいいという気にさせてくれたのよ。私が思うのに、きっとおねえさんは、二人の関係は実に狭い範囲でのことだったので、吹っ切ることができると、表の広い世界に出ることができると言いたかったのだと思うの」
 と、恭子は続けた。
「なるほど、そうかも知れないね。恭子にとって、彼がどういう人だったのかは、僕には分からない。だから、決して君を譲り受けたなどとは思っちゃいないさ。それよりも、君は君の意思で僕と付き合ってくれることを選択したんだよ。その時に、僕は君が吹っ切ってくれたんだと思ったけど、違ったのかな?」
 というと、
「私もそうだと思っていた。でも、心のどこかで彼の存在を感じていたのよね。そんな時というのは、自分が自分でいられなくなる時で、あなたに反抗的になったり、自分が分からなくなったりする時だと思うの。そんな時、私は、きっと甘えているんだわって思っていたんだけど、今から思えば、確かに甘えていたんだけど、それは自分に対して甘えていたということだと思っているの。孤独を理由にしていた自分が、なんだか恥ずかしい気がしてきたわ」
 というではないか。
 洋二は、恭子がそれで、前の男性を吹っ切ることができ、いよいよ自分との本格的な交際が始まるものだと期待していた。
 しかし、実際にはそこまでうまくいくようなわけでもなく、洋二に対してどこまで真剣だったのだと感じさせるのだった。
 確かに、恭子のことを愛していた。だが、本気だったという気持ちに変わりはないという思いはあるが、果たして、
「本当に愛していたいた」
 と言えるのかどうか、怪しいと思うようになっていた。
 愛とは何なのか?
 愛というのは、人が好きだと感じる、恋というものが、覚醒したものが愛だと言われているが、洋二もその通りだと思っている。
 人を好きになると、自分もその人から好かれたいと思う。その時に、
「好きだから、好かれたいのか? それとも、好かれたから好きになろうとしているのか?」
 ということが頭に浮かんだ。
 ただ、男としては、後者であってほしいと思っている。まずは、女性に好かれるということが大切なことであって、好かれたことが自分に喜びと自信をもたらす。自信を持つことで、自然の好きになることもできると思うことで、
「どちらが本当の感情なのか?」
 ということが分からなくなる。
 この時点が、恋なのではないかと思っている。
作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次