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正夢と夢の共有

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 だが、晴香の場合は企画女優である。彼女の魅力というよりも作品と彼女が合っているかということでの起用なので、
「晴香あっての作品ではなく、作品があっての晴香というのが求められていることなのだ」
 ということであった。
 したがって、晴香の方も、自分に合った作品に巡り合えばそれでいいのだ。それはまわりが自分を必要としてくれれば、成立するものであり、女優でやってきた人が、自分の路線を変えるということよりも、ハードルは低いのかも知れない。
 その理由は他力本願だからだろう。
「自分が望んだわけでもない作品で、嫌と言わずに頑張ってきたことが、これからの自分を作り上げていくんだ」
 と晴香は思っていた。
 このまま、AV女優を続けていくつもりだったが、ある時、社長に呼ばれて、
「こちら、ある芸能プロダクションの方」
 と言って紹介された。
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「君はこれからも、Avで行くつもりない?」
 と聞かれたので、
「私はそのつもりですが?」
「君をスカウトしたいと言ってきているんだけど、どうだろう? 女優の道を模索するのもいいかも知れないと思ってね」
 と社長は言った。
 実は二人は昵懇であり、AV社長のようは、晴香を持て余していたところ、芸能社長の方が、
「だったら、引き受けよう、元アダルト出身として売り出すかどうかは別にしてね」
 と言っていたようだ。
「ただし、君の売り出し方には、文句を言わないでほしい。というのが、君がAV出身だということを君の売り込みに使うかも知れないということだ。つまりは、我々は、元AV女優としての君をほしいと思っているんだ」
 と、芸能プロの人は言った。
 晴香も、そのことに関しては異論がなかったので、
「じゃあ、それでお願いします」
 ということだった。
 まるで、プロ野球の金銭トレードのようだ。AV会社の方にもいくらか入るのだろう。
 それにしても、企画女優である自分に対して、どうして興味を持ったのか、そもそもどこがいいのか分からなかった。
 アダルトでいくには企画からだと延命はしやすかった。企画の基準を変えればいいだけで、今までのギャルやロリコン路線から、若奥さんや、OL系に作品の方をシフトすればいいだけだ。
 そういう作品はいくらでも企画されるし、需要もある。見る男性も、
「誰でなければ見たくない」
 などというものはなく、却って女優に対しては。自分の抱いているイメージを求めるものだ。
 そういう意味では自分にファンはなかなかつかないかも知れないが、この世界で細く長く生き残っていくにはいいかも知れない。そう思っていたはずなのに、いきなりのスカウトに、ビックリさせられた晴香だったのだ。
 晴香は、社長に言われる通り移籍することになったが、最初からうまくいくはずもない、
「芸名は今のままで」
 ということになったが、そもそも、AVでも名前が売れているわけではない。そういう意味では自分の名前がテレビに出るかも知れないと思うと嬉しくなり、将来を楽しみに思うほどであった。

                 ストーカー

 そんな晴香だったが、AVから移籍しての一年後に、このようなユニットに参加できるというのは、果たして彼女にとっていいことなのだろうか?
 実際に、芸名を変えたわけでもないし、
「元AV女優」
 という触れ込みも一切ない。
 社長からも、
「自分から、元AV女優だということは言わないようにね」
 と言われた。
 最初はあれだけ、
「元Av女優というのを武器に売り込むような話をしていたはずなのに」
 とビックリしたが、
「なるほど、こういう計画があったのか」
 と思わせた。
 しかし、まさかここで、臨時とはいえ、アイドルユニットを組むようになるとは思ってもいなかった。どこかのスポンサーのキャラクターとして売り出すということであったが、そういうアイドルは今までにも結構いたりした。
 だから、今さら珍しいことではないが、自分の年齢を考えると、
「何がどうなっているんだか?」
 と思わせるというものだった。
 ただ、そのおかげで、名前が売れたのは事実だった。
 それまでまったくと言って知名度がなかったものが、いくら地方営業のようなことであっても、覚えてくれる人がいるかも知れないと思っただけで、嬉しくなってくる。
 このユニットは、あくまでもキャラクターとしてのアイドルなので、子供やその母親がターゲットだった。晴香の売り込みには、
「私は二十三歳の……」
 と年齢を明かしての宣伝であった。半分はバラエティアイドルのようなもので、時々、着ぐるみを着て、子供たちを喜ばせるというキャラクターなので、アイドルというよりも、まるで、正義の戦士とでもいうような感じであった。
 そんな中で、それまで一人で浮いていた晴香を助けてくれる存在だったのが、みのりだったのだ。
 みのりも最年少ということで、孤独だった。他の女の子たちもさすがに中学生くらいの女の子が一人だと相手をしにくい。もう一人同年代がいれば、グループでの会話にもなるというものだが、それもしょうがなかった。
 ただ、みのりが選ばれたのは、決して悲観的なことではなく、事務所の一押しがみのりだったということだ。さすがにまだ中学生のみのりには、そこまで分かるわけもなく、孤独がこみあげてくるが、まさかマネージャーもみのりがそんな繊細だとは思っていなかった。
「この子は事務所の期待を一身に受けているということを、自分でもわかっているはずだ」
 と勝手に思い込んでいた。
 ただ、思い込んでいるというだけで、実際にみのりの方を見ようとは思わなかった。
 このマネージャーは、実は自分も元アイドル出身で、身体を壊して、途中卒業という憂き目を負っていた。
 だから、アイドルの気持ちは分かると思うのだが、分かりすぎるだけに、妥協は許さなかった。
「あんたたちには、私が味わった苦しみを分かるわけはないわ」
 という思いであり、アイドルとして活躍を期待されている女の子たちを、心の底で嫉妬していたのである。
「私は、アイドルなんてどうでもいいんだ。生活のためにマネージャーをしているだけで、どうせなら、私と同じ目に遭えばいい」
 と思い続けていた。
 みのりも同じような目で見られ、この辛さは、ひょっとすると、マネージャーの時よりも、きついのではないだろうか。
 マネージャーの時は、自分のマネージャーも事務所も全面的に彼女をバックアップしていた。だからこそ、卒業後も、
「マネージャーとして残ってくれないか? 挫折を味わった君なら、きっと彼女たちの気持ちが分かってくれるだろうからね」
 と言って声をかけてもらうことができたのだ。
 そのマネージャーの無言の圧が、みのりを苦しめている。
 みのりも社長から、
「マネージャーの彼女は一番君たちのことを分かってくれている人だから、安心してなんでも相談すればいい」
 と言ってくれていたので、当初は安心していたが、まさかここまでとは思っていなかった。
 しかも社長が自分のためにわざわざつけてくれたマネージャーである。本当のことを社長にいえば、社長の好意を無にしてしまうことになる。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次