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正夢と夢の共有

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 この思いが、みのりにはつらかった。
 これこそ、
「ジレンマ」
 というのだろうか。
 まさか中学生の自分が味わうことになるなど思ってもいなかったが、
「それだけ芸能界というのは甘いところではない」
 ということであり、契約をしている以上、仕事なので、えり好みもできないということだ。
 それでも、社長は優しい人で、
「まるでお父さんのようだ」
 という思いがあったので、社長を裏切るような行為は絶対にできなかった。
 みのりは、父親に小さい頃に先立たれ、父親というのを知らなかった。
 母親だけで育てられたことで、
「お母さんにも楽をさせてあげないと」
 と思い、芸能界に入ったのだ。
 その時雄スカウトは、まだ子供だったみのりに、不屈の精神のようなものを感じた。それがスカウトのきっかけだったのだ。
 みのりは、晴香に負けず劣らずの負けん気はあったが、そのせいもあってか、被害妄想的なところがあった。晴香もみのりのことを、みのりも晴香のことを、
「同じなんだ」
 と思っていた。
 その感覚が二人を結び付けたといっても過言ではないが、最近ではみのりはあることで悩んでいた。
 負けん気の強さからなのか、弱いところを近しい人には見せたくないという思いからなのか、晴香には言わなかったが、最初こそ、
「あまり詮索してはいけない」
 という気を遣っていたが、みのりと一緒にいるうちに、放っておくことができない気がしてきたので、
「どうかしたの? 何か気になることでもあったの?」
 と聞いてみた。
 さすがに、最初はモジモジとして、何も言い返すことができなかったみのりだったが、次第にその目が何かを訴えているようで、それに応じて優しく聞いてみると、みのりも観念したのか、話し始めた。
「私ね。最近誰かにつけられているか、それとも、狙われているんじゃないかって思うことがあるの。最初はふとした時に感じるくらいだったんだけど、すぐに気になる感覚が強くなってきて、よく振り返るようになったのね」
 と言われて、晴香はハッとした。
――そういえば、彼女、時々後ろを気にすることがあったような気がするわ――
 ということを思い出したからだ。
 まだ、若く、しかも思春期であれば、まわりの男性が気になるのも分かる。特にアイドルなどというと、ファンという不特定多数の人を相手にするわけで、いつどこで、反感を買っていて、逆恨みされているか分からない商売でもある。
 思春期の精神状態で、そんな妄想を抱いてしまうと、精神的に苦痛であることは分かり切ったことである。
 バスや電車の中で、満員の中でこそ、人の視線を感じた。あるいは、誰もいないところを歩いていると視線を感じた。
 中途半端に人がいるところでは感じないのだ。
「ひょっとすると、錯覚なのかも知れない」
 と、みのりは感じていた。
 最初はすぐに、悪い方に考えるみのりだったが、すぐに、
「気のせいだわ」
 と自らが否定してしまうところがあった。
 それだけ臆病なのだろうが、自覚しているところであった。
 そのうちに冷静さを取り戻し、
「まさかと思うけど、あれはマネージャーかも知れない」
 と思った。
 もし、これがマネージャーの仕業だとすれば、みのりはそれを人に言ってはいけない気がした。
 マネージャーが罪に問われるようなことがあれば、社長に迷惑をかけると思ったからで、それはしてはいけないことだと思っていた。
 だから、最初、晴香に相談したが、
「この間のストーカーというのは、私の勘違いだったみたい」
 と言って、すぐに否定した。
「そう? それだったらいいんだけど」
 と言って少しいぶかしく感じたが、
――みのりがそういうのであれば――
 ということで、それ以上詮索しないようにした。
 そのせいもあってか、却って恐怖が募ってくることになった。
 なぜなら、
「こうなってしまったら、何かあっても、誰にも相談できない環境を作ってしまった」
 ということになるからだ。
「私は大丈夫」
 ということを言っておいて、後になってから、
「実は……」
 というのは、ルール違反ではないだろうか。
 それを思うと、みのりは、もう社長はおろか、晴香にも相談できないと思うと、ジレンマは最高潮に達し、一時期体調を崩してしまった。
「まわりの人を裏切りたくない」
 という思いは、自分の存在意義に近いものがあり、もし何かあって、事実が明るみに出ると、その時点で裏切っていたことも明るみに出るのではないかと思い、それがジレンマとなってしまった。
 体調を崩したことも、
「言い訳にならないほど、無様ないいわけ」
 しか思い浮かばず、人によっては、
「アイドルとしての自覚がまったくない」
 と思われているに違いないと感じたのだ。
 実際に、他のメンバーのスケジュールを何とか合わせてきたのだから、他のアイドルのマネージャーにも申し訳ない。
 ただ、今回のストーカーに関しては、マネージャーはまったく関係はなかった。むしろ、みのりが体調を崩したことで、その後始末に奔走していたのだ。みのりが彼女を疑うというのは筋違いであった。
 元々アイドル五人が集結して、イベントが開かれるはずだった三日前、熱を出してしまって、寝込んでいたみのりは、イベントでファンに向かって微笑みがら踊るというパフォーマンスを演じている想像をしていたのだ。
 その時ストーカーが、目出し棒をかぶって乱入してきた。大混乱のイベント会場であったが、そこにマネージャーが果敢に飛び出して、取り押さえようとする。
「女だてらに、すごい力」
 と思って見ていると、彼女が相手の鳥打帽をはがした。
 するとそこに出てきた顔は、マネージャーだった。
「もう一人のマネージャー?」
 と思うと、共学で身体が動かなくなったみのりだが、次の瞬間、
「これは夢なんだわ」
 とハッキリと感じた。
 そう思った瞬間、すでに夢から覚めていて、後は、目が覚めるのを待っているだけだったのだ。
 真っ暗な部屋に光が差し込んでいるようで、
「夢というのが、ここまでハッキリしているものだったとは思ってもみなかった」
 と感じたのだった。
 なるほど、怖い夢というのは、インパクトがあるだけに、覚えているものである。そして、最後に差し込んできたかのように見えた光こそが、
「夢の世界と現実の世界を結び、そしていったん抜けてしまうと元に戻れないという結界のようなものなのかも知れない」
 と感じたものだった。
 この夢は、正夢なのだろうか?
 ただ、正夢と言っても、
「これから起こることを予言している夢」
 という意味ではなく、
「この夢が真実を映し出しているものではないか」
 というものであった。
 つまりは、
「普段、分かっていないふりをしているが、自分の中で認めたくないことを、間違いだと勝手に思い込み、現実を捻じ曲げようとしているのだ」
 とすれば、その自分の中にある本心が、夢となって見せたのではないかと思うのだ。
 この夢は、明らかに自分を付け狙っているストーカーが誰であるかということを暗示するものであった。
 いや、正確に言えば、
「自分が犯人である」
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次