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正夢と夢の共有

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「そうなのかも知れないんですが、私は年上の人に憧れているというよりも、いろいろ教えてもらいたいという感じなんですよ」
「じゃあ、姉御肌の女性を慕うという感じになるの?」
 と聞かれたみのりは、
「そうなのかしらね? 叱ってほしいという感覚もあるのかも知れないわ」
 というのを聞いて、彼女がM気質なのではないかと感じた。
「叱ってほしいというのは、母親やまわりの大人からあまり叱られた経験がないからなの?」
「そうじゃないんです。親からもまわりの大人からも、結構叱られた経験があるんですけど、完全に、親が子供を叱るという感じでしかないんですよ。私は年上の人が、年下を叱るという他人ではあるけど、親友に叱られるようなそんな感じを味わいたいんです。親に言われれば、どこか反発する感じがあるじゃないですか。でも、自分が大人の女性と認めた人から叱られると、本当に真摯に受け止めようと思って、自分がしゃっきりとするのではないかと感じるんです」
 とみのりは言った。
 それを聞いて、晴香は、
「彼女は、思ったよりもしっかりしている感じなのではないだろうか?」
 と感じた。
 年上のお姉さんから叱られたいというのを、M気質だと思った自分が恥ずかしいと思ったくらいで、どうやら、この子は真剣にアイドルを目指し、いずれ大人の女になろうという設計が。自分の中でできあがっているのではないかと感じられた。
 彼女が最初に話しかけてきたのは、最初のイベントで一緒になった時のことだった。
 それまでまわりの人に対して、一線を画していた晴香だったが、みのりの視線に気づいて、包み込むような余裕のある笑顔を見せようと思い、却ってぎこちなくなって、思わず笑ってしまった時のことだった。
 その顔を見て、晴香はぎこちない笑顔を示してしまったことに対して、
「しまった」
 と思ったのだが、みのりは、晴香の笑顔に救われた気がしたのかもしれない。
 晴香の笑顔がみのりの何を救ったのか、晴香には分からなかったが、最年少ということもあり、しかも、任意に集められたことで、今まですべて自分の意思で決めてきたことが、今回は半強制的な状況に大いなる戸惑いと不安を隠しきれなかったのかも知れない。
 そんなみのりには精神的な余裕がなく、アイドルとしての笑顔も忘れてしまったかのように、まわりを寄せ付けなくなっていたのではないだろうか。その証拠に結成から晴香の笑顔に救われるまでの五人の中で、一番不人気だったのは、みのりだったのだ。
 最年少ということもあり、
「一番ぎこちないのは仕方がない」
 ということは、ファンにも分かっていたことだろう。
 そういう意味で、仕方のないぎこちなさは差し引いてファンも見てくれるはずなのに、人気が最低だということは、かなりアイドルとして致命的だったのかも知れない。
 その事実を、マネージャーから言われ、諭されていた。
「このまま不人気が続けば、今回のプロジェクトだけではなく、事務所としても、君の売り出し方について、根本から考え直さないといけない」
 と言われた。
 それは、マネージャーとしては思っていても、簡単に言ってはいけないことではないだろうか。そういう意味で、このマネージャーは、少なくとも彼女にとって、
「いいマネージャーだ」
 とは言えないだろう、
 そういう意味でも、彼女のプレッシャーはかなりのものだった。
「このまま投げ出してしまおうかしら?」
 とまで考えていたようだった。
 その思いがさらにぎこちない態度を生み出し、せっかくの仲間からも浮いてしまった状況になり、そんな自分の心境を周りに悟られたくないという思いと、誰かに分かってほしいという思いとが交錯し、一層の戸惑いと、プレッシャーが彼女を襲うのだった。
 レッスンをやっていても、圧倒的に合わせることができないのが、みのりだった。
 本来であれば、もう少しソロで活動し、知名度が上がってきてからのユニットというのが、それまでのアイドルの形だったのに、第一ステップも、まだまだこれからなのに、いきなり第二ステップを第一ステップの成長とともに行わなければいけないことは、数倍の気遣いが必要だった。
 それでも何とかやってこれたのは、地下アイドルという下積みが身についていたからではないだろうか。
 まわりの反応がいかにつらいものなのかということを、初めて知らされたみのりは、地下アイドルの経験がなく。二十三歳になる前の経歴があまり鮮明ではないという晴香にある意味で最初から興味があった。
「一体、何をしていた人なんだろう?」
 という意味で、絶えず晴香のことを意識しながら見ていた。晴香もその視線に少しずつ気づいていくようになったのだが、
「あの子、何を気にしているんだろう?」
 と、最初はみのりに対して違和感しかなかった。
 興味を持ってくれているのが分かったのだが、晴香にとっては、他の四人は、
「自分の経験のない地下アイドルという下積みを経験しているだけに、強いに違いない」
 という意識から、彼女なりに、一目置いていたのも事実だった。
 一人だけ孤立していたという意識があったのも事実だった。
「私だけが……」
 という思いが強く、しかも最年長、
「最初に崖っぷちに立たされることになるのは、きっと私だ」
 と晴香は感じ、
「いや、すでに立った状態に置かれているのかも知れない」
 とさえも思っている。
「なぜ、こんなユニットが必要だったのだろう?」
 と思うと、晴香は、
「私を陥れるために築かれたユニット」
 とまで感じるようになっていた。
 元々、被害妄想なところがあり、だから集団での行動は苦手だったこともあったのが、晴香が、
「いつも、悪い方にばかり考える」
 という性格を作りだしたのかも知れない。
「苦しいのは私の方よ」
 と、みのりが苦しんでいるのは分かっていたが、相手のことを思いやる余裕までなかった。
 しかし、自分でもどうしてあんな中途半端な笑顔が出たのか分からないと思いながらも、みのりの笑顔に、
「どこか救われるかも知れない」
 と感じた。
「悩んでいる人間のことが、悩んでいる人にしか分からない」
 と思ったのだが、それは、悩みの内容まで分かるわけではなく、
「相手も同じように何かに悩んでいる」
 ということだった。
 相手の悩みが分かってしまうと、最初から限定的な狭い範囲でしか相手を見ることができない。しかし、漠然と悩みがあるということを感じていると、相手と話をするまでに、いろいろと想像することができて、第一印象はかなり広い気持ちで見ることになるだろう。
 話しかけるまでにはそんなに時間がかからないが、その間に相手に対しての考えを、
「ああでもないこうでもない」
 と考えることに、かなりの時間を使っているように思うのだった。
「これって、まるで夢を見ている時の感覚ではないだろうか? 夢というのが、目が覚める前の数秒で見るものだということを考えると、今のこの時間の長さの感覚は、まるで夢の中にいるかのような感覚ではないだろうか?」
 と言えるのではないかと考えていた。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次