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正夢と夢の共有

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 元の位置に戻るのは、プラマイゼロであるが、先に進むことで得られるプラス分を、危険を犯してでも手に入れる必要があるのか、そしてもう一つは、先に進んでしまって、何かを手に入れたとして、それを持って。また元のところに戻るには、もう一度、この橋を渡る必要があるのだとすれば、もう一度、腹を据える覚悟を持つことができるであろうか?
 何と言っても、帰りは、
「この先で手に入れるものも一緒に持っている」
のである。
 来た時よりもさらに戻るのに危険がある。果たしてその危険に、打ち勝つことができるであろうか?
 そこまで考えておかなければいけないということなのである。

                 カギを握るマネージャー

「先に行くにも地獄、前に戻るにも地獄」
 と、最初に考えたのであれば、慎重にことに当たる人であれば、きっと先に進もうとは考えないだろう。
 元に戻るという考えを持つに違いない。その時に、
「帰途のプラスアルファの危険性まで考慮に入れている」
 ということを考えるのであれば、それこそ、
「本当の慎重派、つまりは、石橋を叩いて渡ると言える人なのではないだろうか?」
 と考えられる。
 そういう意味で、あの時の結婚はしょうがなかったとはいえ、
「つり橋の上の自分」
 を見ることができなかったことが一つの後悔だったのだ。
 結婚して、少ししたくらいから、
「この人が見ているのは、私ではない」
 という感覚になってきた。
 最初の方は、
「君は何もしなくてもいいんだ。家事なんか、この僕がやるから」
 と言って、結構自分から動いてくれたのだが、次第に彼は、自分から動こうとしなくなった。
 そのくせ、
「家事なんかしなくていい」
 とは相変わらず言い続け、
「何言ってるの。私が家事をしないわけにはいかないでしょう?」
 というと、彼の態度が変わってくる。
 何かを言いたいのだろうが、喉の奥に引っかかっているかのように何も言おうとしないのだった。
「一体、どうしたの? 何が言いたいのよ。ハッキリ言ってよ」
 と、業を煮やして問い詰めるようにすると、彼は逃げに走っているかのように見え、何も言おうとしあい。
 確かに言いたいことがある雰囲気なのだが、それを自分の口から言うのではなく、どうやら、美月に気づいてほしいという様子だった。
 今度は何も言わない代わりに、たまってきたストレスを発散させることができなくなり、切羽詰まっているようだったが、当事者であるがゆえに、美月にはどうすることもできなかった。
 そして厄介なことに、彼が手を出したのが、ギャンブルであった。
 気づいたのが比較的早く、借金も最小限度のものであったのは幸いだった。
 ギャンブル依存症になりかかっている彼と、調停によって離婚を成立させ、借金を背負わずに済んだという程度で、離婚ということで失うものは大きかった。
 元々、そんなに大きなものを結婚によって得られたわけではなかったが、自分が得たと思っていた幸せが大きかったということと、マネージャーの忠告通りになってしまったことで、自分に、
「男を見る目がない」
 ということが確定してしまったということを立証しているようで、情けないともいえるだろう。
 離婚することは最低限のことであり、この先どうすればいいのか、分かるはずもなく、途方に暮れていた。
「結婚生活に、マネージャーはいないんだ」
 と思い、自分がマネージャーにいつも助けられていたということを思い知った。
 自分のマネージャーをしてくれていた人とは、結婚を決めた時に気まずくなってしまい、連絡も取っていない。
 今さら連絡が取れるわけもなかったのだが、実はそのマネージャーも会社を辞めていて、消息がつかめないようだった。
 そもそも、彼が会社を辞めた理由が、
「美月のことをちゃんとフォローできなかった」
 というのが、その理由だったという。
 だが、彼女とすれば、辞めることに関しては、担当が美月でなくとも、辞めようという思いはあったようだ。
 ただ、美月ほどインパクトの強い相手がいなかったということで、自分の逃げ道として美月を利用したかのように感じている自分に対して、自己嫌悪に陥っている部分もあったようだ。
 だから、きっぱりとマネージャーを諦めて、話とすれば、田舎に帰ったという話だった。
「そういえば、田舎は農家だからといって、イベントなどには、よく差し入れてくれていたっけ」
 というのを思い出していた。
「帰れるところがある人はいいな」
 と思った。
 美月は、何かを失う時のショックは、そのほとんどがかなり大きなものだったりする。死んでしまったり、マネージャーのように、自分のせいにされてしまっていたりと、
「どうして、いつも自分ばっかりがこんな目に遭うんだろう?」
 と思わずにはいられなかった。
 それも、
「つり橋の上の自分」
 を最近になって感じるようになったからだ。
 それは、その頃から頻繁に夢を見ているような気がしたからだその夢というのが、
「つり橋の夢」
 であって、気が付けば、
「先に進むか、元に戻るか?」
 ということを考えているのだ。
 結果としては、元に戻ることで、事なきを得ているのだが、果たして現実世界で、元に戻ることができるのだろうかということを絶えず考えているような気がする。
 元に戻ることのできる冷静な目で見ることができる、夢の中の自分。
 現実世界では、先に進むことだけが現実だとしか思えないという自分。
 そのどちらも同じ自分なのに、夢の中で感じる自分が二人いて、
「前に戻る自分と、先に進む自分はどちらも、自分であり、夢の中では主人公である自分と、夢を見ているという自分との二人が、自分として君臨しているんだ」
 と考えられるのだった。
 自分が夢を見ているという感覚が、最近は結構ある。
 以前にも夢を見ているという感覚がある時、夢の内容を忘れないことが多かったような気がする。
 つまりは、
「夢を見ているという感覚がある時、その夢が怖い夢だという意識だけを持っていて、実は見ているわけではない。後になって思い出すのは、意識の中に潜在しているものを、目が覚めてから、自分の都合のいい解釈で組み立てるからではないか?」
 と考えたが、
「それなら、どうしてわざわざ怖い夢を感じてしまう」
 というのか、自分でもよく分からない気がしたのだった。
「夢というのは、潜在意識のなせる業」
 と言われるが、
「夢は見ているものではなく。目が覚めてから辻褄を合わせようとして、自分なりに都合のいい解釈で、組み立てるものではないか?」
 と考えるようにもなっていった。
 つまり、
「正夢というのは、夢に見たことが起こったわけではなく。起こったことを逆に、夢の中で都合よく組み立てる気持ちになるから、辻褄が合うのは、当たり前のことだと言えるのではないか?」
 と考えられることであった。
 正夢について、ずっと考えてきたが、なかなか答えが出なかったはずなのに、ふとしたことで、ふとした時に、ふっと思いついたことが、今では、
「これこそが正解ではないか?」
 と感じるようになった。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次