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正夢と夢の共有

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 その根拠が、
「美月は俺のことを愛している」
 という、なんの根拠もない思いだったに違いない。
「ここまでバカな男だったとは……」
 と、彼に対しての呆れというよりも、そんな男を少しでも好きになった、そして、信じていた自分のバカさ加減に愛想が尽きていたと言ってもいいだろう。
 元々、この男はファンだったのだ。それまで付き合った男性というと、仕事関係の人ばかりで、男優であったり、監督であったりだった。
 いい加減、さすがにプライベートまで仕事関係というのはウンザリしてきそうなものだったが、美月はそのあたりには、最初から無頓着だったのだ。だから、
「何か、おかしいな」
 と思っても、この気持ちがどこから来るのか分からなかった。
「どうせ、付き合う相手なんだから、仕事相手の方が都合もいいか?」
 と思っていたのも事実で、だがそれは、鈍い自分が鈍いということが分からず、何か変だと思っている矛盾を自分なりに解釈した時に出てきた答えだった。
 安直に出した答えだったわりに、的を得ていたことで、珍しく、自分の考えが正しいと思い込んでしまったために、
「今のうちは、仕事関係者であっても、自分を癒してくれる人であれば、それでいい」
 と思うようになっていた。
 しかし、さすがに何度も失敗していると気づくこともある。
 仕事関係者が相手だと、相手の行動も、考え方も分かっているので、便利だと思っていたが、実際には逆だった。
 相手の気持ちが分かっているから、余計に、
「自分の気持ちもまるわかりなのではないか」
 と思うと、警戒し、身構えてしまう。
 そのことが、自分にとって、どれほどのプレッシャーを与えるのかということを考えてみると、やはり、
「仕事関係者では、相手に気を遣いながら、自分を悟られないようにしなければいけない」
 という考えに至ることが問題だと思うようになっていた。
 その気持ちもあって、
「もう、仕事関係は嫌だ」
 ということで、ファンの中の人を選んだのだ。
 しかし、ファンというものとくっつくということがどういうことなのか、分かっていなかった。
 ただ、
「仕事関係は嫌だ」
 というだけの安直な気持ちだったのだ。
 そもそもファンというのは、自分の推しに対して、
「自分だけのものでいてほしい」
 という気持ちが強く、しかも、自分で分かっているかどうか分からないが、
「ある程度の適度の距離を保っていることが大切なのだ」
 と言えるのではないだろうか。
 疑似恋愛を楽しむために、お金を使い、使ったお金の分だけ自分のものだと思う感覚、それを果たして愛情と言えるのだろうか?
 そんな男は、実際に自分のものになると、
「もったいんsい」
 という気持ちから、神棚にでも飾っておいて、リアルに求めるものは、他のものという考えに至るのだろう。
 しょせん、アイドルやタレントのファンとの間の関係というのはそういうものだ。アイドルを引退して、普通の女の子に戻り、花嫁修業の果てに、料理がうまくなったとしても、旦那は喜んでくれると思うと大間違いだったりする。
 もちろん、すべてのアイドルとファンのカップルがそうだとは言わないが、こういう感覚が普通なのだと分かっていないと、痛い目に遭うのはアイドルである。
「君はそんなことしなくていいんだよ。君はいつまでも僕だけのアイドルでいてくれればいいんだ」
 と言って、神棚からひな壇に置かれてしまう。
 自分のアイドルはアンタッチャブルで触れることができないと思い込んでいるくせに、男としての性欲は当たり前にある。したがって、不倫や風俗に嵌る人も多いだろう。さらにそこで、コスプレの風俗などに嵌ると、アイドルヲタクに飽きがくるだろう。
 そうなってしまうと、ひな壇に置いておいたものに、意識もいかなくなる。下手をすれば、ただの飾りであり、興味もまったくなくなってしまうのだ。こうなると、夫婦どころか、ストレス以外でもなんでもなくなる。男がそこまで来た時、女の限界も超えているだろう。結末は悲惨なことは分かっているが、最後は実に静かに別れることであろう。
 そんな彼との別れは最初から分かっていたような気もしていた。それは、
「正夢を見た」
 と思っていたからだ。
 その正夢というのは何であったのだろうか?
 美月が見る、正夢というものの悌吾は、
「夢の中に初めて出てきた人を目が覚めてからも覚えていると、それは正夢である」
 というものであった。
 この感覚は美月だけのものではなくて、晴香にも言えることであり、みのりにも分かったいることなのかも知れない。
 ただ、目が覚めて覚えていることが、すべて正夢に繋がるというのは危険な感覚で、思い込みすぎると、ロクな考えが浮かばないということにもなってくる。
 自分にとってのファンと結婚することに対して、反対したのは、当時のマネージャーだった。
「ファンというのは、あなたの一部分しか見ていないんですよ。だから、あくまでもアイドルであるあなたしか知らない。それ以外をあなたが演じようとすると、すべて、彼にとっては物足りないと思うことなんですよ。ファンと結婚するということは、私が思うに、かなりの危険があると思うんです。できれば思い直してもらいたい」
 と言っていた。
 最初こそ、
「何言っているの。彼は私のことを愛してくれていると言ってくれているわ」
 と言っていた。
 確かにアイドルとしても、年齢が増していたのも事実で、恋愛も失敗した。このまま卒業しか残されていない自分に、現れた相手。結婚というものへの数少ないと思われたチャンス。これを逃すわけにはいかない。
 だが、美月だってバカではない、それくらいのデメリットも考えていた。その両方ともを考えてみると、先に進むしかなかった。
 その時、美月は、
「つり橋の上の自分」
 という発想を思い浮かべてみるべきでもあった。
 もちろん、それは結果論にしかならないが、
「結果論でしかない」
 と言ってしまうと、それは逃げでしかなく、話の本筋から離れていくのではないかと感じるのだった。
「つり橋の上」
 というのは、風も強ければ、綱のようなもので結ばれていて、足元もグラグラしてしまっている。
 真ん中に近づくにつれて、その風の影響はどんどん深まっていって、気が付けば、前に進むにも戻ろうとしても、恐ろしくて足が竦んでしまって、前に進めなくなってしまう。
「このまま、どうすればいいんだ?」
 と考えてしまうと、どんどん動けなくなってしまう。
「このまま、前に進むか、それとも元に戻るか?」
 この時最初に考えることとすれば、
「私は、どうしてここにいるのだろう?」
 という思いである。
「前に進むのは、どこか観光地に行こうとしているからだろうか? それとも真っすぐに進むことで、どこかの出口に行こうとしているのだろうか?」
 ということであった。
 では、後ろに戻るということはどういうことであろうか?
「来た道を戻るのだから、少なくとも、現状維持は保たれる。先に何があるのかは別にして、ここに来なかったというだけで、元々来る前に戻ることができるのは確実だ」
 と言えるだろう。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次