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正夢と夢の共有

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 という程度のものだった。
 しかし、テンパイガールズのスポンサーは最初は二つだったのだが、そのうちに、
「地域振興に役立てる」
 という意味で、スポンサーがいっぱい増えてきた。
 それによって、活動も無視できなくなり、それぞれのプロダクションも、このイベントに力を入れるようになったことで、スケジュール調整をする人間を選定した。
「私がやります」
 と言って、真っ先に手を挙げたのが、美月だった。
 彼女が立候補してくれたおかげで、他のマネージャーたちは、ホッとしたことだろう。相変わらず、のんきなマネージャーがいる中で、美月は皆から見て、天使に見えたことだろう。
「これが一番いいことなんだろうな」
 と、晴香のマネージャーもそう言ったが、それだけ、マネージャーの本来の仕事をしながらのスケジュール調整は大変なことだったのだろう。
 実は、これにはわけがあった。
 美月が気にしていたのは、みのりに付きまとうストーカーの存在だった。
 ストーカーが現れるまでは、
「個別での活動をしてくれる方が気が楽だ」
 と思っていたが、今のように、イベントやグループで活動している時の方が、ストーカーに狙われにくいし、イベントで人気が出れば、ストーカーも近づきにくくなるという思いが美月にはあったようだ。
 美月もまさか、みのりが今回のストーカー事件の犯人を自分だと思っているなど、想像もしていなかっただろう。
 だから、まさか美月がストーカー対策を考えて、今回のスケジュール調整を賄ってくれているとは思ってもいなかった。
 しかし、いつも単独での活動だったものが、グループでの活動も増えてくると、最初は単純に、
「たまにはアクセントがあった方が、新鮮で楽しいかも知れない」
 と思うようになった。
 そんな状況をほとんど知らず、みのりが自分のマネージャーに不信感を持っていたことも分からなかった晴香は、イベントで会うことが増えてきたことによって、みのりのマネージャーが美月であることを知った。
 だが、美月は自分のことを意識することはないと思った。なぜなら、死んだ彼の性格から、晴香への意識を美月に話すわけはない。同じAV女優だったと言っても、かたや、主役女優であり。かたや企画女優であるという意味でも、彼女が晴香を知っている可能性は皆無に近いに違いない。
 その晴香にとって、美月の存在は、かつては、恋敵であったが、さすがに今はそんな意識もない。彼が死んだ理由に、美月がかかわっているという証拠はどこにもないし、もし、彼女が関係しているとすれば、彼と別れてから、そんなに時間が経つこともなく結婚ができたであろうか?
 あれ以上早ければ、彼女が二股をかけていたことになるのではないかと思えるほどの短い間での結婚だったが、その結婚を疑う人は誰もいなかった。実に円満な結婚だったのだ。
 そんな彼女が、今はこうやってマネージャーの仕事をしているのだ。
「何か事情があったに違いない。それだけ苦労をしたのだろう?」
 とも考えられる。
 しかし、その逆の考えも頭に浮かぶ。
「彼女が焦って結婚したのは、彼とのわだかまりをごまかすためではないのだろうか? 相手の女にも何か事情があっての、世間の目をくらますための、偽装結婚というではないか?」
 という考えである。
 だから、ある程度まで結婚生活を続けた上で、時期がくれば離婚したとも考えられる。
 もちろん、後者は、少し強引な考え方ではあるが、辻褄はあっているような気がする。ただ、今の美月の仕事ぶりを見る限り、
「マネージャーの仕事は天職だ」
 と言わんばかりであり、見事に自分のマネージャーとしての仕事をこなしたうえで、今回のテンパイガールズのスケジュールも、ちゃんと組み立てていた。
 それに彼女はテンパイガールズのメンバーに対しても気を遣っていて、いろいろ相談にも乗っているようだ。
「長門さんのようなマネージャーがいて、みのりちゃんは幸せよね?」
 と、みのりがストーカーに悩まされているのを知らない他のメンバーは皆そう思っていたようだ。
 ただ、一つ気になるのは、美月が女優をやっている頃に、彼女にはいろいろと噂があったことだった。
 そのほとんどが、謂われなき中傷だろうと言われてきたが、謂われなき中傷ほど言われ続けるには、それなりの理由があり、火のないところに煙が立つはずもなく、
「何かあるとすれば、彼女の性格が影響しているのではないか?」
 と言われていた。
 女優というのは、誹謗中傷はつきもので、言われ続けるのもステータスだともいえるが、言われている本人にとっては、これほどつらいこともない。
 そんな彼女がAV女優をやめなかった理由を考えてみた。いくつか考えられるが、まず最初に考えたのは、
「彼女には支えてくれるマネージャーがいたのではないか?」
 と思えることだ。
 そう考えれば、今の彼女がマネージャーになった理由も納得がいき、話に辻褄も合っている。次に考えたのが、
「彼女を支えたのは、彼氏であるが、それは晴香が好きだった彼じゃない」
 という考え方である。
 誹謗中傷は、ある時期になると一気になくなったという。誹謗中傷を受けているのが、その支えてくれた彼氏に関係があるのだとすれば、その存在を明らかにせず、世間にひた隠しにしていたという理由も分かる気がする。その後で、晴香も好きだった彼と付き合っていた時は、別に隠すわけでもなかった。別れた時も普通にふるまっていて、しかも、結婚も、彼の死に、自分がかかわっていないということを、口には出して言わないが、結婚することでそれを言わんとしているということを思わせた。
 さらに、もう一つは、
「彼女自身が、メンタル的に非常に強い人間であった」
 ということである。
「女優というのは、誹謗中傷を言われることは、覚悟の上」
 と割り切っていたとして、最初から分かっていたことだとすれば、覚悟を持っての女優業だったとすれば、
「美月というのは、本当のプロだった」
 と言えるのではないだろうか?
 後になってみれば、いくらでもその時のことを想像することもできるが、決して彼女に対しての悪評は出てこない。それを思うと、
「やはり美月という女性には、マネージャーという仕事は天職なのではないだろうか?」
 と言えるだろう。
 そんな美月を、みのりがストーカーのように感じていたのは、少しおかしな気がする。
「美月はよほど、みのりに嫌われていたような気がする」
 と晴香は考えた。
 理由はよく分からないが、女性同士、しかも、マネージャーとアイドルという関係は、不透明なところが多く、それは晴香にも分かっていることだった。
 晴香は今までマネージャーで悩まされたことはなかったので、
「これ以上のいい関係というのはない」
 と思っていたが、主役はともかく、縁の下の力持ちの方とすれば、厄介に感じることも多いのではないだろうか。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次