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正夢と夢の共有

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「私も、後から出来上がった映像を見て、自分でもチェックしているんですけど、少々離れたくらいの距離で、二人の身体全体が映し出されるくらいの距離から撮影されているのを見ると、これくらいの距離が、興奮するって思うんです。時たま、遠くから映すような映像があるでしょう? あれこそ、興奮の極みだって思ったくらいです」
 と晴香がいうと、マネージャーは、ニコニコしながら聞いていた。
「あなたも、いつの間にか、しっかりとした女優になっていたんですね? 自分の演技をチェックするというのは、一見、自分の演技が未熟だということで、不安から確認するという風に感じる人がいると思うんですけどね、本当は違うと思うんですよ」
 と、マネージャーは言った。
「どういうことですか?」
「それは、正反対ではないかと思うんですよ。自分に自信がないからではなく、地震があるから、うまくいっているとくの自分を目に焼き付けておこうという考えではないかと思うんです。普通AVの撮影で自分に自信がなければ、いくらチェックとはいえ、恥ずかしくて自分の演技を見ることなkなできませんよ。それができるというのは、恥ずかしさを超越した演技力を、自分で確認したいからだと思うんですね。あなたは、恥ずかしいと思っているわけでしょう?」
 と聞かれて、
「ええ、そりゃあ、私だって女ですから、男に蹂躙されるという感覚を恥ずかしくないわけもありません。しかも、私の中では、セックスというものは、いくら自分が演じるものだと言っても、あれだけ本能がむき出しになっていると、恥ずかしくないわけがありません」
 と晴香は言った。
「そう、そうなのよ。その堂々とした態度のそのセリフ。それが完全にあなたの中の自信とプライドだと思うんですよ。プライドがあるから、恥ずかしくても見ることができるんだと思います。そして、そのプライドと自信が自分に余裕をもたらして、男優に対しても、労いの気持ちを持つことができるんです。あなたはそのことを自覚している。だからこそ、演技を振り返ることで、今よりも次の作品で、その結果が出せるんじゃないかしら?」
 と言われた。
「そういってくれると嬉しいです。しかも、マネージャーさんに言われるということが嬉しいです」
「どういうこと?」
 と聞くと、
「だって、絶えず私のそばにいて、私を見ていてくれているわけでしょう? その目に狂いなんかあるはずないですよね」
 と、晴香がいうと、
「ええ、私はこれでもマネージャーのプロだと思っています。あなたが自分を分析するよりも私の方が数倍見えているという自負もありますからね」
 と、次第にマネージャーの自信がみなぎっていることに気づいたのだ。
「私って、本当にAVでよかったんでしょうか?」
 と晴香が聞くので、
「私は、AVのことしかわかりません。だから私に聞いてもこたえられるのは、半分しかありませんよ」
 というので、
「どういう意味ですか?」
 と聞き返した。
「あなたがAV女優になっていなかったらという選択肢は私にはないということです。少なくともこの世界に引き込んだのは私ですが、最後に選んだのはあなたです。私は今までいろいろな人を見てきましたが、あなたのことは最初から、中途半端な気持ちでここに来たとは思っていません。もっとも、ほとんどの人に、中途半端な気持ちなんかありませんでしたけどね」
 と言った。
「それは、あなたが、マネージャーとしての目が優れているからだと私は思います。AV女優を見る目に関してはあなたの右にいる人はいないというくらいの感じですね」
 と晴香がいうと、
「晴香さんも、今はまだ企画中心の女優だけど、私はきっと、日の当たるところにいるべき人だと思っているので、あなたのこれからの成長が楽しみです。でも、ちょっと不安な部分もあるんですよ」
 と、マネージャーは言った。
「う? またしても、どういうことなんでしょう?」
 と聞くと、
「今はあなたの将来がある程度まで見える気がするんですが、最終的なところが見えてこないんですよ。ひょっとすると、あなたは、ここで終わる人ではなく、この後の第二の人生があり、私の想像力を超越した存在になるのではないかと思っているんです。それだけあなたは、光に満ちているような気がするんですよ」
 と、マネージャーは言うのだった。
 実際にその通りになったのだが、晴香がAV女優のその先を見るようになったのは、その頃からだったのは、間違いではないだろう。
 確かに、晴香のような企画女優であれば、その後のジャンルの変更に対しては、それほどの大きな壁はなかった。
 アイドルやロリコン、ギャルものから、OL、熟女、若奥さんものへとのシフトは、他の企画女優も、そうやって生き延びていた、
 しかし、AV女優として名を売りたいと思っている人は、そんな路線変更は嫌だと思う人もいた。
「これを機会に引退しようか」
 ということで、引退する人もいた。
 これが、人気女優であれば、
「卒業記念作品」
 などと銘打って、惜しまれつつ引退ということになるのだろうが、企画女優では、しょせん名前が売れていないので、人知れず消えて行っても、誰にも気づかれることはない。「寂しいが仕方がないこと」
 として、考えるしかない。
「これで普通の女の子に戻れる」
 ということで、普通に結婚し、数年後には、お母さんという人も結構いる。
 晴香のように、普通に芸能プロダクションからスカウトされるのも珍しいかも知れない。
 しかし、考えてみれば、AV女優というのは、そのあたりのアイドルと比べても、遜色のない子も多い。いや、アイドルよりもかわいい子や、演技力もしっかりしていると、素人目ではあるが、見ていてそう感じる子も結構いる。
 それは、ひいき目も多分にあるかも知れないが、贔屓目に見れるほど、可愛らしかったり、綺麗だったりする。
 これが風俗であれば、パネマジと呼ばれるのかも知れないが、CDのジャケット写真は、アイドル顔負けというのも結構あったりする。
 人気女優ともなると、年間で百本近くも出演していたりする女優もいる。そのほとんどが、二時間から、四時間近くの作品で、
「よくこんな短期間で、撮影ができるな」
 と思えるほどだった。
 年間百本というと、三日に一度のペースである。
 確かに、ドラマなどのようにいろいろな場所でロケを慣行するというのは、少ないかも知れない。メインはベッドシーンなので、それ以外は、近所での撮影で済む場合も多い、さらに、登場人物もそれほどいないので、スケジュール調整も、そこまで大変ではない、スタッフも少数精鋭で行えばできないこともないが、スタッフ、キャストと、ほとんど休む暇もないくらいではないかということは、AVを見る人にも分かっていることではないだろうか。
 しかも、AVの撮影というのは、結構肉体労働と言ってもいいかも知れない。一つの作品で、何度も行うのだから、それだけでも大変だ。
「あれが、演技だとすれば、大変なものだ」
 と見ている人に思わせるほどのいきっぷりに、感動させられるほどだ。
 ただ、バラエティ的な企画ものというのは、どうしても、犯罪性と背中合わせだったりする。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次