小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

正夢と夢の共有

INDEX|13ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

 と感じたのだ。
 その気持ちを分かってくれたのか、
「晴香ちゃん、ありがとう。俺は本当に人に気を遣うということが苦手なんだ」
 というではないか。
「どうして苦手なんだって思う?」
 と晴香が聞くと、少し考えたが、答えが出ないようだった。
 晴香は、そんなマネージャーを見ていて、
「それはね、きっと、あなたが、気を遣うことができない。あるいは、嫌いだからなんじゃないですか? かなりストレートにそう思ったんだけど、あなたを見ていると、そうとしか思えないんですよ」
 と言った。
 すると、また考え込んでいたが、実は晴香には分かっていた。
――この人は、黙っているけど、私と同じことを考えていたんだわ――
 と思った。
 その理由は。
「もし、この人であれば、話している相手と意見が違えば、自分の意見を言わなければ気が済まないタイプなんだって思う。だから、人に気を遣えない、つまり、言いたいことは言わなければ気が済まないと思っているからなんでしょうね」
 と思っていた。
 自分と同じ意見であれば、わざわざ口に出すことではないと思っている。それが本当は気を遣っているということになるのだろうが、彼にはその理屈が分からない。
 相手に対して、素直な自分を見せつけるのが、マネージャーの仕事だと思っている。
 だからm気を遣っているふりをすることで、相手がいい気分になってくれるのであれば、それでよかった。
 マネージャーという仕事のどこがいいのか自分でも分からなかったが、晴香にとって、彼がマネージャーでいてくれるのは、ありがたかった。
 AV業界というのは、本当に、女優に対して優しい。男優さんも、本当に優しい。
「世の中では、男女平等だとか、男女雇用均等とか言っているけど、女性だから差別を受けてきたという感覚は私にはない。逆に男性には男性しかできない仕事もあれば、女性にしかできない仕事もある。それが当たり前のことであり。それを差別というのであれば、どこか間違っているんじゃないかしら?」
 と、晴香は感じていた。
 そもそもAVだって、それを見る男性がいるから成り立っているのだ。
 風俗だってそうだ。癒しを求めたい男性が世の中にはたくさんいる。女性とうまくコミュニケーションをとることができない、あるいは、自分がストレートに女性にモテないと思っている人だけが風俗を利用するという考えは、実にお粗末な考えであると言えるのではないだろうか。
 風俗の女の子だって、
「皆、何か曰くがあって、お金のために、ここで働くという人ばかりではないだろう。確かにそういう人もいるが、何かやりたいことにお金がかかるからであったり、単純に、男性とのイチャイチャが好きなのに、特定の男性だけでは満足できないという人などだっているんじゃないだろうか?」
 と思えていた。
 AVだってそうだ。AV女優に憧れる人もいれば、映画女優へのステップアップのためと考えている人だっているに違いない。
 晴香はどうだったのだろう? 自分では、
「スカウトされたから、やってみることにした」
 と、なりゆきでAV女優になったという意識が強かったが、今から思えば、
「最初から、AV女優を目指していたかどうかわからないが、少なくとも途中から、やっていける自信がついた」
 と思っている。
 なぜ、そう感じるのかというと、
「投げ出すこともなく、最後までできたということは、それだけ覚悟が決まっていたということで、それが開き直りによるものだったという気もしている」
 という気持ちになっている
 あの時、覚悟という言葉を最初に口にしたのが、マネージャーだった。
「晴香さんは、自分がこの仕事を続けていこうという覚悟はありますか?」
 と言われて、正直、最初から覚悟などあったわけでもないので、思わず、
「覚悟ですか?」
 と聞きなおしてしまった。
 すると、マネージャーはそれまでの厳しい顔が、急に緩んだかと思うと、
「やっぱりそうですね。覚悟があってのことではないと思っていました。皆覚悟を持ってこの事務所に入ってくるんですよ。でも、その覚悟には人それぞれの大きさがあり、覚悟を持って入ってきたと豪語するわりには、委縮してしまって、何もできない人もいる。結局、その人はやめていくことになるんですが、晴香さんのように、覚悟を持たずに来る人もいます。でも、そういう人は、本当は覚悟を決めているんですよ。そのハードルの高さが自分で分かっていないだけで、知らず知らずのうちに乗り越えている。そういう人は結構強かったりします。だから、私はあなたに覚悟はあるのかって聞いたんですよ。するとあなたは、覚悟という意識がなかった。だから、覚悟という意識はなくとも、開き直ったという気持ちはあるんだろうなって感じました。だから、あなたに対して、きつい顔をやめたんです」
 と、言ってくれた。
「じゃあ、私は安心していていいんですね?」
 と聞くと、
「ええ、いいと思いますよ。きっとあなたは、楽しみながら、この仕事をやっていけると思います。ちなみに、今まで何人かの男優さんとお相手したと思いますが、彼らのことをどう思いましたか?」
 と聞かれて、
「皆さん、優しいのは分かったんですが、思ったよりも楽しいんですよ。私をリラックスさせようと思っているのか、笑い話をしてくれる。でも、その話が滑っているような話であったり、まったく他の人と同じ話をしてくれる人もいました。男優さんは男優さんで、交流があるのかな? って思いました。でも、そう思うと、私も楽しくなってきて、男優さんと親友になれるのではないかと思うくらいになっていましたね」
 と答えると、
「なるほど、そうでしょうね。あなたは、男優さんの中に、余裕というものを見つけたんですよ。だから、相手が大きく見える。安心して身体を任せることができるわけです。そういう時の女優さんというのは、身体の血がみなぎっているように見えるんです。いい作品ができるんじゃないかって僕は思っていますよ」
 と、言ってくれた。
「ええ、それは私も思います。彼氏とエッチをしているという感覚とは違うんですよ。一番の違いは、カメラという他人の目があるということですね。普通なら恥ずかしさから、顔が真っ赤になって、まともな演技などできないと思うんですけど、男優さんに任せていると、そんな必要は一切ないんです。気持ちが高ぶってきて、監督の指導なんかいらないんですよ。監督も余計なことを言わずに、固唾を飲んで、私たちを見つめているんです。興奮している息遣いが聞こえてくるくらいです」
 と晴香がいうと、
「それだけ、晴香さんが男優さんに身を任せているということであり、そこまでは誰にでもできるんでしょうが、晴香さんの場合は、そこから先、自分も楽しもうという意識があることで、普段のあなたが、出てくるんでしょうね。正直、僕も少し離れたところから見ていて、興奮してきますよ」
 と言って、少しはにかんでいるようだった。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次