正夢と夢の共有
の考え方と同じではないか。
ただ、相手が絶対に打ってこないという保証はないのだ、外交のやり方によって核のボタンが押されてしまうという恐れもあった。何しろ、すべては一人の人間の意思に任されているわけだからである。
「広告の後輩、この一戦にあり」
とはよく言ったもので、それだけの覚悟を持って戦争というのはやるものなのだろう。
ボタンを一度押すだけで、全世界で、人が生きることのできない環境になってしまうわけだから、戦争というもの、外交というものがどういうものであるのか、考えると恐ろしい。
自国を守るというのが目的のはずなのに、全世界が滅亡するというのは、あまりにも本末転倒ではないだろうか。
この核の抑止力の時代を、
「血を吐きながら続けるマラソン」
と言った特撮番組があったが、今でも名言として残っている。
今からちょうど五十年と少し前くらいのことだ。当時は、まさに東西冷戦の時代。
全世界が、
「全面核戦争の恐怖」
を味わった、キューバ危機から、約五年くらいのことであろうが、あの経験があっても、それでも、アメリカもソ連も、またそれ以外の先進国も核開発をやめなかった。
さすがにその頃は、全世界の人たちにも、放射能汚染による世界の破滅というのも分かっていたはずだ。即死するだけではなく。みんなが死んでいくシナリオは、幾段階にも存在するのだった。
それから時代は三十年くらい経って、携帯電話、パソコンなどのような便利なものが運用され、その時に犯罪も一緒に増殖するような時代が来て、核戦争や生物兵器戦争などよりも、
「現代は、サイバーテロの時代だ」
と言われるようになってきた。
まったく違っているように思われるが、
「いたちごっこ」
という発想に、
「血を吐きながら続けるマラソン」
という発想はセットで考えなければいけないものであり、それはどうしても、
「冷戦時代の核の抑止力」
を思い起こさせるのだ。
時代は、共産主義はほぼ崩壊し、あれだけあった共産主義国も終わっていった。今では、
中国やベトナム、キューバなどの限られた国だけではないか。
明らかな共産主義というと、この三国くらいだろうが、他にもあったかも知れないが、これだけ減ったのを思うと、
「コンピュータウイルスの時代も、そのうち終焉されるだろう」
と言えるのではないだろうか。
「時代は繰り返す」
と言われるが、まさにその通りなのだろう。
マネージャーとの会話
晴香は、みのりから自分のマネージャーについての悩みを聞いてもらったが、晴香の方は、意見としては、
「ちょっと考えすぎかもしれないわね。なかなか一人の人間にマネージャーが付くなんてことは、普通の人間ではないことなので、戸惑っているんじゃない?」
と聞いてみると、
「ええ、確かにそうですよね。それにこれは私が悪いのかも知れないんですが、急にマネージャーなんかつくもんだから、私が何か偉い人間にでもなったかのような錯覚があったのも事実のような気がするの。だから最初はどう接していいのか分からず、まるで召使のような接し方をしてしまったのではないかと思って、ちょっと後悔しているのよね」
という。
「それは、きっとその後悔が自分を見誤らせて、自分がこれだけ気を遣っているという意識の中で、ひょっとするとストーカーが彼女ではないかと思うと、きっと彼女が自分にストーカーをするわけを自分なりに考えてみたんじゃないかな? つまり、あなたは、マネージャーがストーカ―であってほしいと思ったんじゃないかと感じたんです。誰か分からない相手よりも、いいでしょう? しかも、マネージャーが自分に何か恨みでもあると思うと、余計に責任をマネージャーに押し付けることができる。それで自分のストレスも一緒に解消できればと考えているとすれば、辻褄が合う気がするのよ。でも、それはあくまでも自分の勝手な思い込みだと分かっているから、次第に辻褄が合わなくなってきていることに、いらだちを覚えて、変な夢を見てしまったんでしょうね」
と晴香は言った。
しばらく考え込んでいたが、みのりは、それを聞いて、黙って頷いた。
本当に力のないその様子には、晴香もそれ以上、何も言えなくなったのだ。
晴香は、自分のAV時代のマネージャーを思い出していた。
「あの人も、私のために一生懸命にやってくれていたわ。最初こそ、ぎこちなくて、本当の召使のようにしてしまったことを、今でも後悔している。それでも、晴香さんは、僕がマネージャーをした中でも、一番優しかったと言ってくれたわ。お世辞だったのかも知れないけど、あの人からお世辞でも言われるだけ嬉しいと思ってしまうのよ」
と自分に言い聞かせたのだ。
「ねえ、晴香さんは、マネージャーを持ったこと、今までにあったの?」
と聞かれて、一瞬、
「鋭い」
と感じたが、
「ええ、あったわよ。今の事務所に入る前だけどね」
というと、
「そうなんだ」
と、また考え込んでしまった。
「どんな人だったんですか?」
とみのりは続けた。
「普通の人だったわよ。男性だったんだけど、気の遣い方がうまいというか、おだてるのがうまいって感じかしら? ただ、私がおだてに弱いというのがあったので、ひょっとすると、そのあたりをすぐに見透かされて、うまく掌の上で転がされていたのかもしれないわ」
と言って、苦笑いをした。
その思いは確かにあった。おだてに弱いということを、結構早い段階から見抜かれていた。だが、それも当然だというべきか、
「AV女優になる人ってね。大なり小なり、おだてに弱い人が多いの。だって、監督のおだての中で、うまく乗せられて、撮影に励むわけでしょう? グラビアの撮影だってそう。私のような人間が、こういう会社のマネージャーには向いているのかも知れないと思ってね」
と言った。
しかし、晴香はみのりの話を聞いているだけで、
「みのりのマネージャーさんは、本当に、こういう会社のマネージャーにふさわしい人なのかも知れないわよ。そういう感覚で一度、彼女のことを見てごらんなさいよ。今まで見えてこなかった彼女の魅力というか、良さのようなものが見えてくるかお知れないわね」
と晴香が言った。
それを聞いて。みのりは苦笑いを浮かべたが、さすがに芯からの笑顔ではないことは、すぐに分かった。
晴香のAV時代のマネージャーは、結構恰好いい男だった。
「この人だったら、結構モテるだろうか?」
と感じたり、
「どうして、こういう仕事をしているんだろう?」
と感じたりした。
後者への思いは、彼のようなモテそうな男が、どうしてこんな、時世に媚を売ったり、制作会社の人にペコペコしたりしなければいけないのかが分からなかったが、付き合ってみると分かってきた。
――この人は、人付き合いが致命的に苦手な人なんだ――
と感じた。
それなのに、マネージャーの仕事など、余計にきつそうな気がする。営業の仕事並みに、相手にヨイショしてmおだてなければいけない。晴香のようにおだてられて喜ぶ人ばかりではないのは分かっているので、晴香とすれば、
「せめて自分と一緒にいる時だけは、気楽にいさせよう」