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覚悟の証明

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 そんな松前だからこそ、不老不死のクスリの治験者となった。
 元々、一度は死んだ命だということもあるが、彼を救ったと言われる、この病気にとっては特効薬としての成果があった薬の成分が、この不老不死の治験薬にも十分に含まれているからだった。
 松前は、他の研究員からは、
「彼は英雄だ」
 という意見があったり、
「何をそんなに死に急いでいるんだ?」
 という否定的な意見もあった。
 他の研究員は、この薬の主成分である、不治の病の特効薬に疑念があったが、その効果というものをかつて身をもって証明したのが、治験者である松前であるということを皆知らないのだから無理もない。
 研究者は、まだまだこの薬は発展途上であり、人体実験には、時期尚早だと考えていたのだった。

                三大恐怖症

 松前が薬を飲んでから、定期的に飲む感覚というのは、約一か月くらいだった。最初の一週間で身体に免疫のようなものがつき、それが三週間くらいかかって、育ってくる。そして、それが少しだけ変異したところで、また同じ薬を注入する。
 そうすると、最初に身体に入り、抗体となり、変異した薬と二度目に投与する薬が中和し、抗体反応を起こすことで、少しのショックが身体に起こり、それが新たな投与薬に対して、さらに効果の大きな薬に変化する。
 変化すると言っても、効力が変異することはないので、最初に投与した薬の約十倍くらいの効力が見られるのだ。それを毎月繰り返していくことで、身体に次第に馴染んでいき、その状態が、身体の中に本来存在している本能と結びつき、不老不死に近づくというのが、大まかなこの薬への説明だった。
 これ以上詳しい説明ともなると、専門的な言葉を使わないと説明できないので、公開されている宣伝は、ここまでだった。
 それでも、この薬に興味を持つ薬品販売会社であったり。国家首脳も少なくはない。
 特に国家首脳に対しては。
「これらの薬は、まだ国家で認証を受けていないということで、他の国に対しても宣伝できる自由な状態であるということをご承知ください」
 と言っているので。政府の方も、これを国家プロジェクトにするかどうか、真剣に考えていた。
「これを諸外国に宣伝されてしまい、先に運用されてしまうと、日本国のメンツは丸つぶれになってしまいます」
 と一人の首脳がいうと、
「しかし、これだけの壮大な計画、失敗すると、かなりの予算をつぎ込むことになるので、我々の立場は危なくなってしまうのではないか?」
 と、保身に走るベテラン連中がいつものように言い出した。
「それはそうですが、諸外国に先を越されるということは、下手をすると、今諸外国に頼っているものすら、入ってこなかったり、値を吊り上げられたりしますよ。それだけ我が国が下に見られるということです。それは断じてできませんよね」
 と強い口調で若手がベテランに詰め寄る。
「それはそうなんだが……」
 と言いながら、ベテランもさすがに尻込みをしているようだった。
 それでも、早く結論を出さないと、開発チームは、独自のルートを使って諸外国に売り込むだろう。
 今の政府では、彼らの行動を規制することはできない。政府の外にある民間の組織なので、政府の介入は許されないのだ。
 彼らは、開発チーム自体を国家の中に組み込んでほしいとは思っていない。組み込まれてしまうと、政治の渦中に放り込まれて。どうなってしまうか分からない。
「カネと権力に塗れた世界」
 それが政府というもので、政治家は基本的に、
「私利私欲に走り、見切りをつけると、保身しかしなくなる」
 というものである。
 しかも、その変わり身が天才的であるのが政治家というもので、逆にそれができなければ、政治家になどなれるはずはない。
 そういう意味で。
「政治家と政府ほど、利用はしても、信用してはいけないものだ」
 というのが、開発チームの共通の意見であり、
「国家というものは、利用するだけ利用すればいい」
 という考えを持っている。
 政治家ほどではないが、彼らもある意味、異端である。彼らこそ信用できるものなのか不思議であるが。政府と開発チームが密かに話をしているなどということを国民が知れば、かなり大きな問題となるだろう。
 政府の中で、政治クーデターが起こっても、不思議がないというレベルのもので。開発チームが、どれだけ世間にひた隠しにしなければいけないのかということを絶対条件だと思っているかということも当然のことであった。
「自分たちだって、ただではすまない。政府の犠牲になることだけは、避けなければいけない」
 と、まるで、政府と心中でもしかねない雰囲気だった。
 松前が、今回の治験者となった理由の一つに、
「俺は独りぼっちだしな」
 という思いがあった。
 いくら母親や自分が、この薬に因縁を持っているからと言っても、さすがに自分が誰かと関わっているという気持ちになると、どうしても躊躇するものであろう。
 三十年間生きてきた中で、誰かと何かのかかわりがあったという記憶はない。
 もちろん、まったく誰ともかかわりなく生きてきたなどと言える人間などいるはずもなく、松前だって、人と何らかのかかわりがあったのも事実だった。
 しかし、その関わりというのは、そのほとんどすべてが、利害関係によって結び付いているというものだ。
 ギブアンドテイクという言葉にあるように、どちらも利益があるような関係であるということ、お互いに、どちらに優劣があるわけでもないそんな関係だからこそ、強い絆に守られていると信じていた。
 なまじ、そこに感情が入ってくると、相手への押し付けになってしまい、その時々で結びつきは強いかも知れないが、少しでもこじれると、修復させるのは至難の業となってしまうことは分かっていた。
 だから、下手に感情に任せることなく、お互いの利害関係を中心に結びつくということを最優先に行ってきた。
 そういう意味では、
「本能の赴くままに」
 と言ってもいいだろう。
 そうやって生きてくると、
「人間って、結構利害関係で結び付くのが、こんなに簡単だなんて思ってもみなかったな」
 と思うようになっていた。
 利害関係というものがどのようなものなのか、子供の頃には分かっていなかったはずなのに、大人になるにしたがって、
「あの時が利害関係だったんだな」
 と感じるようになったのだ。
 ただ、まわりには、いろいろな連中がいる。こんな松前に対して、賛同してくれる人もいれば、
「あいつは本当に人間の血が通っているのか? まるでロボットのようではないか」
 という陰口を叩いているやつもいるようだ。
 だが、こんな時にも、
「利害関係だけで結び付いている人だけが自分の見えている人間たちだ」
 と思うようになると、そんな連中を視界から消すことさえできれば、別に気にすることもないと思うのだった。
 あまり人とかかわりがないくせに、人の目が気になり始めると、自分ではどうすることもできなくなるという事態に陥ってしまうということは理解しているつもりだった。
 今までそんな経験をしたことがなかっただけに、自分がそんな立場に追い込まれることが怖かった。
作品名:覚悟の証明 作家名:森本晃次