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覚悟の証明

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 高価だから売れないというのも一つの理由であるが、冷静に考えれば、
「そんなものを使ってまで、長生きしたくない」
 ということになるだろう。
 今までにも話しているが、
「まわりの知っている人が皆死んでいく中で、自分だけ生き残って、ずっと生き続けなければいけない」
 ということに何の意味があるというのだろう?
 妻も死んで、子供も死んでいく。孫も、その子たちも……。
 だが、自分が死ぬことはできないのだ。
「そういえば、不老不死の薬を飲んでいれば、不死身なのだろうか?」
 という考えもあった。
 確かに病気に罹らないとか、寿命が来ないとかいうのはあるだろうが、事故であったり、事件に巻き込まれたりすれば、普通に死ぬことになるだろう。
 車に轢かれたり、ピストルで撃たれたりすれば、どんな強靭な人間であっても死んでしまうことだろう。
 それこそ、鋼の肉体。サーボーグのようなものでもなければ、外部からの圧力には負けてしまうに違いない。
「不老不死のクスリが、強靭な肉体を作ってくれるのか?」
 ということになると、
「それはできません。強靭な肉体が欲しいのであれば、サイボーグになるしかないです。ただし、臓器は人間の臓器に類似していなければ、この薬は効きません。あくまでも、人間の不老不死に対してのものですから」
 ということになるだろう。
 そうなると、中途半端である。
 いつどこで事故に遭うか分からない。まあ、そうなってしまうと、運命だと思って諦めるしかないと思うのだが、まわりの親しい人が死んでしまって、自分だけが生き残るという孤独という地獄と背中合わせであるということを了承して生きているのに、いきなり、あっけなく死んでしまうというのは、どうにも納得できないだろう。
 さて、今度は、開発者側、いや、開発を依頼した側から考えてみよう。
 彼らは、これらの薬を開発すれば、誰に使うというのか、まず考えられるのは、
「誰かに売る」
 というものである。
 たぶん、このような薬は極秘に開発され、完成しても、国家に申請したとしても、承認を受けることは難しいだろう。
「こんな臨床試験もまともにできていないものを、公に販売を許可できるわけはない」
 と言われるのが関の山だ。
 となると、カネを持っている人で、不老不死を願っている人に、密かに売るしかないだろう。
 ただ、これらの薬は、基本が、
「不死」
 なのである。
 もし、
「一回飲めば、死ぬまで活きられる」
 などというややこしいことを言われたとすれば、これは、難しい問題を孕んでいることになる。
 なぜなら、
「不老不死などという薬が出てくれば、他の薬が売れなくなる」
 というものであった。
 だから、公にたくさんの人に売れないというのもそういう理屈からも考えられる。
「だったら、定期的に呑み続けるタイプのものにすればいいじゃないか」
 ということになるのだが、果たして需要に対して供給が追い付いてくるかということが問題になってくるに違いない。
 どこの世界にも、裏の世界というものが存在し、そこの組織の首領などは、こういう薬があれば、手を出すかも知れない。
 組織としては、首領の存在が大きなものであるとするならば、
「今死なれては困る」
 と誰もが思っているだろう。
 暗殺まではどうしようもないが、病気や寿命などで死ぬのは理不尽だと思っている組織としては、この際だから、このような薬を使い、少しでも。首領の力を鼓舞できる期間を長くしたいと思うことだろう。
 確かに不老不死のクスリであれば、一回飲めば死なないというわけではなく、定期的に飲むタイプであるなら、
「これ以上、生き続けたくはない」
 と思った人間に対して、
「安楽死」
 ができるような薬も一緒に開発すればいいだろう。
 不老不死に比べれば、簡単なものではないだろうか。
 不老不死自体が無認可のクスリなのだから、安楽死も別に問題ない。それはあくまでも、
「自殺」
 と同じだからである。
 自殺する人が安楽死を選んだというだけで、誰かに手を下すのを委託したのであれば問題だが、自ら命を断ったのであれば、何ら問題はないはずだ。
 あるとすれば、倫理的な問題というだけだろう。
 さすgあに、開発されると、案の定、企画開発チームの首脳は、
「国家に申請は時期尚早」
 ということで、一時期、様子を見ることにした。
 その反面、裏社会にはこの薬の存在をウワサとして流し、それをほしいという組織も若干ではあるがいたのだ。
 どうして若干なのかというと、国家の承認も受けていない薬だということと、高額による負担に比べて、リスクを回収できるだけの、保証がないということであった。
 それでも、持病を持っている人で、いつどうなるか分からないという人などは、
「この薬を投与すれば、持病もかなりの確率で収めることができる」
 ということを聞いて、飛びつく人もいた。
 組織の中では完全にワンマンで、自分に何かあれば、組織はすぐに転覆してしまうと思っている人にとっては、
「救世主のような薬だ」
 と言ってもいいだろう。
 ただ、それでも、一般の人間に投与できるだけの精密さが、まだ不足していた。説得できるだけの研究結果が保証までにはいかないということだ。
 そこで、
「ただでいい」
 ということにして、サンプルを撮るためのもみたーを募集したが、最初は誰もなりたがる人はいなかった。
 開発チームとしても、
「その人物は、組織の代表でなければいけない。もし何かあれば、組織も我々も同罪になって。身動きが取れなくなりますからね。組織の幹部であれば、了承済みということで、少しは違うでしょうからね」
 と、話をした。
 しかし、さすがに、このような危険なことに挑もうとする組織はなく、
「このプロジェクトは、先送りになってしまうな」
 という話をしていた時、最近になって目立つ存在になってきた新興組織が名乗りを挙げてくれた。
「我々でよければ、協力しますよ」
 と言ってくれたのだ。
 彼らは、ここで魁になることで、自分たちの権威を高め、めきめきと頭角を現していこうという考えだったのだ。
 もちろん、これは、最重要機密事項だった。
 相手の組織も一部の人間しか知らない。モニターの家族も知らないことだった。
 もし、何か急変すれば、開発チームの連中が医者となって、死亡診断書を書く。そして、それを認めてくれる病院などへの根回しもできていた。
 だが、それはあくまでも最悪の場合であり、一歩間違えれば、開発が頓挫してしまうことになりかねない。絶対に成功させなければいけない、
「避けて通ることのできない道」
 だったのだ。
 しかも、この計画には、数年はかかる。もちろん、その間に新たな薬が開発されて、徐々にクレードアップされる可能性もあった。
 もちろん、新たな薬は、新規というよりも、今の薬の投与から、こっちに切り替えたとしても、その効果は最初から飲んでいたのと変わらないようにしなければならない。そうでなければ、モニターの意味がないからだった。
作品名:覚悟の証明 作家名:森本晃次