小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

覚悟の証明

INDEX|18ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「麻薬というものは、禁断症状が悪いというものではないんだ。むしろ禁断症状があることで、麻薬は身体に悪いということが証明されているのであって、その禁断症状を取ってしまうと、あっという間に蔓延しかねない。利用者がどんどん増えて、麻薬をまるで滋養強壮のように使ってしまうと、誰もが手を出すようになる、そうなると、需要が増えることで、麻薬の価格は下落していき、下手をすれば、普通の主婦が薬を買うかのような感覚で購入できてしまう。考えてみればタバコだってそうではないか。今でこそ、タバコを吸う意図は肩身が狭い思いをしているが、昭和の頃までは、どこでもタバコが吸えたんだ。事務所であったり、電車の中だったり、病院だって吸えたんだからな。同じ常習性のあるタバコでもそうだったんだから、麻薬だって禁断症状がなくなれば、その恐ろしさが見えてこなくなる。それが恐ろしいんだ」
 と、言われた。
「なるほど、かつての中国でのアヘン中毒の映像などを見れば、確かにその通りですね。禁断症状というよりも、アヘンを吸引することで、目にクマができてしまって、思考能力がなくなってしまう。恍惚の表情で、完全に廃人になっているような感じですたよね」
 というと、
「そうなんだ。そもそもアヘンというのは、中国で貿易を始めたイギリスが、インドなどの紅茶と、中国の毛織物などとの貿易で、なかなか儲からないからという理由で、
「アヘンという麻薬を蔓延させることで、アヘンによる貿易で、荒稼ぎしよう」
 というところから始まっている。
 アヘンが蔓延し始めた中国本土では、中毒者や廃人寸前の人が街に溢れ、治安や統制が取れなくなってしまっていた。
 しかも、アヘンにより、イギリスが潤い、中国経済が疲弊していく。
 イギリスだって、アヘンの恐ろしさは十分に分かっているはずで、だからこそ、アヘンが儲かるということを分かっていたのだ。
 常習性があり、継続すると、中毒になり、廃人になりかねない。そんなことは常識だったに違いない。
 今でいえば、モルヒネのように、鎮痛剤としてやむおえず使用しているのなら仕方がないが、
「貿易で利益を上げるため」
 という理由での蔓延は、売りつけられた中国からすれば、
「侵略行為も甚だしい」
 と言ってもいいだろう。
 ここまでくれば、もう貿易と言えるののではない。相手が飼わなければいけないような状況に強制的に持ち込んだうえ、中毒という患者を作り出すものを売りつけているということに罪はないのだろうか?
 しかも、中国がアヘンの使用を禁止すると、イギリスとの間で戦争が起こった。
 イギリス相手に負けた中国は、不平等条約を結ばされ、後れを取ったフランスは、インドシナの権益を狙って、清仏戦争を起こす。
 さらに、ロシア、ドイツ、日本が中国の権益を狙って、
「遅れまじ」
 とばかりに、進出してくる。
 まさか中国も日本に負けるとは思っていなかっただろう。
 しかし、実際にやってみると、日清戦争では、
「日本軍の圧勝」
 だったのだ。
 明治政府成立以降、最初の大国を相手にした対外戦争だった。ただ、これは時代の問題があったのかも知れない。
 すでに、列強に食い物にされてしまっている清国であり、さらに、西太后による、
「国家予算の無駄遣い」
 が、清国軍の首を絞めたのだ。
 つまりは、富国強兵、殖産興業のスローガンで、軍備を拡張してきた日本に対して、老朽化した兵器しかなく、まともに運用することができない清国軍に勝ち目があるはずもなかった。
「眠れる獅子」
 と言われた中国:清国では、滅亡への坂道を、一気に転がり落ちていくことになるのだった。
 最終的な滅亡としては、
「義和団の乱」
 であろうか。
「扶清滅洋」という、
「清国を扶(たす)けて、欧米列強を滅しよう」
 という意味のスローガンで立ち上がった、義和団に載せられる恰好で、西太后は何と、欧米列強に宣戦布告をしたのである。
 どう考えても自殺悔いだ。
 日本を含めた八か国に対し、一気に宣戦布告をすれば、当然、各国軍が列挙して、派兵されてうることだろう。
 その場だけは何とか持ちこたえたとしても、誰が考えても、食い荒らされた清国、しかも、日本にすら負けてしまい、国は貧困にあえぎ、兵器すらまともにない状態での宣戦布告は自殺行為と言っておいいだろう、
 あっという間に北京は占領され、賠償金や、さらに不利な講和条約を結ぶことで、ここに至って、清国は持ちこたえられなくなってしまったのだ。
 辛亥革命によって清国は滅んだが、イギリスによるアヘンの蔓延が大きかったと言えるだろう。
 清国が滅んだ中国でも、アヘンは蔓延していた。
 満州国でも同じことで、満州国皇帝である溥儀の正室である、苑容皇后も、最期はアヘン中毒になり、精神障害になっていたということである。
 もっとも、満洲国の財政は、アヘン貿易によるところが大きかったということで、関東軍の罪はかなり重たいであろう。
 しかも満洲の広大な大地は、アヘンの元であるケシの実の栽培に適した土地だったと言えるのではないだろうか。
 日本では、アヘンが流行することはなかったが、麻薬は、戦後の動乱期、ヤクザなどの資金源として使われた。
 当時は、ヘロインなどという麻薬が闇市で売られていたという話も聞いたことがあったのだが、とにかく、治安が最悪だった時代なので、それも仕方のなかったのではないだろうか。
 そのうちに、占領軍により規制されるようになったが、ヤクザとしては、せっかくの資金源を、そう簡単に諦めるわけもなかった。
 そんな麻薬であるが、ヘロインなどは、当時、栄養が致命的に行き届いていなかったために、滋養強壮ということで重宝されていたようだ、
 庶民に簡単に手に入るものではなかっただろうが、何しろ闇市の時代、闇ブローカーが扱う分には、いくらでも、ヘロインを自由にできるという輩も現れるくらいで、新円の改革などがあり、お金が紙くずのごとくになった時、うまく立ち回った人間が、巨万の富を得ることになる。
 そんな彼らが暴力団という形で、組織を作るようになると、組織が麻薬を一手に握るようになる。
 しかも、終戦から五年後に起こった朝鮮戦争で、兵器特需が生まれ、そのどさくさで大きくなった組織も少なくないだろう。
 強くなる組織は限りなく大きくなり、滅んでいくところはひとたまりもない。戦後の混乱はそんな時代だったのだろう。
 そんな時代の教訓を、いまだに大切にしている組織もある、何と言っても、一番苦しい時代を乗り切ったノウハウは、今の時代に繋がるものがある。
 見た絵は裕福な世の中になったが、貧富の差はかなり激しくなっていて、しかも、そんな時代に追い打ちをかけるかのような、世界的な伝染病の流行という時代もあった。
 流行は収まったが、経済的には世界的な大打撃である。
 これはまるで、第二次世界大戦が起こる前の、
「世界恐慌」
 に似ているではないか。
「人の命が最優先」
 ということで、
「経済活動は二の次」
 になってしまったのだ。
 もちろん、それは仕方がないことであり、何と言っても、
「死んで花実が咲くものか」
 ということである。
作品名:覚悟の証明 作家名:森本晃次