三者三様のタイムスリップ
「いえね、こういうお話をしていますとね。あなたは、他にも別に何か気になることを抱えているのではないかと思えたんです。実は、こういう質問があって、私のところに訪ねてくる人はあなただけではなかったんですよ。そういう場合にはたいてい、他にもきになることがあると言っていたんです。むしろ、その気になることと、本当に今気になっていることとの相関関係の方が、その人にとっては、大きな意味を持つ場合があったりもしたんですよ」
と、占い師は言った。
「なるほど、確かに言われる通りです。ちなみに、そういう話を持ってくる人って、僕のように若い人もいたんですか?」
と訊ねると、
「ええ、逆に若い人の方が多いんです。社会人になっていたりすると、こういうことを誰かの相談することを戸惑ってしまう場合が多く、思っていたとしても、私のところに来るようなことはないと思っています。そういう意味で、あなたのような若い人が来た時には、その人が相談ごとを持ってきたのではないか? と思うようになったくらいなんですよ」
と占い師がいうので、
「じゃあ、僕が最初に来た時、最初から相談だと感じていたということですか?」
「ええ、そうです。そうでもなければ、もっと訝しく感じるはずでしょう? だってここは占いを見るところで、相談窓口でもなんでもないわけですからね」
と、言って、占い師は笑った。
その顔が真剣な笑いだったのかどうか分からないほど、表情に暗さが感じられたのだった。
「だとすれば、私の方も話しやすいというものですね。確かにあなたの言う通り、私は先ほどのおかしなこととは別に、もう一つ気になることがあるんです。こっちは、おかしなこととまではいえないかも知れませんが、どちらかというと、違和感を感じているという感覚でしょうかね?」
と隼人は言った。
「どういう違和感なんでしょうか?」
と占い師が聞くので、
「私が付き合っている彼女から聞いた話なんですけど、ある時、急に輪廻転生という話を始めたんです」
という隼人に、
「輪廻転生というと、生類は、必ず来来世を持っていて、必ず生まれ変わるという発想ですよね?」
と占い師がいうので、
「ええ、そうなんですよ。いきなりそんな話をし始めたのもビックリしたんですが、普通なら、前世の記憶の話をするのであれば、そういう特殊能力を持っている人がいてもいいように思えたんですが、あの時に彼女が話をしていたのは、来世の話だったんです。まるで見てきたような言い方でですね。前世であれば、遺伝子か何かに、過去の意識が残っていて、その記憶を引きだしたと思えるでしょうが、来世の話をまるで見てきたかのように話すというのが、何ともおかしな気がしてですね」
と隼人がいうと、
「あまりにも突飛すぎて、口から出まかせのようなことを言っているのではないかとは思わなかったんですか?」
と占い師がいうと、
「そこまではなかったですね。どちらかというと、僕の方が彼女の話に引き込まれる気がしたんです。前世の話であっても、突飛であることには変わりはないわけではないですか? 人が記憶に収める時というのは、まずその瞬間に意識をして、その意識を記憶として、頭の中に格納し、ある一定の時間がくれば、今度は記憶の奥に封印する場所があって、そこに封印されると思うんですよ。それが見ていたはずだと思うことで、忘れてしまっていることである夢であったり、前世の記憶であったりするのではないかと思うんです。そのどちらも思い出すには何かのきっかけがいるものであり、逆に思い出すためには、何か思い出すだけの意味が存在しているはずだと思うんですよ。そしてもう一つ気になっているのが、その記憶を封印する場所ですが、夢の場合と、前世の場合とで同じ場所なのかなとも思うんです。もし同じ場所だったとすれば、そのために、夢か前世のことなのかということが頭の中で混乱してしまいそうに思うんです。もっとも、前世のことを、すべて夢だと考えればそれまでなんでしょうけど、そう思うと、前世の記憶を、夢として一つで片づける方が、人間というものを作った神がいるとすれば都合がいいように思うんです」
と、隼人は言った。
話し始めは、思い出しながらゆっくりとした口調で、自分の考えを確認しているようだったが、途中からはまくし立てるような言い方になった。
きっと、話の途中までは自分の考えがまとまっていない間に話を始めたという意識と、途中からはある程度まで話がまとまったということの意識があったのではないだろうか。
そもそも、このような話をし始める時、最初から話がまとまってから話すことはない。まとまるのは、話をし始めてからだということが分かっているからで、まとまった瞬間には、今度は、
「忘れてはいけない」
という思いから、早口でまくし立てるように話をしているのだろうと自分でも思っている。
隼人がそういう性格であるということは、占い師にも分かっていたのかも知れない。だからこそ、彼に違和感が残っていることを看破したのではないかと感じたのだ。
「彼女が急に、ある瞬間から、何かを飛び越えたかのように変わってしまった瞬間があるというお話でしたが、彼女はどこか、意識が別の世界に飛んでいたというような雰囲気だったんですか?」
と、占い師に言われた。
「そうですね。どこかの世界に行っていたという意識はありました。ただ、同じ人間でありながらまったく違った雰囲気になった瞬間を思うと、まるで輪廻転生でもしたのではないかという感覚もほんの少しですがありました。でも、それ以上に可能性としては、別の時間に飛んでいて、そこから戻ってきたのではないかと感じた時、それを夢の世界ではないかと感じたんですね。で、その時に、さっきの話のように、夢の世界と時間の経過が違う時間という考え方が頭をよぎったんです。さすがにその時は、今ほど話が具体的ではなかったんですけど、それは同じような発想ができる人で、考え方の内容に、適度な距離のある人との話では、結構、詳細な話が頭に浮かんでくると思えたんでしょうね。今感じていることを、あの時にも同じように感じていたのではないかと思ったんです」
と隼人が言った。
「それは、デジャブのような意識ですか?」
と占い師から言われて、
「ええ、そんな感じだと言ってもいいでしょうね」
と隼人がいうと、
作品名:三者三様のタイムスリップ 作家名:森本晃次