三者三様のタイムスリップ
「問題は、時間をその時々に区切って考えるか、それとも、流れの中の一点として考えるところではないかと思うんだ。その時々で区切ってしまうと、例えば自分と今目の前にいるあなたとが、共有の時間を持っているのだとすれば、二人は、きっと共通に流れていく時間を過ごしているのではないかということなんです。つまり時間の共通した流れの最小単位というのは、誰が見ても共通している世界を作っている当氏者間ではないかとですね。だから、そのうちには自分だけがその対象範囲だということを感じることも少なくはないと思うんです。孤立した時間ですね。だから、そういう人がその場に多ければ多いほど、時間というものは、共通性を感じさせないものだと言えるのではないかと思うんです。つまりは、すべての人にそれぞれ存在しているものだという勘違いですね」
と、そこまで聞いていた占い師が、急に頭を傾げて、訝しい表情をした。
これも、他の人から聞いていた話を総合的に考えれば、
「話の腰を折ろうとしているのではないか?」
とも考えられた。
「うんうん、君の考えはよく分かった気がする。ただ、私が一瞬考えたことなのだが、今君が言った、勘違いという言葉だけどね。正直、まだ勘違いかどうか分かるはずはないと思うんだよ。このあたりの話はあくまでも創造の世界であって、頭の中で想像したことを、実際に理屈という解釈で形作ることで、創造していくのではないかと思うんだ。だから、君がね、勘違いだと思うのはサラサラお門違いであり、下手をすると、勘違いだと思うのは、おこがましいことではないかと考えられるんだ」
ということであった。
さすがに、
「おこがましい」
という言葉を言われ、一瞬ムカッときたのも無理もないことなのかも知れない。
ただ、自分が、勘違いという言葉を何かの言い訳として使ったのだとすれば、占い師の言っている、
「おこがましい」
という言葉も分からなくもないだろう。
だが、ここでそのことを話題に出してしまうと、占い師の術中にはまってしまうのではないかと思ったことと、ここで話の腰を折ってしまうと、話が難しいだけに、話をしている自分がついていけなくなるのではないかと思い、一刻も早く話を戻そうと思ったのだ。
実際にすでに脱線して、頭がそっちに向いてしまったことで、自分の中で収拾がつかなくなってしまっていることに気づいていた。
隼人は続けた。
「今は、個人にそれぞれの時間が存在すると考えた時の例を幅を持たせて話してみたんですが、逆に時間が万人に共通だという発想から考えるとどうなるんだろうかって思うんです。自分と関わっている人間同士、同じ時間の中に存在しているとどうしても思えないんです。そこで考えたのが、ちょっと強引すぎる話になってしまいますが、その時関わっている同士、それぞれの大きなシャボン玉のような空間の中に入れられたとして、その中では段毒で時間が経過しているのではないかという発想ですね。まわりから見て同じに見えるのは、慣性の法則中にある。電車の中に乗っている人がジャンプをした時に、どこに着地するかという発想に近いものではないかと思うんです」
とそこまでいうと、隼人は話を一旦区切った。
思わず、占い師の顔を覗き込んだが、一瞬黙り込んで、考え込んでいるようだった。
「時間の流れというのは、すべてに理屈が存在しているものであって、単独だとは思えないんですが、どうなんでしょう? 例えば、歴史などを勉強していても、一つ一つの事件が単独で起こっているわけではなく、事件というのは、そのほとんどに何らかのかかわりがあるものだと思えるんです。そういう意味で、どこまで時間の経過が人間の営みに対して影響があるのかを考えると、すべての人間に同じ速度で流れているから、歴史が成り立っていると考えられるような気もするんですよ」
と、隼人は思っているようだった。
「でもね。それは全体的に見て、辻褄が合っていると思うから、すべての人に共通に時間が流れていると考えるわけでしょう? 辻褄が合っているから、辻褄が合うように時間が流れているのだと考えると、人それぞれ立場は性格。その時の状況が違っているのだとすれば、辻褄を合わせるための時間経過というのは、必ずしも皆同じだと言えないのではないかな?」
と、占い師は言った。
「確かにそうかも知れませんね。どうしても、時間の流れというのが、皆平等にと考えているからで、ここでいう平等というのが、皆同じだと考えることが辻褄を合わせるという意味で矛盾しているように思えるのは、きっとあなたとお話をしているからなのかも知れませんね」
と隼人はいうのだった。
そして、一瞬考え込んだが、隼人は続けた。
「僕は一人の女性と付き合っているんですが、ある日のこと、急にその女性が別人になってしまったのではないかと思う瞬間があったんです。その日はその後一時間くらい一緒にいて、いろいろ話をしたんですが、その話の内容が、急にそれまでとは違っているような感じなんです。ずっと一緒にいれば分かるようなことでも、数時間前のことを忘れてしまっているようなんです。キョトンとしていて、まるでキツネにつままれたかのような感じにですね」
という隼人に、
「それであなたは、時間の経過のようなものが、人によって違っているのではないかと感じたということなのでしょうか?」
「ええ、占い師さんであれば、何か分かるのではないかと思ってですね」
と言われた占い師は、
「その場にいたわけではないので、何とも言えないですけど、今のお話を聞いた限りでは、時間の経過とはあまり関係がないような気がしますね。どちらかというと、一瞬だけ、違う世界に行っていたように見えるような感じなんですよね?」
と占い師がいうと、
「ええ、そうなんです」
「あなたは、それを何となく自分の理屈に当て嵌めたくなっているということなんでしょうか? 私には、あなたが自分なりに考え方と持っていて、だけど、それがあまりにも突飛なことなので、自分で認めたくはない。だけど、それを自分の気心が知れた人に相談すれば、自分に都合のいい解釈をしかねかねない。したがって、自分にとっての利害関係のない、そして、こういう話に詳しいと思った人で、すぐに面会が適う相手として思いついたのが、占い師である私だったというわけですね?」
「ええ、そういうことなんです。話としては突飛なことを言っているということは分かっていますし、いきなりこの話から入ると、私の性格を知っているわけではない相手からすれば、頭が混乱すると思ったので、どうしても、関連した理屈から入るという、予備工作が必要だったんです。そういう意味では、申し訳ないことをしたと思っていますが、決してあなたにも、このお話は、興味がないものだとは思えませんでしたので、、このような形を取らさせていただいたんです」
と、隼人は言った。
「他に何か気になることがありませんか?」
と占い師に言われて、
「えっ」
作品名:三者三様のタイムスリップ 作家名:森本晃次