三者三様のタイムスリップ
そんなことを考えていると、浦島太郎の話を、自分と同じように考えた人が明治政府にもいたということだろう。
「玉手箱を開けて、おじいさんになってしまった」
という中途半端な大団円にしてしまったのも、そのあたりに理由があるのではないだろうか。
つまりは、乙姫様が竜宮城から地表に来たという事実だけで、勘が鋭い人は、
「乙姫様は、竜宮城の支配者ではなかった」
と考えるであろう。
そうなると、竜宮城が見せかけの世界であり、極楽浄土に見せたのには、何か思惑があったと思われると、明治政府には都合が悪いのかも知れない。
「竜宮城が、今の明治政府と同じレベルだと思われると、教育上も、今後臣民を収めていくうえでも、実に都合が悪い」
ということになるのだろう。
竜宮所には、どのような考えがあったのか、そもそも、この話を書いた人は、竜宮城というものを、最初から、
「侵略のための前線基地」
という思惑で書いたはいいが、これが政府批判に繋がらないように、おとぎ話としてオブラートに包んだのかも知れない。
それは、まるでノストラダムスが自分の予言を詩の中に隠したのと同じ感覚ではなかったか。
それを思うと、浦島太郎に限らず、おとぎ話と言われているものは、皆何かを隠すために書かれたものだという憶測に繋がっていくことだろう。
乙姫様がカメになったというのも、竜宮城を抜け出したということで探されて見つけられるのを恐れたからなのかも知れない。
そして、浦島太郎も鶴にしてしまい、二人は永遠に幸せに暮らしたというしめくくりだが、これも曖昧だ。
そもそも人間として、
「長生きすればそれでいいのだろうか?」
という発想が生まれてくる。
何と言っても、誰も知っている人のいない七百年後にいきなり放り出された時の気持ちとすれば、これほど不安なことはないだろう。
自分だけがまったく別の世界からやってきて、昔の話をしても、誰が信じてくれるというのか。
ひょっとすると、七百年後には、タイムマシンのようなものができていて、過去から浦島太郎が来るということもすべて予言されていることであるということもまったく書いていない。
どんな世界になっているか分からないから書いていないのだろうが、もしこの話を書いたのが、竜宮城の人間。つまりは、極度に文明が発達した人類であるとするならば、未来も分かっていて当然ではないだろうか。
世界の七不思議と言われる、ナスカの地上絵であったり、ピラミッドなどは宇宙人が自分の存在を仲間に知らせるために作ったのだと言われているが、浦島太郎の話は、どういういきさつから生まれたのか。
本当のフィクションとして、描かれているのであれば、ここまで伏線回収ができるというのは、実に素晴らしい。
今であれば、芥川賞者だと言えるのだろうが、どこまでこの話を信頼していいものなのか、あまりにもうまく出来すぎていると、逆に恐ろしく感じられたりする。
果たして何が真実なのかと思うが、少なくとも、相対性理論であったり、タイムマシン的な発想。さらに、侵略という裏の場面を示しているとするならば、このタイトルである、
「浦島太郎の裏島というのも、言葉の裏という意味の裏を掛けているのではないか?」
とも言えるのではないだろうか。
浦島太郎の話を考えていると、前に見たビデオの話を思い出した。
あのビデオは、タイムスリップで過去に飛んだ人物がいて、彼は一人で飛んだわけではない。確か軍隊の中の一人だったようだ。
過去に飛んだのには何か理由があるのではないかと感じ、その理由を探した。
他の人たちは自分の置かれている立場をいまだに分かりかねているにも関わらずにである。
もちろん、普通の人はそうであろう。
「一体、何がどうなっているんだ? 夢なら早く覚めてくれ」
と思っているに違いない。
彼は、SF的なことに興味があり、時代としてはまだSF小説などがなかった時代だったが、彼なりに想像していてのことだった。
主人公は、昔に行った理由をそれなりに自分で解釈し、まわりに説明をした。
すぐには分かってもらえなかったようだが、歴史を知っている人は今の時代よりもたくさんいたので、理解させることにはさほど困難を要しなかったのだ。
「じゃあ、俺たちはそのために、こんなところにいるということかい?」
と言って、何となくであるが分かってくれていた。
そもそも自分たちは軍隊の一員なので、国民を守るのが責務である。いくら自分たちの時代の国民ではないとはいえ、同じ日本人が困っているのを黙って見ていられないのが、軍人魂だったのだ。
「よし、分かった。貴様の言う通りに動こうではないか」
と言って、主人公が作戦を立案し、いざ結構という時になって、事態が急変したのだ。
それまでの天気が急変し、嵐がやってくるようだった。それを見た主人公は。
「これは、こちらの世界に来た時に感じたあの天候にソックリではないか」
と思い、このまま進めばその嵐に突っ込んで、また前の時代に戻れるかも知れないと思ったのだ。
だが、果たしてそうだろうか?
「今度はまた違う時代に飛び出すかも知れない」
と思った。
彼は、その危惧を誰にも言わなかったが、実はその嵐が見えていたのは、彼だけであり、他の人には嵐が分からなかった。
あら足が近づいてきて、皆嵐に巻き込まれて舞い上がっていった。
しかし、主人公は嵐に巻き込まれることなく、まるで自分のまわりにバリアが張り巡らされているかのように、まわりの嵐の影響を受けることなく、まわりを他人事のように見ていた。
他人事と言っても想像を絶することであるのに変わりはなく、恐ろしいその光景をただ見ているしかなかった。助けることもできずに、時間が経つのをただやり過ごしているというだけである、
そのうちに、嵐は収まった。その場所はすさまじい嵐が過ぎ去った後が悲惨であったに違いない。
だが、その場所はまるで何もなかったかのように静まり返っていた。嵐が過ぎ去ったという悲惨な光景はどこにも見られない。
「夢を見ていたのだろうか?」
と感じたが、次の瞬間、
「そもそも、ここにいること自体が夢なんだけどな」
と感じた。
そして、軍隊全体が消えていて、自分だけがなぜかここに取り残されたのだ。
主人公は思った。
「もう一度タイムスリップが起こったんだ。そして、彼らは元の世界に戻れたんだ」
と思ったのだ。
三十年という時が経っているので、主人公はそれから三十年経てば、また彼らに遭えるのえはないかと思うようになった。
そして、何とかこの時代で生き抜くことに決めた。
「今は、十七歳だが、三十年後の四十七歳という年齢になった時、自分はどうなるのだろうか?」
と考えていたが、実はもう一つ大きな問題があることに、その時からは気付いていなかった。
普通なら分かるのかも知れないが。自分が当事者になってしまったことで、事の重大さに気づいていないのだろう。
というのは、
「自分が今十七歳ということは、今から十三年後、自分が三十歳になった時に、何が起こるのか?」
ということであった。
作品名:三者三様のタイムスリップ 作家名:森本晃次